福音のモーラ
作者 氏号一 得点 : 0 投稿日時:
夏の夜空に駆ける星。僕の目はまだたくさんの光が見えていた。大人になるにつれて少しづつ消えていったように思える。ただ目が悪くなって見えなくなったと思いたいんだ。何故なら僕はまだ子供だから。キラキラした世界を夢見ていたい、そんな年だから。
僕が幼少期の星空に願った事を思い出したのはごく最近の話だ。それまでは馬鹿みたい聞きまくったゲームの曲やアニソンで頭がいっぱいだったし、さっきだって漫画の展開なんかに夢中だった。なんせロクに使えもしない能力を神様にもらっても僕みたいな一般人に最強やら何やらへと昇華するイメージを持てなかった。だから今日の出来事があるまでは飽きたように忘れていた。僕が現実に持つ幻想は理想の世界に負けたのだ。
夏の夜、雲もない日に、父親が土産に持って帰ってきた部品の少し足りない望遠鏡で星を見た。星には詳しくはないけど、綺麗だった。学校のことや家のことなんて忘れて僕はずっと見ていた。その時、見えたのは赤い星。その星の名前は知らない。だけど僕はその星に願ったのだ。
誰かと絆をつなげたい。正直なぜこんなことを願ったのかを知るのは当時の僕しか知らない。それに、今の僕はそんな願望に後悔していた。
僕の心臓は他人と動機する。願ったから叶ったものがそれなのか。それとも何かの病気の前触れなのか、僕の心臓は誰かとつながる。だからわかる。それが僕自身の心臓の鼓動なのか、はたまた別の誰かさんなのかが。
お昼ご飯、知らない生徒の弁当箱が宙に舞う。一瞬静かになったと思えばすぐにいつものガヤガヤとうるさい教室へと再び戻る。いつもなら見過ごす風景が僕にはまるで違って見えた。
こわい、これをどんな言葉に例えれるだろう。ずんずんと胃の奥を押すような気持ちの悪さを知ってる。困惑、疎外感、ああ、吐きたい。涙が奥から押し上げて溢れてしまう、そんな感情が募る。ぐるぐると感情の色が一つの色に塗りつぶされる。
僕が手にした力は心臓を通して沢山の感情を通すらしい。目の前のどうでも良い場面が、どうやらこれから一週間続くと思うと憂鬱だった。