小説のタイトル・プロローグ改善相談所『ノベル道場』

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機動装鎧トルクギア冒頭部分改稿版

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スレ主 大野知人 投稿日時:

 昨日、『小説の批評依頼!』の方に出した小説の冒頭部分について意見を頂いて、まだまだ意見が出そろってはいない状態なのですが、前々から気になっているところが数点あったので、冒頭部分の作り直しについて特に意見を賜りたくスレッドを立てました。
 タイトル通り、昨日中にもらった意見を反映して描き直したつもりです。なお、235ページ原稿の約40ページ分、1万7千文字/10万文字といったところです。でも、全文の許容量が1万文字までなので、お手数ですがURLからお読みください。

 あと、自分のタイトルセンスが破滅的な自覚はあるので、アイデアを募集します。

 なお、以下は昨日中に意見をくださった方に対して書くメッセージですが、一部キャラの登場やシーン・描写過多削減して本筋への入りを早めた形のものです。

プロローグ

 人気のない荒野に、ガコンガコンと金属がぶつかり合う音が響く。
その音は、十メートルほどもある人型の鎧が建物を分解し、そうして出てきた屑鉄をそりのような荷台に投げ入れる音であった。
「今日はこんな所かなァーと!」
 巨大ゴーレム――GG(ギア・ゴゥラム)のコクピットで操縦桿を動かしながら少女が声をあげる。名前はライカ。十五になったばかりだが、学校なんて物は無いこの緩衝地帯の荒野ではもはや一人前の仕事人だ。
「ここの基地は一通り漁ったしなァ……。そろそろ狩場を変えるか……」
 ぶつくさいうライカは年若い少女ながら、そのGG操縦は堂に入ったものである。
「ケーッ! GGの一台、銃の一丁もねェでやんの。しけてやがる」
 文句を言ったって、三カ月にも渡って彼女が盗掘に来ていたのだから、残り物が無くなるまで掘り続けた彼女の自業自得である。
「いじゃア、今までお世話になりました、ッと」
 軽くGGの上体を曲げて遺跡から出る。一応、礼儀というものを知っている娘なのだ。今となっては跡形すらないけれど、場所そのものに向かって彼女は頭を下げていた。
「にしても、ここの基地は稼げたよなァ……」
 この規模の基地にしてはという条件付きであるが、比較的状態のいいGGが三機に、指揮官室に残されていた徽章などの貴金属類、更にはまだ使える整備用の道具など。
 色々なものが放っぽられていたお陰で、この三カ月食い繋いでこれたのだ。散った者が居るというなら哀悼の一つも示すが、それ以上に『飯のタネ』としての感謝が大きい。

 ブオンブオンと風を切る音がコクピットの中からでもよく聞こえた。
「しっかし、どッこもかしこも惨澹としちゃって……。ま、生まれた時からだけど」
 戦争が激しくなったころに生まれ、物心つく頃には難民キャンプにいたライカにとってはこの光景こそ常である。『惨澹とした』なんて言えるのは義理の親である酒場の女将さんが聞かしてくれたおとぎ話のお陰だ。
 地べたを見ると、あちこちに民家の跡らしき木片や畑があっただろう微かな溝が散らばっていた。すでにその跡すら消えかかっているのが、かつての戦争を物語っている。
「……ハァ。明日から、どうしよ」
 貯えがあるとはいえ、半年ほどで使い切る。その前に次の狩場を掘り当てねばなるまい。地平の向こうに見えてきた生まれ故郷の町へ、ライカはペダルを踏んだ。

「たァだいまァー!」
 『町』に着くなり、彼女が愛機を飛ばして向かうのは町の西にある大広場。昔軍で働いていたという数名の査定屋が、拾ってきた戦利品を買い取ってくれるところがあるのだ。
「おっちゃん! 今日も査定を頼めるかィ!」
 自分用のスペースにGGと荷台を止めると、コクピットを開いて声を張る。
「おいおい、また盗みですか?」
 聞きつけて寄ってきた男をGGのマニピュレータで掬い上げて荷台の上に乗せると冗談と共にトホホと表情を崩された。
 彼の名はトーマス。町一番の博識の査定屋にして、顔役の一人でもある。ちなみに年のころは二十五と、おっちゃん呼ばわりが地味に辛かったりする。
「盗みって言い方は人聞きが悪いじゃアねェの、おっちゃん。盗掘屋であっても盗賊じゃねぇ。それがアタシのポリシーだ!」
 山と積まれた鉄くずの傍で胸を張って少女は言うが。
「盗掘だって盗みですよ……。とはいえ、お前(まい)さんがたが居るからこの町は成り立っているんですけどね。荷台を見さしてもらいますよ、っと」
 『町』なんて呼ばれてはいるが、ここもかつての難民キャンプの一つ。
 それが町と呼べる規模にまでなったのは、クズ鉄を回収して正規軍に売り払い、そのお金が街を潤したお陰だ。なので、盗掘屋はこの町には無くてはならない存在である。
「ありゃ、正真正銘の鉄くずばっかじゃないですか! 何かありましたっけ?」
 割合勘が良いライカはこの町の盗掘屋の中でも屈指の稼ぎを誇っていたが、ここ数日は大したものを持ってこない。そのことに不審を感じてトーマスは問いを発した。
「いやいや、ここのところ世話になっていた『狩場』が引き揚げ時でね。屑鉄ごっそりかき集めてきただけだよ」
 それなら確かに納得がいく、頷くとトーマスは査定書といくらかのを渡した。
「ちょっとばかし色を付けておきましたよ。……はい、これ。今日は打ち上げでしょ?」
 ビジネスライクな会話をしつつも、ライカが幼いころからの知り合いであるトーマスは少しの小遣いを握らせるとライカは笑顔を浮かべて去っていった。

「さーてと、どうしたモンかねェ」
 翌日のライカ。今は次の狩場を探してGGでお散歩中である。
 ちなみに、『戦時中の地図は?』と思うかもしれないが、建築用としても優秀なGGで小規模な基地やトーチカを立てまくったせいで、当時の地図はあまりアテにならない。
「あーッと、そろそろ『境界線』だな」
かつて戦っていた二軍の最前線跡が、もう間もなく。今は戦争で荒れた広い土地を緩衝地帯にしているが、その緩衝地帯に存在する唯一の貴族領・戦時中に中立を保っていたテレーヌ領がもうすぐそこである。そのことに気づいて、ライカは踵を返す。
「領軍の連中に目ェつけられると厄介だもんなァ……」
愛機を百八十度回転させたところで、太陽の位置と時間から自分が南西に進んでいたことを悟った。
「って、アレ!?」
 そこで、ライカは視界の端に妙なものを見つけて機体を止める。
 土煙だ。規模からして、GG数機だろうか? 群れてこちらへと向かってくる。
 それを見て、正義感の強い彼女は相反するような好戦的な笑みを浮かべた。
「盗賊かァ……。アタシの荒野で人を襲うなんざァ、良い胸してるじゃアねェの!」
 盗掘屋同士は稼ぎが減ることを嫌って滅多に組まないから、盗賊で間違いないだろう。
 今日はもう帰ろうかと思っていたが、予定変更。
「幸い、荷台は外してきてるしなァ!」
 狩り場探しだけ、と予定を決めてきていたお陰か今日の彼女のGGは身軽である。
 向こうのGGも土煙程度にしか見えない距離だから、身を隠して躱すという手段もあったのだけれど、ライカは生憎と我慢弱い性質であった。
 ある程度資産があって整備できるため、D85番地のGGはそこらの盗賊より数段マシなスペックである。数が少なければ、いや多くとも倒す自信が彼女には有った。接近しつつ、カメラの倍率を上げて偵察する。
「しっかし、この辺りにあんな連中居たかねェ? ……アタシのと同(おんな)じ『ゴブリン』一機に、『ヘルム・ギア』二機かィ。武器は結構有るじゃアない」
 GGは不揃いで移動速度からしてもロクに整備もしていないようだが、武器の数だけは有った。後ろの二機はバズーカやら、マシンガンやらを積んでいる。手前の機体の武装は少ないようだが、それでも小銃と、接近戦用の斧を持っている。
「こっちは軽装だが、負けるつもりはないぜィ!」
 治安の悪い荒野を行く都合上、マシンガン一丁に近接用のナタを二つ、ライカも持っていた。機体に傷を付けてトーマスに叱られるのは怖かったが、久々の実戦に彼女はワクワクしていた。
と、その時。まだ射程外だというのにタァン! と音が響く。
「って、撃ったァ!?」
 撃ったのはヘルム・ギアの一機である。狙撃銃でもギリギリ当たるかという距離だというのに。そう思ってスコープを覗き込んだ時、ライカは微かな違和感に気が付いた。
「アタシの方じゃねェ。もしかして、前方にいるゴブリンを狙ったのかィ!?」
 同士討ちかとも思ったが。よく見れば、後ろのヘルム・ギア二体が所属を表すように赤いバンダナを巻いているのに反して、ゴブリンはそうでない。
「あっちが二グループとするなら、追われてるのはあのゴブリンか」
 であれば、囮にして逃げよう。そういう考え方はライカにはなかった。むしろメラメラと闘志が燃え上がった。
「二対一とは、卑怯じゃアないのさ!」
 自分が三人がかりで終われるというならそれも良かったが、他のヤツが多勢に無勢で襲われているのは見逃せない。ライカはそういう少女であった。
「手助けしようじゃねェの!」
 ヒロイックな願望に浸ってか、無自覚だった笑みを深めた彼女は威勢よく反転する。
 幸い、連中はこちらの方向へ移動しながら戦闘しているお陰で、ライカが駆けつけるまでには一分足らず。
「あー、あー。聞こえるかィ!?」
 ヘルム・ギアの突撃銃の射程に入らないくらいの所で、無線で交信を試みる。
「んだってんだよ! こっちは今忙しいんだよ!」
「テメェも殺されてぇのか!」
 先に繋がったのは盗賊の方。威嚇代わりに鉄砲を撃ってくるのを片手間に避けつつ、ライカは無線を調整した。見る人が見れば、それだけでもライカの技巧に唸ったであろう。
「おい、逃げてる方のアンタ! 聞こえるか!」
「ザッ……、ザザッ! ああ。聞こえてるよ」
 応じたのは青年と言うには渋い男声。
元は軍人だったのか、追われているというのに、落ち着いている。近づいてみて分かったことだが、彼のGGはあちこちに欠損があり、そんな機体で危険な荒野を横断しようという彼の豪胆さが窺い知れる。
「アタシはアンタに加勢する。事情はよく知らねェが、どう見たって被害者だしなァ!」
 ざっくり言い終えると、武骨に丸みを帯びた己の機体を荒野に躍らせて銃を構えた。
「行く、ぜェ!」
 逃走中のゴブリンとの短い会話の後、スラスタを全開に吹かして一気に接近する。
 盗賊の二機の射程に入っても、構いやしない。避ければいいのだから。そう言えるだけの反射神経と動体視力、そして操縦技術をライカは併せ持っていた。
ジグザグと進んで、持っているマシンガンの射程まで接近する。
ベテランゆえの丁寧な操縦で、華麗に弾丸を避けた。
「喰らっちまいなよォ! クソッタレどもが!」
「嬢ちゃん、言葉遣い荒いねぇ!」
 横手に張り出すようにして、敵のヘルム・ギア二体へのバースト射撃を敢行するライカを、防勢から反転したもう一機のゴブリンが素人ならざる丁寧な射撃で援護する。
「舐めてんじゃねぇぞ、コラァ!」
「オレ達を敵にして生きて帰れると思ってんのか、ゴラァ!」
 負けじと敵側もアサルトライフルやマシンガンを乱射するので、散開して避けた。
「おっちゃん、アタシが前に出らァ!」
「おっちゃんじゃねぇ、ジェイクと呼んでくれ」
 ジェイクもまた相当な腕利きなのか、ライカが前に出ることに文句は付けない。
「んじゃア、ジェイクさん! 援護頼むぜィ!」
 中距離戦の間合いを保ったまま二手に分かれたライカとジェイク。
 リロードの隙をついて接近したライカに合わせるように、ジェイクは反対側に回り込むようにしてマシンガンで援護する。その動きはスラスタ移動中とは思えない程に精密だ。
 弾数が少ないのか、はたまた不調(ジャムっ)てるのか、発射音は散発的だったが、その状況でもなんとかやりくりして、的確に敵を妨害していた。
「GGで格闘なんて、できるものかよ!」
「この素人が!」
 近づくということはそれだけ避ける余地が減るということだ。盗賊たちは馬鹿にするように呟いて、接近するライカへと銃を乱射する。それをなおも躱す、躱す。
「素人だって? たかだか盗賊ごときがこのアタシを舐めんじゃねェよ!」
接近しすぎて避けづらくなるや、ライカは銃を横にして盾にしながらなおも接近。カンカン、と言う薬莢の撥ねる音に合わせて銃がひしゃげ、ライカのゴブリンの装甲に傷が刻まれる。
「馬鹿が、このまま死ね!」
 あと数秒も持ちはしまい。そう確信した盗賊が、操縦桿を深く握りこんだ時。
「この間合いに限っちゃ、別だけどね!」
 ライカはニィと不敵に笑って、マシンガンを投げ捨てて上体を倒す。空気抵抗を下げての、更なる加速。ライカは腰裏のナタを引き抜き、斬り付ける。
「うぶぉわ!」
 神速の踏み込みは、寸前に放たれた銃弾に背を向けてすれ違うように進んだ。
 驚きと共にコクピットの中でのけぞった盗賊が、咄嗟に操縦桿を引いて間一髪で躱す。
「ヒュー。一撃目を避けるたァ、いいね。そう来なくっちゃあ!」
 やはり自覚なく、好戦的な笑みを浮かべたライカ。その時。
「嬢ちゃん、殺すなよ!」
 何を思ってか、ジェイクが声を挟んでくる。
 格闘レンジでの一発はほぼ致命傷。一瞬を競う命のやり取りに、あまりな一言だが、
「わァってるよ!」
 何故だか既に確信していたように短く返して、盗賊に再接近。
 声に滲むは、この射程でなお不殺を貫けるという自信と覚悟か。
「らァ!」
 後ろに跳ぶ盗賊より、前に進むライカの方が早い。
「ん何ぃ!」
盗賊が悲鳴を上げる中、抉りこむようにU字にコクピットのまわりを切り裂き、機能停止に追い込む。
エンジンも傷付かず、パイロットにも被害を出さない。針の目を射抜くような芸当であるが、それをできるだけのGG操縦の才能と『目』をライカは持っていた。
「んにゃろッ!」
 残ったもう一人が怒ったような声をあげて銃口を向けて来るが、既に遅い。
「トロいんだよォ!」
 先に破壊した機体を盾にするように回り込んだライカが、横を抜けて突っ込む。
「これで、トドメだよッ!」
 今度ライカが狙ったのは頭部。ゴーレム魔法の一種であるGGは、『人に寄せることで動く魔道具』であるゆえに、頭部の魔道基盤を破壊されると動けなくなるのである。
「ラァ! 落ちろ!」
 右手を横に振り切った刹那、敵の頭部で小爆発が起こった。

「さァて、と。とりあえず自己紹介からってところでいいかィ?」
 日頃荷台をまとめるのに使っているワイヤーで、盗賊のヘルム・ギア二機をまとめ上げてからライカはコクピットを開けてジェイクに話しかける。
「そういや僕(ぼか)ぁ嬢ちゃんに名乗ったけど、名前は聞いていなかったっけぇね?」
「アタシはライカ。孤児だから苗字はないよ。D85番地と呼ばれる町で盗掘屋の仕事をしている」
「D85番地ねぇ……? 聞き覚えがあるぜぃ。結構な速度で復興してるんだっけ?」
「ああ、アタシらが掘り起こした武器やGGを売ったり、或いは屑鉄を加工して生活に役立てているお陰でね。生きて行くには困っちゃいない」
「なるほど、中々良い『町』じゃないか」
 ジェイクが町という言葉に込めたニュアンスは、『どうせ規模のでかい難民キャンプだろう』と言う侮ったものであったが、気付きつつも気にせずライカは続ける。
「で、ジェイクさん。名前以外にも教えてもらえるかい?」
 これはライカ自身が、ある程度の実戦経験を積んだGG乗りで有るからわかることだが、このジェイクという男はとても強い。
 初めて出会ったライカとのコンビネーションといい、ボロボロの機体であれだけ動かせていた事といい、極めつけは『殺すな』が通じるライカの技量を見抜く目であろう。
これでただの一般兵を名乗るなら、戦時中はとんだ修羅の国であったことになる。
「あぁ、失礼したねぃ。革命軍第一軍はアブレウ大隊所属のジェイコブ・アリソン大佐であります! ……ってぇのは五年ばかし古いな」
 ふざけたような敬礼で呵々と笑った後、男は無精ひげの顎を撫でて言った。
「僕ぁ、ただのジェイクでいいよぅ。旅人のジェイクだ」
「軍は辞めたってことかい?」
「ああ、辞めたね。ついでに人殺しもやめた。どうにも臆病なもんでねぇ、きっと気性に合わなかったんだろうさ」
 人殺し、そう言った時にわずかに表情に影を落として、しかしすぐにジェイクは剽軽な表情に戻す。妙に他人事のような言い方もまた、ふざけた様子に拍車をかけていた。
「というか、嬢ちゃんこそよく咄嗟に受け入れられたもんだねぇ。『殺すな』なんて、この『空白地帯』じゃあ言われないだろぅ?」
 そう尋ねる彼に、ライカはすこしムッとした表情で首を横に振る。
「殺すのは流儀に反するもんでね。『盗掘』であっても『盗賊』じゃない。やむを得ない状況でもないってんなら、『殺し』も『見殺し』もまっぴら御免だね」
 どこかプライドのある口上にジェイクはシンパシーを感じて、頭をかいて謝る。
「悪かったよ、甘く見てた。嬢ちゃんのその信条のお陰で僕も助かったってぇ所だな」
「よく言うぜ、ジェイクさん。アンタの腕ならどうとでもなったろうに」
「僕もどうにも、殺すのは好かなくてねぇ」
 もちろん、『殺して』良いのならジェイクが切り抜ける方法はいくらでもあった。ただ、それができないのが彼の弱みなのだ。
 後ろから追ってくるGGに撃ち返さなかったのは、『当たらないから』ではなく『万が一にもコクピットに当たりかねないから』である。それが、臆病という事。
「だから、事実だよ。嬢ちゃんの信条に救われたのは、紛れもないのさぁ。ありがとう」
「いやいや、アタシのも実のところ受け売りだけどね」
 今度はライカが頬を掻く番であった。舐められるのは気に食わないが、褒められると気恥ずかしい。なかなか難しい年頃である。
「受け売りってぇ言うと、誰のだい?」
「……名前は知らないし、顔も覚えてないけどね。昔アタシを助けてくれた人。終戦直後の動乱の中で命を救ってくれて、『D85番地』まで連れてきてくれた軍人さん」
「へぇー。ピンポイントな言葉だけ、よく覚えてるモンだね」
「いや、覚えてたのは育ての親の酒場の女将さんさ。アタシは後から聞いただけ」
「そいじゃあ、受け売りの受け売りじゃないか」
「上手いこと言うねェ、ジェイクさん。……ところで、『人殺し』が苦手な御仁がこの荒野で一人旅をしているなんて、一体どうしたってんだい?」
 この荒野の治安はお世辞にもいいとは言えない。
戦闘面で大きなハンデを負っているジェイクにはお世辞にも易い道ではないはずだ。
「少し、探し物をしていてな。もしよかったら、D85番地に寄りたいんだが?」
 何か隠しているような言い回しでもあったが、『殺すのが怖い』という言葉には真実味を感じたライカである。人的被害の出るような厄介事にはならないだろうと判断した。
「いじゃア、行こっか!」
 日が傾むくにも早い時間に、それぞれにGG一機ずつを背負って町への帰路についた。

「ライカちゃん、GG二機はそこら辺に下ろしといてくれます?」
 ライカたちが町について最初にやったことはジェイクが敵ではないと伝えることと、背負っている二機のヘルム・ギアの中に捕らえた盗賊が居ると伝えることであった。いや、その更に前に予想外に大きかった街に驚いていたジェイクに喝を飛ばすのが先か。
「初めましてですね、旅人さん。オレはこの町のまとめ役の一人みたいな事をさせてもらってます、トーマスです。名前を聞いても?」
「初めまして、トーマスの旦那。僕ぁ、ジェイコーーもとい、ジェイクと言う。職業は、見ての通りの旅人さ。しばらく世話になるが、よろしく頼むぜぃ?」
「ああ、ジェイク。よろしくお願いします」
 お互い名乗ってから、トーマスが空いている隙間へと誘導し、彼のGGを停めさせる。
「ところで旦那、一つ確認したいんだが。いいかい?」
「ああ、質問は構わないですけど。旦那ってのはどうにもむず痒いので、よして下さい」
 確かに少し妙な言い様であった。大体同じくらいの年ということもあって、トーマスは少し不満そうな仏頂面である。
「すまんね。ちょっとしたおふざけだ。気を付けるよ」
「そうしてくれると助かります。……で、質問ってのは何ですか?」
 トーマスが問うたのに対し、ジェイクは神妙な顔で告げる。
「その、捕らえた盗賊のことなんだが。殺したりとかは、しねぇよな?」
「妙なこと聞く御仁ですね。まあ心配しなくても、『迷惑料むしり取る』ってとこまでがウチのルールです。再犯なら色々考えるけど、人的被害が出てないなら命は取りません」
 ライカと同じようなことを言うトーマスに、ジェイクは表情を緩める。
「そうか、ありがとう」
 ジェイクが心底ほっとしたように呟き、胸元のあたりを抑えるのを見てトーマスが奇妙に思っていると、GGを縛っていたワイヤーを回収したライカが横合いから口を挟んだ。
「おっちゃん、ジェイクさんは戦時中のトラウマだか何だかが原因で、『殺す』ことに抵抗があるんだとさ!」
「はぁ、お前さんも大変ですね。よくも無事でここまでいらしたもんです」
 言われて気恥ずかしがるように首筋を掻くジェイクを見て、『むしろ殺さず無力化する腕が恐ろしいとも言えるな』と思いつつ、トーマスは彼に街を案内し始めた。

「へぇー。いい町だねぇ」
 一通りの案内をしてもらったジェイクは、酒場でトーマスと一息ついていた。
 彼の嘆息は本心から来るものであった。町を守る長大な外壁。たった数百人とはいえ、まともな家に住む人々。十分、戦前の小規模な街の姿へと復興を遂げていたからだ。
 外壁がやけにデカいのだけは妙に気になったが。
「終戦から五年、その全部を復興につぎ込んでいればこれぐらいにはなるモンですよ」
 こともなげに言うが、トーマスの膨らんだ小鼻は自慢げな様を隠せていない。事実、この町への彼の貢献はとても大きいのだ、町を褒められることは何よりも嬉しい。
「しかし、終戦直後から人々が団結できてたなんて、余程の事情があったのかい?」
「一応言っておくと、この町じゃ終戦以前のことを話すのはご法度なんですが……。大した理由はないですよ、ただオレ達はたくさんの孤児を抱えていましてね。子供たちの前で大人が醜い陣取り合戦をするわけにもいかなかったから、陣営問わずで団結できました」
「ヒュー。かぁっこいい」
「からかわないでくださいよ」
 そのやり取りは、ともすれば十年来の友人同士のよう。いや、そう見えさせるだけのトーマスの包容力が、この町を作り上げたのかもしれない。
「ともあれ、ウチの街はこんな感じです。そろそろ、オレは仕事に戻るとしますよ」
 これでも忙しいのだ、そう言ってトーマスは己の肩を揉む。
「トーマスか。それでメカニック……。トムス・アレイ? 考えすぎか」
 背中が見えなくなってから呟き、記憶を漁ってジェイクは首を振る。
 彼が呟いた名は、かつて敵対していた『維持軍』でも第一人者と呼ばれたGG技師にして、維持軍の英雄的GG・トルク・ギアのメインメカニックでもあった若き天才である。
「いやいや、あの男がこんな辺境にいるはずもない」
 もしそうであったなら、『探し物』の重要な道しるべとなったであろうに。
「ま、今更探したところでどうなるもんでもないがな……」
 それでも探したいものが彼には有る、だから無理して荒野まで来たのだ。
「まぁ、僕のGGもボロボロになっちまったし……。しばらくここに居ますかねぇ」
 口にして、トーマスが奢ってくれたコーヒーを飲み干す。なぜかとても、不味かった。
「飲めたもんじゃねぇなこれ!」
 本当に酷い味である。その不味さに諸々を忘れ、ジェイクはしばらく夕日に見入った。

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