深緑の第4話 全4話で完結
最終話・深緑の第4話
作者 讃岐たぬき 得点 : 2 投稿日時:
時は流れ、ある夏の日。
「この辺りは、いつになっても変わらないよね」
電車から降りた少女は、ひとりつぶやく。
「こんにちは」
誰もいない田んぼ道に、一人の女性の姿を認めて、少女は挨拶をする。
「あらこんにちは。見かけない子ね?」
「ええ、私は……」
「紫鏡、ごめん」
40年前に行こう。紫鏡のその提案に、文月は頭を下げた。
「前にも言ったけどさ、俺は大学に行ったら、人工知能の研究がやりたいんだ」
「そうなると、2018年じゃなきゃ、だめってこと?」
「40年前じゃ、人工知能を動かすためのコンピュータの性能なんてたかが知れてる……いや、本当にバカみてーな話だよな。そんなことで、お前をみすみす過去に置いてきちまうってのは」
「ううん、そんな……」
自嘲するように笑う文月に、肯定も否定もできないまま、紫鏡は顔を歪める。
行きたい時まで連れて行ってくれる、時間列車。けれども2人は、目的地が違った。
沈黙が、流れた。
「いや、待てよ……時間列車、そういうことか!」
「どうしたの?」
紫鏡の瞳が、外に広がる田畑の緑を受けながら、戸惑いにゆらめく。
「俺のこと、信じて欲しい。決して、長く待たせたりしない」
そう告げると、文月は彼女の頬に、優しく手を置いた。
「私は『芽衣子』。初めまして、紫鏡さん」
「まーた、そんなにかしこまらなくていいのよ、さっ、来て」
紫鏡に連れられて、芽衣子は蔵造りの屋敷の門をくぐる。
「よお、まさかとは思っていたが、よく来たな!」
そこで待っていたのは、紫鏡と同じ年頃の青年、文月だった。
彼は時間列車で2018年に戻り、40年間研究に励んだ。そして2050年代に実用化された肉体の若返り技術を用いて、列車で別れたあの日の姿で、次の時間列車に乗り込むと、1978年の紫鏡に「すぐに」追いついたのだ。
「私だって……文月教授を父親みたいなものだと思っていたのです」
芽衣子は頬を膨らませる。彼女こそ、文月が開発した人工知能搭載ロボット、その思考も動作も、人間と何ら変わりない。
彼女は更に40年先から、文月に約束した通り追いかけてきたのだ。
「それに……言っていた通りですね、この地が、ずっと変わらないこと」
「ああ、そうだな」
「そうね」
いつだって変わらない夏の風景が、3人の前に広がっていた。