もしも今日世界が滅亡するとしたらの第2話 全5話で完結
加奈の召命
作者 鱈井元衡 得点 : 2 投稿日時:
「何と哀れな人間たちなんだ」
宇宙空間で一人、銀髪の青年がひそかにたたずんでいる。
優しげで、しかしとてつもなく虚しさのこもった目。
「僕が滅ぼしてあげなきゃならない。この手で、絶対に」
その先には、明るい色で照らされた地球。
黒ずんだ岩石が、地表に向けてぐんぐんと進みつつある。
「一体、僕は何をしているんだ。結局人類は滅ぶ運命にあるのに」
漆黒の中、沈思黙考。
「その時期を早めるだけでしかない……一体なぜ……?」
亮太が加奈の家に走りつつある頃、少女はずっとおびえた顔で布団にくるまっていた。
「そんな、もう終わりだなんて」
弱弱しい声でつぶやくことしかできない。後悔する気分ばかりが鬱積する。
「もっと亮太くんと遊んでいたかったのに。あの時、告白さえしておけば」
その時である。いきなり衝撃波が生じて、加奈は畳の上を転がった。
まさか、本当に終わりの時が――
「聴いて下さい」
品格ありげ、大人の女性の声。
「え?」
加奈は何も分からず、部屋中を見回した。
しかし、誰もいない。
「聴いて下さい。未来の救世主よ」
「だ、誰なの?」 隕石に対するものとは別種の恐怖が、心を満たしていく。
「今、地球に未曽有の危機が迫っているのです。そこから地球を救えるのは、あなただけなのです」
気づくと、それは外から来る声ではなかった。脳内に直接、響いてくるような音色だった。
「ど、どういうこと?」
「今、あなたに、私の力を与えます」
「きゃっ!」
目の前が閃光につつまれ、一瞬何も見えなくなる。
だが、再びものが分かるようになった途端、目の前には一つの白銀の杖。この家の中に置くには場違いな感じさえ。
「こ、これは何?」
少女が数回ためらった後、それを片手でつかんだ途端、幻影が脳裏に焼き付いた。
美しい装飾に身を包んだ女性が、真紅と黒につつまれた世界を背景、何者かと闘っている姿を。一瞬で、ごく普通の光景に戻る。
だが、すぐに理解する加奈。
自分には、とてつもない大きさの使命が与えられたのだ。今、あの人から受け継いだものを、絶対に守り抜かねばならない――。