*十二田さんへ、御作とは関係ないですが私の現在の最新作は大分前の作品なので、お礼に感想を下さらなくて構いません。もし、それでもと思っていただけるなら次に私の作品を見かけた時にお願いします。
総評編。
まずは執筆お疲れさまでした。色々書かせて頂きましたが、『複数の人物のかんがえや感情が交わる事件』を整理しつつ、各キャラの感情の動きや見せ場を盛り込みながら作品を書き上げるのは大変だったと思います。
その上で、ではありますが。読者としての意見で言うと『アクションシーンは良いしとても読みやすいが、舞台とキャラと推理要素が活かしきれていないと思う』というのが総合的な感想になります。
まず文章。基本的にとても読みやすかったですが、数か所文法的な問題がありました。例えば、エミリーが誘拐されるところでは使役系の用法がおかしいです。
ただ、数は少ないのでこのまま賞に送っても文法ミスで撥ねられることは絶対にないと思います。
一方で、台詞・地の文共に分かりやすさを重視しすぎて、大分軽いというかあっさりしていたように感じます。
読みやすさの点では問題はないのですが、地の文にはもう少し形容詞などの描写要素を盛り込めると良かったように思います。
台詞についても同じく文量を増やした方が良いと思います。こちらはもう少し深刻な問題で、『台詞だけだとキャラの感情が読み取れない』『台詞の特徴が弱く会話だけではキャラの識別ができない』シーンがいくらかありました。
また、折角英国が舞台なのでもう少し皮肉や嫌味などの要素を強く会話に取り入れても良かったように感じます。
次にストーリー
性ですが、全体の流れとしては非常に良かったと思います。細かい事件が徐々にラスボスの計画に繋がっていき、一度解決したと思って油断した所で、最終段が一気に牙を剥いて来る、という流れは素晴らしかったです。
また、随所でアクションを中心とした見せ場が盛り込まれていた点や、推理パートからアクションへのシーン転換の素早さも良かったと思います。
一方の問題点としては、まず要所要所で指摘させて頂いた通り、『シャロンの推理』ではなく『アクションシーン』が直接的な問題解決になってしまっていた点が挙げられます。
また、第二の問題として『プラス方向の人間関係の変化』と『キャラの成長』要素がほぼなかった点が『物語』としては低評価な点です。
関係性の変化というのは何も恋愛でなくても良いのですが、ライバルを認めるとか、誰かと友情を築くとか、相棒の問題点を指摘してぎくしゃくするとか。そういう要素があんまりない(強いて言うなら警部の態度が少し軟化しましたが)。
その上で、ジャックとの死闘を通じてシャロンとワトソンが何か新しい技を身に着けた訳でもなく、覚悟を決めた訳でも、『たとえ友人の仇でも人殺しはできない』みたいな信念を得た訳でもなく、『なんとなくジャックを倒した』で終わってしまった。
個人的にはこの点にかなり物足りなさを感じています。
次に推理要素について。
先に言っておくと、僕は推理モノがちゃんとかける腕がないので自分に出来ない事をやれと言っている無責任野郎なんですが。その上で言うがもう少し何とかして欲しいです。
詳しくは個別の指摘を見てほしいんですが、シャロンの推理は『虱潰しの下位互換』になってしまう場合と『読者が全然知らない情報をいきなり持ち出して結論だけ言う』というパターンの大きく二つしかないのがすごくダメです。
推理モノの読者の中に一定程度『自分でも犯人を予想しながら読む』という人が居るのはご存じと思いますが、シャロンのやり方だと作中に描写できるモノがなさ過ぎて、読者に推理する余地がないんです。
しかもその上、第一の事件に至っては推理の結果が事件の解決に一切影響してないんですよ。
具体的な改善案としては
①『ミスリード要素』を入れて描写する。
②背景描写だったり、警察に調書の読み上げとかをさせた後、後で『あれがヒントだったんだよ!』っていう。
③そもそもシャロンを『推理がへっぽこで最後は県下で片付ける自称名探偵』にしてしまって、地の文で散々こき下ろす。
の三つの案があります。三つ目はやりたくないと思いますが。
台詞回し。根本的に各台詞が短すぎて『状況はよくわかるけど、台詞からキャラの感情や個性が読み取れない』。
状況説明だけになっちゃってる台詞もかなり多く、更に言えばそれがシャロンやワトソンの発言であることも多いから、主人公とヒロインのはずなのに喋っていても個性が出なくてキャラが見えない。
次にキャラクター
について。
描写が少ない上に活かせてない。ハッキリ言って大問題。
先述の通りシャロンはまず推理が死んでいる。その上で、四章でようやくワトソンとエミリーに関して嫉妬みたいな感情を見せるけど、そこまでのシーンはそもそもほとんどが事件関係の物がレストレードを煽っているか、ワトソンとの雑談。些細なことで起こったり楽しそうにするけど、ワトソンを中心に『他キャラが絡んだ時の感情の動き』の描写が絶望的に少なくて、共感しづらいし、ヒロインとしても面白くない。
エミリーについては個別評価で触れたけど、『描写が少なすぎて感情移入しづらい』レベルで性格がわかんない。もっと描写して。
最後にワトソンだけど、活躍シーンが十割アクションで、特にエミリーが死んだ後の感情の流れが理解し難く、折角『医者志望の大学生』なのに医学知識を生かすシーンもないし大学の伝手で情報を集める訳でもない。つまり設定が無意味になってる。
その上アクションシーン以外だと、『シャロンに浅い質問をする』か『シャロンを宥める』以外の動きをしていることがほとんどないから、コイツも共感しづらいし主人公として見ると主体性が薄くて面白くない。
舞台設定について。
『機械義肢技術が発達している』部分さえ成立していればイギリスにこだわる必要も時代にこだわる必要も感じなかった。もう少し言うと『世界の四割を支配した覇権国家』も作中では特に意味をなさない死に設定になってる。
イギリスに拘るなら、キャラのセリフの嫌味や皮肉をもっと増やすとか、ラストシーンでジェイコブが『ちょうどティータイム中なんだ。一緒に飲むかい?』って言ってくるような冗長性が欲しい。
時代性にこだわるならそもそも通信機やスクリーンは出すのが早かったと思うし。
世界の四割を支配した覇権国家なのに、異国から入って来た人間が首都に居る訳でも無ければ、なんか外国人差別とかの描写がある訳でもなく、『ただのイギリス』との差別点が特に見えない。
アクションについて。
これは全体通してかなり良かった。良い意味で漫画的に『現場全体を俯瞰しつつ、注目すべき細かいアクションに時折ズームインする』ような表現がされていて、静止画の連続をベースに動きが描き出されて、読みやすく面白かった。
改善点を言うなら、においや背景の変化に関する描写はもう少し掘り下げて良いかも。作中銃撃シーンはかなり多いから硝煙の匂いに触れてみるとか。
あとはまぁ、鉄砲以外の武器のアクションを見たい感じはあるよね。ジェイコブの武器が実質的には爪だから、動きの上ではワトソンの徒手格闘の延長みたいな描写になっていて、『動きの差別化』という意味ではバラエティーに欠けるように感じます。
以上で、大野知人の批評を締めたいと思います。
かなり掘り下げて問題点を説明したので、十二田さんにはかなり辛いものにもなるとは思いますが、十二田さんが『これは納得できる』と思うものだけで構わないので次に生かして頂ければと思います。
最後にもう一度書きますが、執筆お疲れさまでした。