深緑の第3話 全4話で完結
深緑の第3話
作者 あおとら 得点 : 3 投稿日時:
「……今、なにを思った?」
「えーと。40年前に消えた列車が、この列車だったらどうしよう……」
「あるわけないって」
紫鏡の言葉を笑い飛ばしたが、文月は車窓に近づいた。
景色がいつもと明らかに違っていた。そして、疑問はもう一つ。
「なあ? もしその推測が正しかったとしたら、俺たちは一体どこへ行くんだ?」
「よ、40年前?」
「………………」
沈黙していると、急に列車のスピードが落ち始める。二人は顔を見合わせ、列車の扉へと近づいた。
「どいてくれ、どいてくれ」
その後ろから、妙に古めいた衣装を着た、恰幅の良い男性が走ってくる。
「あ、あの!」
「文月、やめようよ? 知らない人に声をかけるのは」
紫鏡に静止されるが、文月は男性に再び声をかける。男性は髭をいじりなら、振り返った。
「おやおや、珍しい。見慣れぬ子供が、この列車に乗り込んでおるよ」
「……あの。この列車はなんなんですか?」
「知らぬで乗ったのか? この列車は時間の狭間を行き来する、時間列車。行きたい時間に連れて行ってくれる、特別な列車だ」
「行きたい時間?」
それなら一つだ。僕は自分の生きてきた時間に帰りたい。
「僕は、自分が今までいた時間、2018年に帰りたいです。どうすればいいですか?」
「簡単なことよ。ただ強く念じればいい。念じれば、そのときに戻れるさ。しかし……」
男は片目をつぶって、苦笑した。
「後ろの女の子は、それを望まぬかもしれぬな」
「は?」
「おや、それも気づいていないのか。その子は、君とは違う時を生きる少女だ。そうだろう? 紫鏡?」
「なにを言って。それに、なんで、紫鏡の名前を知って……」
男の言葉に驚き、文月は紫鏡を振り返る。
「紫鏡?」
「あーあ……バレっちゃった、か」
紫鏡はどこか悲しそうに笑って、文月から一歩離れる。
「そうだよ? 私は40年前のこの列車に乗ってしまったの。それで時限の狭間に取り残されたと勘違いして、パニックになって車窓から飛び降りた。そうしたら、2017年の文月がいる時代に、来てしまったんだ」
「……冗談だろ」
「ここで冗談なんて言わないよ」
「だって、お前の両親に俺は会ったことあるし」
「両親はいい人たちで、困っている私を拾ってくれたんだ」
たしかに紫鏡と会ったのは、1年前だ。ある日とつぜん、転校生として彼女はやってきた。
しかし、だからといってそんな話……
「信じられないよ」
「信じなくてもいい。私は、40年前に帰る」
紫鏡はにっこりと笑った。
「ねえ、文月? いっしょに行こう?」