元記事:幻想砂漠(仮題)の返信
ストーリーのほうを先に進めなきゃと思いつつ、せっかく良いアドバイスをいただいたのに放置するのもあれなので。意識した点は以下のとおりです。
・音を含め、もう少しリアルな質感を出すように
・導入なので、キャラクターの性格と背景をもう少し明らかに
・主人公がいずれ赴くであろう場所のヤバさを強調して、今後のストーリーに期待感を持たせる
・ひとつひとつのやり取りやアクションが味気なかったので、ちょっと増量
個人的な好みで言えばもっと書き込んでもいいのですが、今回はさくさくシーンを進めて、とにかくストーリーを追ってもらいたいので、これぐらいが限度でしょうか。
特にシーンのテンポや長さが適切かどうか(好みにもよると思うので、主観的な感想でも構いません)、ご意見をいただけるとありがたいです。
もちろん他のアドバイスもお待ちしています。
ひな型から余分を削ぎ落とした、整然としたオフィス。
革張りの椅子に深く沈み込み、クラウはいかにもやる気のない様子で、手元の端末をいじっている。
ふと誰かの視線を感じて、顔を上げる。
入室を許可した覚えもなければ、見たこともない少女が目の前にいる。
「腕の良い運び屋を探してるんだけど」
いかにも良いとこのお嬢様。〈レーヴ〉風の活発なパンツスタイル。
にこりともせず、深々と青い瞳でクラウを見つめている。
ちょっとしたホラーである。
が、裏稼業はビビったら負けだ。
人差し指でさりげなくデスクを二回叩く。こつ、こつ。
つとめて何事もなかったふうを装って、手元の作業に戻る。
「こっちが探してるのは依頼人だ。迷子じゃなくてな」
スクリーンの起動音。
再び顔を上げたクラウの目と鼻の先で、シティ・バンクの残高証明が展開されていく。
わざわざ数えるのも億劫になりそうな、天文学的数字の羅列。
名義人は、空欄。一般市民には縁のない、クラウからすれば見飽きた、大なり小なりの犯罪者御用達の裏口座。
ため息をひとつ。端末をデスクの上に投げ出し、面倒くさそうに少女を見やる。
「で?」
スクリーンが消える。
「セイクルスまで。期限は明後日の12時」
大陸の向こう側にある、海を望む大都市だ。
「北ルートなら5日、南ルートなら一週間。うちより早いところを見つけたら逆に教えてくれ」
少女は首を傾げる。
「なんでわざわざ遠回りするの?」
クラウは小馬鹿にしたように笑う。
「なんで?」
ぐるりと椅子を回して、背後にある大きな窓を振り返る。
そこに広がるのは砂が渦巻くばかりの荒野。悪意ある怪物のように蠢く。すすり泣きにも似た風切り音が、ガラス越しにかすかに聞こえてくる。
「どうして未開発領域があんな異様な風景に設定されてるか、知ってるか? まともな感性のやつが、ちゃんと二の足を踏むようにさ。あんなとこに踏み込んだら、二度と帰ってこれるわけがない……ってな」
少女はため息をつく。
「要するに、どういうこと?」
「〈レーヴ〉で未開発領域を横断しようなんてのは、白血球にアカウントをBANされたい自殺志願者か、不整合データに脳みそをぐちゃぐちゃにされたい変態だけだってことだ。……授業料はいらないぞ。ただの常識だからな」
少女はちょっと考えて、うなずいた。
「あなたには無理ってことね。他をあたるわ」
クラウの口元が引きつる。
が、すぐに余裕ぶった大人の笑みを浮かべ、
「まあ待て。とりあえず、理由を話してみろよ。俺だって鬼じゃない、次第によっちゃ相談ぐらいは乗ってやる」
少女がにやりとする。
「できないんでしょ? 悪いけど、私も暇じゃないの」
ログアウト。
少女の姿がかき消える。
ほっぺたを引っ叩きたくなるような、生意気な笑みの余韻を残して。
舌打ち。しばし中空を睨みつけ、
「エル」
じわりと滲み出すように、一匹の黒猫がデスクの上に現れる。
普通はもっと部屋の隅とかに隠れてるもんだろ、とクラウは呆れる。とはいえ、その大胆さに正当な実力の裏付けがあることは、相方としてもちろん知っている。
黒猫は楽しげに尻尾をひと振り。若い女の声で言う。
「ずいぶん面白い子に絡まれたね。相手する気がないなら、最初から入れなきゃ良かったのに」
「許可してない。勝手に入ってきた」
「あらら」
エルはひょいとデスクから飛び降りる。
足音もなく塵ひとつない床を行ったり来たりしながら、
「ごめんだけど、捕まえられなかった。というより……なんだろ、これ。ログ見るかぎりね、ダミーアカウントですらないみたい。でも、こんな完ぺきに痕跡を消すなんて、私でも……。あの子、ほんとに実在してるのかな?」
クラウはデスク上にスクリーンを展開する。
苛立たしげな音を立てて、めちゃくちゃなスピードでコンソールを叩く。
「馬鹿馬鹿しい。幽霊が〈レーヴ〉にアクセスできるかよ」
入退室ログ。
確かに、ゲストアカウントの記録はない。ざっと見たところ、不審な改ざんの痕跡もない。
エルが肘掛けに飛び乗ってきて、一緒になってスクリーンを見つめる。
手のほうは忙しなく動かし続けながら、
「そういやお前、やけに来るのに時間かかったな。かつあげでもしてたのか?」
トラフィックの監視ツールに質問を送る。
技術者資格を剥奪される前、まだ〈レーヴ〉の開発にいた頃に、白血球のソースコードをこっそりパクってきて流用したものだ。
「あたらないでよ。私はあなたの召使いじゃないし、追跡は専門外だし、頭を捻るのはそっちの仕事」
「さいですか」
回答。少女が現れる前と後で、不自然な通信量の変化はない。
クラウはぎしりと背もたれに寄りかかり、ため息をつく。
なるほど、彼女は本当に幽霊なのかもしれない。
ふと思いついて、自身の会話ログにコマンドを送ってみる。
0と1に分解された少女とのやりとりが、スクリーン上で再現される。
滝のように流れる文字を目で追う。
それほど期待していたわけではない。
が、その手がぴたりと止まった。
スクロールを逆転。
一時停止。
「……舐めくさってんな」
どれどれ、とエルが覗き込む。
まるっきり暗号めいた文字列の中に、それを見つける。
素人はもちろん、一流のプロですら見落としそうなほど巧妙なやり方で仕込まれた、砂漠の街の展望台を指し示す座標。
「次の面接会場ってわけだ」
エルはクラウを見上げる。目が笑っている。
「で、行くの? 行かないの?」
クラウは物も言わず、座標をダウンロードし、スクリーンを消去する。
目を閉じて、深々と息を吐く。
ややあって、
「ちょっくらおめかしするか」
そう言った。コンソールを押しのけて立ち上がり、そのまま出ていくのかと思いきや、窓のほうに歩み寄って、地平の彼方まで続く荒野を眺める。
第二の現実を謳う、人々の夢と夢を繋いだ仮想空間〈レーヴ〉。
クラウが自分好みに設計した、快適そのもののオフィスとは訳が違う。
そう。
窓の外に広がる砂が渦巻くばかりの荒野は、開発がクラッカー対策に放った白血球プログラムや、エラーまみれの悪夢の残滓がひしめく、前人未踏の未開発領域だ。
エルは少し首を傾げ、
「あら意外。やっとお金の大切さがわかった?」
「お前と一緒にすんな」
振り返る。
憤懣やる方なしという表情には、どこか期待するような色も混ざっている。
「乗るかどうかは俺が決める。いくら積まれようが関係ない。が、それはそれとして……」
再び荒野に視線を戻して、口の端を釣り上げる。
「クソガキにはお仕置きが必要だよな」
ログアウト。
上記の返信(幻想砂漠(仮題)の返信の返信)
スレ主 柊木なお : 0 投稿日時:
プロットの変更に伴い、全面的に改稿しました。
引き続き、アドバイスをいただけるとありがたいです。
==
電脳空間レーヴ。人々の夢と夢を繋いだネットワーク上に創られるのは、誰もが自由を楽しめる世界のはずだった。
※
「運び屋を探してるんだけど」
入ってくるなり、少女はそう言った。
ひな形から余分を削ぎ落とした整然としたオフィス。真ん中に置かれた幅広のデスク。
皮張りの椅子に沈み込んでいたクラウは面倒くさそうに顔を上げ、風変わりな闖入者を観察する。
ゆるやかなウェーブのかかった赤髪、いかにもお嬢様然とした雰囲気。
レーヴで流行りの活発なパンツスタイルは良家の子女には相応しくないかもしれないが、少女の勝気な瞳を見れば、それはそれで似合っていると言えなくもない。
すぐに興味を失って、手元の端末に目を落とす。
「こっちが探してるのは依頼人だ。迷子じゃなくてな」
スクリーンの起動音。
クラウの目と鼻の先に、シティ・バンクの預金通帳が展開されていく。
桁を数えるのも億劫になりそうな天文学的残高。
しかしそれ以上にクラウの目を引いたのは、左上に表示されている名義人の欄だった。
アリス=シャフト。
偶然ではないだろう。忘れもしない。シャフト社といえば、レーヴの開発に初期から関わっていて、今や世界有数の規模に成長した複合企業だ。
「それで?」
言いながら、デスクの引き出しに手が伸びそうになる。
そこには文房具でもグラフ用紙でもない、装填済みの五十口径が鎮座している。前の職場にいたときに詳しい同僚に聞きながら設計したもので、威力は折り紙つき。使いどころは難しいが、たとえば至近距離で誰かの頭を吹っ飛ばしたい気分になったときにはちょっと便利かもしれない。
少女――アリスは落ち着き払っている。淡々と依頼内容を告げる。
「セイクルスまで。期限は明後日の正午」
大陸の反対側にある、海を望む大都市だ。
「北ルートなら5日、南ルートなら一週間。うちより早いところを見つけたら逆に教えてくれ」
アリスは首を傾げる。その視線はクラウの背後に向けられている。
「なんでわざわざ遠回りするの?」
クラウはせせら笑う。
「なんで?」
椅子を回して、大きな窓を振り返る。
そこに広がるのは砂が渦巻くばかりの荒野だ。すすり泣きにも似た風切り音が、ガラス越しにかすかに聞こえてくる。
「どうして未開発領域がああいう風景に設定されてるか、知ってるか? まともな感性のやつが、ちゃんと二の足を踏むようにさ。あんな場所に入ったら、無事に出てこれるわけがない……ってな」
そう言って、アリスのほうを振り返る。
アリスは訝しげに眉をひそめる。
「よくわかんないけど。あなたには無理ってこと? なら他を当たるわ」
ひとつめ。生意気な少女の顔を胡乱げに眺めながら、そっと引き出しの把手に触れる。仏の顔も三度までだ。あとふたつ舐めた口を利いたら脳みそをぶち撒けてやろう、と心に決める。
どうせ夢の中だ。本当に死ぬわけではないのだ。ショックは本物だし、トラウマぐらいは残るかもしれないが。
「とりあえず理由を話してみろよ。相談ぐらいは乗ってやらんでもない」
「できないんでしょ? 私も暇じゃないの」
ふたつめ。
「できないとは言ってない。だが、うちの方針で客は選ぶんだ」
「報酬の話?」
クラウは鼻で笑う。
「何でも金で解決できると思ってるなら、さすがとしか言いようがない英才教育だな」
アリスはクラウをじっと見つめ、
「お金だけじゃないとしたら?」
「あ?」
「腕は一流だけど頑固だって聞いてたから。調べさせてもらったの、あなたの経歴。私はあんまり知らないけど、ワールドメイカー……だっけ? レーヴの開発部にいたのよね。で、不祥事で追い出された。そうでしょ?」
みっつめ、どころの騒ぎではなかった。
ワールドメイカー。今や世界中の人々が日常的に利用するようになったレーヴの基礎を築き上げ、その発展を担っている公認の技術者たち。かつてクラウが理想のために身を粉にして働いていた場所。
いきなり現れて、他人の過去に土足で踏み入る傲慢さ。ついでに鼻持ちならない大企業の娘となれば、気持ちとしては十回殺してもまだ足りないぐらいだ。
「失せろクソガキ。さもないと」
半ば本気で引き出しを開け、
「開発部に戻れるようにしてあげる。それが今回の報酬」
その手が止まった。引き出しを元に戻す。
「……なんだって?」
アリスは言う。
「もちろん、私自身に権限があるわけじゃないけど。それができる人に紹介してあげるわ。あなたが何をやらかしたのか知らないけど、多分どうとでもなるんじゃない?」
もちろんそのとおりだ。シャフト社の威光が通用しない場所など、現実世界にもレーヴ上にもそうそうない。だが、
「ガキの言うことなんて真に受けると思うか?」
アリスは肩をすくめる。
「信じるのも信じないのもあなたの勝手。これは純粋な取引だもの」
舌打ち。純粋な取引などこの世に存在しない、とクラウは思う。そこにあるのは打算と妥協と、歴然とした力関係だけだ。
「……エル」
クラウの呼びかけに応えて、デスクの真ん中の空気が揺めいた。しなやかな黒猫が滲み出るように姿を表す。完璧な迷彩。
「わ」
アリスが目を丸くする。先ほどまでとは打って変わって、年相応に隙だらけの表情を見せる。
黒猫――エルは尻尾をひと振り、広々としたデスクをとことこ横切って、端っこで置物のように丸くなる。顔だけクラウのほうに向け、
「お金がもらえるなら、私はどっちでも」
若い女の声でそう言うと、あとは任せたとばかりに目を閉じてしまう。
ため息をひとつ。
そんなふうに割り切った態度で物事を見ることができたらどんなに楽だろう、とクラウは思う。
ふとアリスのほうを見やれば、まだポカンとしてエルを眺めている。
なんだか急に毒気を抜かれてしまった。
「おい」
アリスが振り向く。
「さっきの話、本当だろうな?」
気を取り直したように、
「……もちろん。約束は守るわ」
クラウは背もたれに深々と身を沈めた。椅子を半分回して、窓の外に視線を向ける。
地平の彼方まで続く荒野。
目的地の街との間に横たわっているのは、ただの砂が渦巻くばかりの荒野ではない。開発部がクラッカー対策に放った白血球プログラムや、エラーまみれの誰かの悪夢の残滓がひしめく、前人未踏の未開発領域だ。
クラウはしばらく無言で荒野を眺め、悩みに悩んだ末に、ようやくアリスに向き直る。
まるで物怖じしない少女を見返して、投げ出すように言った。
「まずは打ち合わせから。契約の話はそのあとだ」
スレッド: 幻想砂漠(仮題)
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