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幻想砂漠(仮題)

スレ主 柊木なお 投稿日時:

創作相談掲示板のほうにも投稿させていただきました、仮想現実を舞台にした話です。

ストーリーを語らずに見せる、スピード感のある文体を模索しています。
描写の過不足や場面の組み立てなどについて、ご意見をいただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。

プロローグ

「腕の良い運び屋を探してるんだけど」
入ってくるなり、少女はそう言った。
最低限の調度しかない、整然としたオフィス。
クラウは椅子から立とうともせず、少女を横目でちらりと見たきり、手元の端末に視線を戻す。
「こっちが探してるのは依頼人だ。迷子じゃなくてな」
スクリーンの起動音。
クラウが顔を上げると、少女は無言のまま、目の前にバンクの残高証明を展開してみせる。
天文学的数字。
ため息をついて、端末をデスクに投げ出す。面倒くさそうに少女を眺める。
「で?」
スクリーンが消える。
「セイクルスまで。期限は明後日の12時」
クラウは鼻で笑う。
背後にある大きな窓を振り返る。
窓の向こうには、砂が渦巻くばかりの荒野が広がっている。
「知らないみたいだから教えてやる。〈レーヴ〉で未開発地帯を横切ろうとするのはな、白血球にアカウントをBANされたい自殺志願者だけだ。……ああ、別に授業料はいらないぞ。ただの常識だからな」
少女はうなずいた。
「つまり、あなたには無理ってことね。ありがとう。他を当たるわ」
クラウの口元が引きつる。
ややあって、大人の笑みを浮かべる。
「もうひとつ教えてやるよ。俺たちみたいな小悪党を相手にする時は、言葉に気をつけたほうがいい」
少女もまた笑みを返す。
「お互いにね」
ログアウト。
少女の姿がかき消える。仮想空間から現実世界へと。
クラウは少女がいた場所を見つめながら、
「エル」
応えるように、一匹の黒猫がデスクの上に現れる。
楽しげに尻尾をひと振り。若い女の声で言う。
「ずいぶん面白い子に絡まれたね。相手する気がないなら、最初から入れなきゃ良かったのに」
「許可してない。勝手に入ってきた」
「あらら」
そう言いながら、エルはデスクから飛び降りる。
塵ひとつない床を行ったり来たりしながら、
「いまログ見たけど、ダミーアカウントですらないみたいね。この短時間で痕跡を完ぺきに消すなんて、そんなことできるのかな? もしかすると……最初から実在してなかったりして」
デスクにスクリーンを展開する。
めちゃくちゃなスピードでコンソールを叩く。
「馬鹿馬鹿しい。脳みそのない幽霊が〈レーヴ〉にアクセスできるかよ」
言いながら、滝のように流れる文字を目で追う。
少女との先程のやり取りが、0と1に分解されて再現される。
エルが肘掛けに飛び乗ってきて、一緒になってスクリーンを見つめた。
やがて、ぴたりと手を止める。
憎々しげに舌打ちし、
「そんなこったろうと思った」
どれどれ、という感じでエルが覗き込む。
素人はもちろん、一流のプロですら見落としそうなほど巧妙なやり方で、オフィスとはまったく別の座標が仕込まれている。
「ここが次の面接会場ってわけだ」
エルがクラウを見上げる。目が笑っている。
「で、行くの? 行かないの?」
クラウは座標をダウンロードし、スクリーンを消去する。
目を閉じ、ひとつ息を吐いて、
「ちょっくらおめかししないとな」
エルは首をかしげ、
「あら意外。やっとお金の大切さがわかった?」
「お前と一緒にすんなよ」
そう言って、乱暴にコンソールを押しのけて立ち上がる。
窓の外に広がる荒野を一瞥する。
エルのほうに向き直り、余裕ぶった笑みを浮かべて言う。
「俺はな、ああいうクソガキが大嫌いなんだ」
ログアウト。

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