幻想砂漠(仮題)の返信
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幻想砂漠(仮題)(元記事)
創作相談掲示板のほうにも投稿させていただきました、仮想現実を舞台にした話です。
ストーリーを語らずに見せる、スピード感のある文体を模索しています。
描写の過不足や場面の組み立てなどについて、ご意見をいただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。
幻想砂漠(仮題)の返信
スレ主 柊木なお 投稿日時: : 0
せっかくなので、先に頂いたご指摘を踏まえつつ、もう少し小説っぽく書いたものを。
相変わらず勢い任せの文体ですが、いったん脚本風に起こしたことで、うっとうしさが多少は軽減された……ような気がします。気のせいかもしれません。
最低限の調度しかない、整然としたオフィス。
革張りの椅子に深く沈み込み、クラウはいかにもやる気のない様子で、手元の端末をいじっている。
ふと誰かの視線を感じて、顔を上げる。
入室を許可した覚えもなければ、見たこともない少女が目の前にいる。
「腕の良い運び屋を探してるんだけど」
いかにも良いとこのお嬢様。〈レーヴ〉風の活発なパンツスタイル。
にこりともせず、深々と青い瞳でクラウを見つめている。
ちょっとしたホラーである。
が、裏稼業はビビったら負けだ。
人差し指でさりげなくデスクを二回叩いて、相方を呼び出す。
つとめて何事もなかったふうを装って、手元の作業に戻る。
「こっちが探してるのは依頼人だ。迷子じゃなくてな」
スクリーンの起動音。
再び顔を上げたクラウの目と鼻の先で、シティ・バンクの残高証明が展開される。
わざわざ数えるのも億劫になりそうな、天文学的数字の羅列。
名義人は、空欄。一般市民からすれば縁のない、クラウからすれば見飽きた、大なり小なりの犯罪者御用達の裏口座。
ため息をひとつ。端末をデスクに投げ出し、面倒くさそうに少女を見やる。
「で?」
スクリーンが消える。
「セイクルスまで。期限は明後日の12時」
大陸の向こう側にある、海を望む大都市だ。
鼻で笑ってやった。
椅子を回して、背後にある大きな窓を振り返る。
そこには砂が渦巻くばかりの荒野が広がっている。
「知らないみたいだから、教えてやる。〈レーヴ〉で未開拓領域を横切ろうとするのはな、白血球にアカウントをBANされたい自殺志願者だけだ。……ああ、別に授業料はいらない。ただの常識だからな」
少女はうなずく。
「あなたには無理ってことね。ありがとう。他をあたるわ」
クラウの口元が引きつる。
が、すぐに余裕ぶった大人の笑みを浮かべ、
「もうひとつだけ教えてやるよ。俺たちみたいな小悪党を相手にする時は、言葉に気をつけたほうがいい」
少女はクソ生意気な子供の笑みで返した。
「そっちもね」
ログアウト。
少女の姿がかき消える。
クラウは少女のいた空間を憎々しげに眺めながら、
「エル」
応えるように、一匹の黒猫がデスクの上に現れる。
楽しげに尻尾をひと振り。若い女の声で言う。
「ずいぶん面白い子に絡まれたね。相手する気がないなら、最初から入れなきゃ良かったのに」
「許可してない。勝手に入ってきた」
「あらら」
エルはデスクから飛び降りる。
塵ひとつない床を行ったり来たりしながら、
「ごめんだけど、捕まえられなかった。というより……なんだろ、これ。ログ見るかぎりね、ダミーアカウントですらないみたい。でも、こんな完ぺきに痕跡を消すなんて、私でも……。あの子、ほんとに実在してるのかな?」
舌打ち。デスク上にスクリーンを展開し、めちゃくちゃなスピードでコンソールを叩きながら、
「馬鹿馬鹿しい。脳みそのない幽霊が〈レーヴ〉にアクセスできるかよ」
先程の少女とのやり取りを、0と1に分解して再現する。
滝のように流れる文字を目で追う。
エルが肘掛けに飛び乗り、一緒になってスクリーンを見つめた。
やがて、クラウの手がぴたりと止まる。
忌々しげに、
「そんなこったろうと思った」
どれどれ、とエルが覗き込む。
まるっきり暗号めいた文字列の中に、それを見つける。
素人はもちろん、一流のプロですら見落としそうなほど巧妙なやり方で仕込まれた、砂漠の街の展望台を指し示す座標。
「次の面接会場ってわけだ」
エルはクラウを見上げる。目が笑っている。
「で、行くの? 行かないの?」
クラウは物も言わず、座標をダウンロードし、スクリーンを消去する。
目を閉じて、深々と息を吐く。
ややあって、
「ちょっくらおめかししないとな」
そう言った。コンソールを押しのけて立ち上がり、そのまま出ていくのかと思いきや、窓のほうに歩み寄って、地平の彼方まで続く荒野を眺める。
第二の現実を謳う、人々の夢と夢を繋いだ仮想空間〈レーヴ〉。
クラウが自分好みに設計した、快適そのもののオフィスとは訳が違う。
そう。
窓の外に広がる砂が渦巻くばかりの荒野は、開発がクラッカー対策に放った白血球プログラムや、エラーまみれの悪夢の残滓がひしめく、前人未踏の未開拓領域だ。
エルは少し首を傾げ、
「あら意外。やっとお金の大切さがわかった?」
「お前と一緒にすんな」
振り返る。
憤懣やる方なしという表情には、ほんのひと欠片だけ、どこか期待するような色が混ざっている。
「取引に乗るかどうかは俺が決める。いくら積まれようが関係ない。が、それはそれとして……」
再び荒野に視線を戻して、口の端を釣り上げる。
「クソガキにはお仕置きが必要だよな?」
ログアウト。
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