314の死と再生
作者 不二才 得点 : 1 投稿日時:
「お兄ちゃん! 起きれる? もうとっくに朝だよ! お兄ちゃん!」
妹の声。明の声だ。
いつもの自分のベッド、春休みだからと惰眠を貪る朝。俺にとってありふれた平穏な日常。
しかし、今朝は格別に長く眠っていた気がする。もしかしたらかなり寝坊して妹達に迷惑をかけたかもしれない。
ちょっとばつが悪い気がするが、妹相手に別段悪びれることもなく、俺はゆっくり上半身を起こしつつ目を開けて一つ年下の可愛い妹に挨拶する。
「おはよう。明……」
俺は見馴れたはずの妹の顔を見て、まるで魅力的な異性と鉢合わせたかのようにドキッとした。
贔屓目に見なくとも美少女と言える妹の明の化粧っ気のない顔。それが妙に大人びて、こんなに美人だったのかと困惑するくらい鮮烈に視覚刺激となり、俺はついまじまじ見つめてしまう。
そして、明もまた戸惑いは表情をして俺と顔を見合わせると、恐る恐るという感じで問いかけてきた。
「お……お兄ちゃんだよね? 元のお兄ちゃんに戻ったんだよね……?」
「も……元のって何だよ? 俺は別にどうもしてないぞ?」
俺の返答を否定して、明はぶんぶんと首を横に振る。
「どうかしてたよ! この3年、お兄ちゃんはまるでロボットみたいに喜怒哀楽が無くて『はい』『いいえ』しか喋らなくなってたんだから!」
「えっ……?」
そんな馬鹿な。
3年って何だよ?
でも、少し涙ぐんだ目で俺を見つめ肩を震わせている明の表情は真剣そのものだ。
それに明は顔立ちが大人びて見えるだけでなく、ボブカットだった髪がセミロングになってるし、体つきも大人っぽくトレーナーを着た胸の膨らみは大きく成長しかなり巨乳になって見える。
まさかマジで3年も経過したのか?
「えっと……、今日は何年何月何日で……俺は何年生かな?」
「2018年の3月14日。お兄ちゃんは聖ヨハネ高校2年生で、私は聖ヨハネ高校1年生。朋は東村山中学3年生だよ」
「マジか……」
俺の一番最近の記憶では、俺は東村山中学2年で明は1年。確かに聖ヨハネ高校を第一志望として受験勉強してたけど、かなり勝算低めだったし、何より3年生の記憶や試験を受けた記憶が無い。
それなのに、俺の部屋の壁に掛かっているのは紛れもなく聖ヨハネ高校の男子の制服だし、そこにあった筈の中学のの制服は無い。妹の明と朋の性格からしてもわざわざ聖ヨハネ高校の制服なんか持ってきて俺を騙すとは思えない。
これが現実だとしたら俺は3年間も別の人格だったのか?
俺の一番最近の記憶。眠る前の記憶を思い出してみよう。
3月、春休みだというのは今と一致する。それに、14日 ホワイトデー。あの日、俺は……。
思い出した。
あの日、まず99%義理だと思いつつも、バレンタインにチョコレートをくれたクラスメイトの芙蓉寺魅姫を「大事な話がある」って呼び出して告白ーー
ーー玉砕したんだった。