灰空ときどき死神〜ぼくが生きた7日間〜の第3話 全4話で完結
灰空ときどき死神〜ぼくが生きた7日間〜の第3話・C
作者 ショウリ 得点 : 1 投稿日時:
「その人はね、いっぱんびょうとう? に入院してるの」
猫舌らしくホットココアをちびちびと飲みながら、ヒトミは『見てほしい人』のことを教えてくれた。
相手は年上、高校生くらいの男の子らしい。何かの病気でヒトミと同じ日に来院し、そのままそろって入院したという。
「一般病棟なら隔離とかされてないんだし、本人に聞けば名前くらい教えてくれるんじゃない?」
「むり」
「無理なんだ……」
即答して、彼女は自分の白い髪を撫でた。
「私、あんまり第一印象よくないし。なんか死神みたいで」
「死神、か」
それでもなんとかしたいと、人に声をかける練習をしているのだという。僕に声をかけてきたのもその一環みたいだけど、その相手が『死神』だったのだから皮肉なものだ。
「で、僕にその人のことを調べてほしいんだね?」
ぬるくなりはじめたココアを握りながら、ヒトミは小さく頷いた。
おおよその事情は分かった。僕にはなかった、中学生の初々しい恋物語というやつなのだろう。本だけはそれなり読んでいるから知識としてはそれなりにあるのが幸いだった、実在するなんて思わなかったけれど。
「それで、その人ってどこにいるの?」
「……もうすぐここを通ると思う」
「ああ、そういう……」
運動不足解消のために敷地を散歩する人は多い。せめて姿を見ようと彼の通るコースで待っていたのだろう。
「でも、それだと僕といるところを見られるのは印象的にどうなんだろう」
「あ」
折がいいのか悪いのか。ちょうど花壇の向こうから現れた少年が件の彼らしい。あたふたとしだしたヒトミから少し距離を置きながら、僕はみょうに納得した。
「……本当に物語だね」
少年の体には、腐臭すら漂うようなどす黒い靄がまとわりついていた。
「……盲腸炎?」
その日の夕方。検診に訪れた先生に彼のことを――少しだけどヒトミのことも――話した僕は、帰ってきた返事に拍子抜けした。
「念のため早めに入院してもらってるけど、ただの盲腸だからね。六日後が手術だから来週には退院だと思うよ」
ヒトミちゃん、うまくいくといいね。そう言い残して部屋を出た先生を見送り、僕はひとつの可能性を考えていた。
盲腸の手術で死ぬなんて今時そうはない。
でも死期は見えた。それも手術当日に合わせて。
となれば、思いつく原因はひとつ。
「………あの藪医者か」
この病院で長く過ごした僕だから知っている、ある外科医の『本当の』腕前。
彼のメスがある限り、ヒトミの願いはかなわない。結論は、単純かつ困難だった。