小説のタイトル・プロローグ改善相談所『ノベル道場』

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夜空に上げる

スレ主 みりん 投稿日時:

久し振りに小説の本文を書いたので、客観的に見られない自分がいます。
このプロローグを読んでどんな印象を受けるか、続きは読みたくなるか、など忌憚のないご意見をよろしくお願いいたします。
これで面白くないって言われたら、書くのやめようかな……と思ってしまうくらいメンタルが弱っているので、全否定はやめて頂けると嬉しいです。良いところを言ってくれというお願いではなく、こうすれば読めるようになる等の改善案を頂けると嬉しいという意味で。

あらすじ
「パパはお星様になってママと私を見守ってくれるよ」
父が死に精神衰弱を起こした母杏里をそう慰めた夜白だったが、その翌日母は姿を消す。代わりに自宅に現れた女・摩耶が、夜白に告げる。
「杏里は死んだわ。旦那のいない世界で生きていく意味を見いだせなかったのよ」
傍若無人な謎の女摩耶と、高校一年生になったばかりの夜白の二人暮らしが始まる――

プロローグ

 棺の中に花や副葬品とともに納められた天沢陽斗の表情は異様に白く、パパじゃないみたい、と夜白は思った。二日前、交通事故によって命を落とした陽斗だが、顔には目立った外傷がないため、滅多に会うことがない知人であれば、眠っているかのように見えるかもしれない。けれど、目の前で横たわる陽斗は、大好きな星を語る時に少年のように輝かせていた瞳が閉じたままだ。そして、もう二度と開くことはない。夜白は、不思議な気持ちで故人との最後の挨拶をすませた。
 席に戻ると、背中を丸めた杏里が着席したままうつろな表情でどこでもない一点を見つめていた。
「ママ、大丈夫?」
「…………」
 夜白は胸が苦しくなった。
 杏里は、パートナーである陽斗を失ってから、ずっとこの調子なのだ。表情が一切消えて、返事をしても上の空。食事も喉を通らず家事も放棄してしまった。喪主である杏里がこの調子なので、葬儀の準備もすべて、高校一年生になったばかりの夜白が取り仕切ることになってしまったくらいだ。もっとも、夜白にも荷が重く、病院で紹介された葬儀社に言われるがままエスカレーターに乗るように今日を迎えてしまったのだが。
 ――しょうがないよね。ママ、パパのこと大好きだったから……。
 夜白は焦点の定まらない瞳で虚空を見つめる杏里の背中に手を添えて、参列者が故人との挨拶を終えるのを待った。

「霊柩車へご安置申し上げます」
 天文学者であり、准教授であった陽斗の棺が、彼の担当していたゼミ生たちの手によって霊柩車に運ばれるのを見届けた夜白は、葬儀会館の入り口、たくさんの参列者に囲まれる中、辛うじて立っているという状況の母を見つめた。
 葬儀社のスタッフが、夜白に困った表情で目くばせした。
 夜白は覚悟を決めて頷いた。
 目の前に集まっているのは、父の大学関係者やお世話になっていたご近所の住民など200人ばかり。全員が喪に服し黒いスーツやワンピースに身を包み、沈痛な表情で夜白の隣に立つ母を待ってくれていた。
 夜白は息を吸い込んだ。母の手をぎゅっと握る。
「喪主である母の代わりに、娘である私、天沢夜白がご挨拶をさせていただきます。お集まりいただいた多くの方の尽力で、今日、素晴らしい式ができたことを感謝いたします。生前父は、真面目で、優しくて、星や宇宙のことが大好きでした。私は、そんな父のことが大好きでした。今日、こうして式にたくさんの人にお集まりいただき、父がこんなにもたくさんの人に愛されていたことを知ることができて、とても嬉しくなりました。夜空のお星様になった父も、最後に皆さまとご挨拶ができて、きっと喜んでいることと思います。皆さま、本日は本当にありがとうございました!」
 途中、つっかえながらも挨拶の言葉を言い切り、夜白は参列者に深々と頭を下げる。
 すすり泣き交じりの拍手が辺りを包んだ。
「……っう。うう……」
 はっと気づいて夜白は隣に立つ母を見た。
 杏里は、子供のように声を上げて泣き始めた。夜白の手をぎゅっと握り、反対の手で顔を覆い、棒立ちのまま泣く杏里。恥も外聞もかまわず泣きじゃくる美しい未亡人の涙は、参列者の涙を誘った。
 夜白は必至に母の手を握った。
「ママ、ママ。大丈夫だよ。寂しくなんかないよ。パパはお星様になって、ママと私を見守ってくれるよ。だから……」
 泣かないで、という言葉は、夜白の喉の奥で音になる前にかき消えた。
 ついには立っていられなくなって、杏里が膝をついたからだ。慟哭が、都内にある小さな葬儀会館に響き渡った。

 翌日、夜白は嫌な予感とともに目を覚ました。
 いつもと変わらない自室の天井を見上げて、夜白は頭痛に顔をしかめた。
 昨日、父が死んでから初めて母が泣いて以降のことを、あまり思い出せない。葬儀社のスタッフに言われるがままに式は進行し、出棺、火葬、法要と滞りなく進んだ。杏里は葬儀会館での精進落としにも結局口を付けなかったし、自宅に帰ってからも何も食べず、夫婦のものだった寝室にこもって出てこなくなった。
 夜白は、200名にものぼる参列者への香典返しのことを質問するために、葬儀社にまた連絡しないといけない、と考えながら、枕の横に置いてあったスマートフォンを何気なく見た。9時。朝寝坊をしてしまったことに気づいて、自分が疲れていたことを知る。同時に、今日は忌引きで学校を休んで良いことも思い出した。
 中学や高校の友達からのメッセージを読む気にならず、そういえば課題はどうなっていただろうと思いいたり、やっぱり考える気にならずにスマートフォンの画面をベッドに押し付けて半身を起こした。
 目に入った姿見には、寝不足で両目の下に隈をつくった少女が写っていた。背中まで伸ばしたストレートの黒髪も、昨日乾かさずにそのまま寝てしまったため寝ぐせがついてしまっている。
 夜白はため息をついた。身だしなみを整える気力がわかない。
 パジャマ姿のまま、自室を出た。
 そして、まっすぐ杏里の元へ向かった。
 どうせ昨日のまま、部屋にこもっているだろうとあたりを付けて、同じ2階にある両親の部屋のドアを叩く。
「ママ? 起きてる?」
 しばし返事を待つが、扉の向こうは微動だにしない。
「ママ? いい加減、何か食べないとダメだよ。この3日、何も食べてないじゃん」
 しかし返事がない。悲しいのはわかるけれど、娘を無視するなんて、と夜白はいら立ち、思い切って扉を開いた。
「ママ!? ――て、いない?」
 部屋の中は空だった。
 カーテンの閉まった部屋には、整然と整えられた無人のダブルベッドがあるだけだ。人の気配はない。
「…………」
 意外に思ったが、夜白はほっとした。
 ――なんだ、起きてるじゃん。
 パタパタとスリッパの音を立てるのも構わず、階段を下りる。リビングに灯りが見えた。
 ママ、何か食べてるかな。
 嬉しくなった夜白は、その勢いのままリビングの扉を開いた。
「ママ!」
「遅かったわね」
 リビングのソファには、見知らぬ女が座っていた。年齢は30代半ば程、黒い巻き髪の美しい女で、喪に服しているかのように黒い、ロングスカートのワンピースを着ている。異様に赤い唇が笑みの形を作っていたが、夜白を見つめる漆黒の瞳の奥は笑っていなかった。
「……あなた、誰ですか?」
 心臓が縮む思いを押し殺し、夜白はなんとかそれだけ口にした。
「私は、香月摩耶(かづきまや)。あなたのお母さん、杏里の古い友人よ」
 摩耶と名乗った女は、天沢家のワイングラスを手に取り、なみなみ注がれたワインを口に運んだ。
「ちょっと、勝手に……! しかもそれ、パパが知り合いの教授からもらって大事にとってたワインじゃないですか!」
 テーブルに置かれたワインボトルの銘柄を見た夜白が抗議すると、摩耶は悪びれもせず不敵に笑った。
「良いじゃない。陽斗さんはもういないんだから。あなたは飲めないでしょ、宝の持ち腐れよ」
「でも! ママが飲むかもしれないし!」
「杏里は死んだわ」
 え?
 夜白はその言葉に思考が停止し、摩耶の顔を凝視した。ドキドキと鳴る心臓、息が苦しくなるのをこらえて、夜白は笑った。
「は、何を言ってるんですか? ママが死んだ? 死んだのはパパで」
 最後まで言わせてもらえなかった。
「いいえ。杏里も、死んだの」
 摩耶は動転する夜白を観察するかのようにじっと見つめながら、言葉をつづけた。
「杏里は死んだわ。旦那のいない世界で生きていく意味を見出せなかったのよ。私は、杏里に頼まれて、それを伝えるためにここへ来たの。夜白、あなたの世話をするように頼まれたわ。あと、自分の葬式も各所の手続きもいらないんですって。大事にして、夜白の手をわずらわせたくないと言っていたわ」
「……え?」
 衝撃が大きすぎて、夜白は表情を作れない。摩耶は、取り繕ったように同情を示す顔を作った。
「私も息子を亡くしているから、杏里の気持ちがよくわかる……。あなたにとっては、両親を立て続けに失って同情するけど、大切な人の死を前にして、人間は無力よ。だから、あなたがいるの。わかるでしょう?」
 夜白には、何を言われているのか理解できなかった。
 ただ、3日前に父を失った自分は、今朝母も失ってしまったらしいということを受け入れられずに混乱していた。
 ママが……死んだ?
 昨日、打ちのめされて寝室に消えていく母の背中を見送ったばかりだ。憔悴しきったその様子を思い浮かべれば、父の後を追って母が自殺していないと否定することが難しいと思ってしまう自分がいることを自覚して、夜白は戦慄した。
 摩耶に返事もできず、ただ立ち尽くしていると、摩耶はいら立ち舌を打った。
「まあいいわ。とにかく、そういうことだから。それより、私お腹が減っているの。何かつまめるものを作ってくれないかしら?」
「は? なんで私があなたのために」
「それはもちろん、杏里に頼まれて無償で未成年であるあなたの面倒をみてあげるんだから、対価の代わりに少しくらい家事のお手伝いをするのは当然でしょ。何よ、それともあなた、料理のひとつも出来ないの?」
「……できますけどっ! そうじゃなくて」
「ごたごた言わずに作りなさい! 良いじゃない。これからしばらく、私とあなたの二人暮らしなんだから。門出のお祝いよ」
「…………」
 摩耶のあまりの傍若無人ぶりに、夜白はあきれ果てて肩を落とした。
 もしかしてこの人、両親を亡くした私を励まそうと思ってわざとお祝いとか言ってみてるのかな……。
 夜白は疑惑の目でワイングラスをあおる摩耶を見つめたが、とても自分を慰めようとしてくれている人間には見えない。全てがどうでも良い気分になった夜白は、突然の訪問者をもてなすためにキッチンへ向かった。

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