覇道の本懐
スレ主 ソラナキ 投稿日時:
タイトルも、プロローグも、どちらももう不安で不安で。なので批判などよろしくお願いいたします。長所もお願いします!
プロローグ
「我が仮面の下に広がるは、おまえが切望し恋い焦がれる顔だぞ。燕會(えんかい)」
色白の手に剣を携えて、編み込んだ射干玉ぬばたまの黒髪をたなびかせるは仮面の男。彼はその張りと艶に溢れた美声を、零度の如く白く染めていた。
側には陽炎のような黒い外套を纏い、大きな杖を片手で支えている、かろうじて男だとわかる影法師がひとつ。
男にそう言われ、彼らの前に無様な出で立ちで腰を抜かしているのが、何を隠そう東の大国鳥鳴国(ちょうめいこく)現国王——燕會。
今彼らは、鳥鳴国が中心に位置する巨(おお)いなる城の中で対峙していた。
「ふ」
ふ。途切れたような、燕會から漏れ出たその声に、男が仮面に隠された眉を寄せる。
——王だ。この情けない男は、仮にもこの国を統べる王なのだ。そんな男が出して良い声ではなく、それに対するは失笑にすらならぬただの哀れみ。
「ふ、ふざけるな。我が、我が切望の顔だと? ふざけるのも大概にしろ。王たる我に、何を無礼な……!」
「——まだ気付かぬか、この男は。まあ、わからぬのも無理はないか。なあ、燕形(えんぎょう)」
燕。確かに男は、側に立つ影法師をそう呼んだ。それに応えて、陽炎は揺らめきながら告げる。
「然り、然り。この男は所詮、先王より位を簒奪した敗者(じゃくしゃ)に過ぎない。龍の仔(ロンザイ)たる君とは、比べ物にならないほどに脆弱で、度し難い無能だ」
にやり、と。影法師は嗤う。それが純然たる事実であるのがたまらなく嬉しく、そして奇妙なほどに愉悦をもたらすことを確かめるように。
「ふん。とは言っても、おまえの姿を捉えられぬ程度では、その評価が妥当か」
蔑みもせず、見下しもせず、ただひとつの事実を漏らす。彼にとって、側に控える男は、それほど信用に値するらしい。
そこで、燕會は何かに気付いたらしく、目を不可思議なほど見開いた。瞳孔が開き、涙が溜まる。だがそれを意に会することなく、王はこう宣った。
「おまえ、は。まさか——」
「——ク、ようやく気付いたか。ああ、待ちくたびれたぞ」
仮面の下、口が悪鬼のように上がる。
「何年。何年だ。何年待ったと思っている。それまで、片時もおまえへと憎悪を——父母を殺したおまえへの憎悪、忘れたことはなかったぞ……!」
「あ、あ、あぁあ」
全てを察し、王が慄く。それを見て男は怒りに、復讐の憤怒を燃え上がらせる。
……ただ気に食わない。この男がのうのうと生きていることが、ただひたすらに気に入らない。
男は仮面に手をかけ、勢いよく剥がした。仮面に覆い隠されていたその顔は、背後にて輝く月光に照らされ、たとえその顔が憤怒によって鬼の相貌と化していてもなお、美しい。
「おまえは知らなかっただろう。なにせおまえは、俺の名など興味もなかったろうからな。単純明快、己の他にこの国の王となる資格を持つのが許せなかった。唯それだけのことなのだから」
だが、それだけだからこそ、彼はここまで辿り着いた。
「それ故におまえは父母を殺した。まだ弱かった俺に、それをわざと聞かせるように。ああ、確かにな。反抗心を折るならこれ以上ない方法だろう。だがおまえは選択を間違えた。俺に対して、俺に憎悪を宿らせた」
もはや王に言葉はない。相手は道化ではないのに。否、道化ではないからこそ恐ろしいのだと、未だこの王はわからない。
「性は燕。名は順。あざなは恭。
我が名は、燕順。おまえの所業が生み出した、覇道を歩む復讐者だ……!」
——後世、鳥蛍の戦と呼ばれるその一連の戦は、たったひとりの王が行った愚行によって始まった。
その愚行によって家族を失った少年が、青年へと成長し悪虐の王を討った、覇道に在りし復讐の戦争だ。
これはその少年が復讐者となり、己が覇道を以て押し通り、果てに恩讐を果たすもの。
一度大陸が統一され、されど不安定さゆえにすぐに崩壊し、乱世の真っ最中である時代。
恐れるな、背けるな、前を向け。
刮目せよ。龍の仔と預言者は、今此処に各々の理想を綴る——
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