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陰キャだって、陰キャなりにいろいろあるんです。第2話 全8話で完結

波乱を呼ぶ嵐、春を運ぶ風

作者 紡未夏樹 得点 : 0 投稿日時:


 悟流は再度、告白の言葉が表示されたウィンドウを見る。
 先日表示された物と変わらないその文章は、続く緋音の言葉も変わり映えの無い断りかと思われた。
 しかし、
『はあ……私の事をここまで落とせない人は初めてだよ……』
 ゲームの画面に映る彼女は、視線を落とし、嘆息を漏らした。
「な、何だこれ……」
 今まで見たことも無いようなその言葉に、悟流を含めた三人が、それぞれバグや没の台詞、もしくは特殊ルートの可能性を考えた。
 そしてその内、二つの可能性は消える事になる。
『だいたい、何で毎回選ぶ選択肢が同じなの? 私をデートに誘うと必ず遊園地になるのは何でなの? 私だってたまにはショッピングに行きたくなるわよ。分からない?』
 表示されるメッセージ、そして少し遅れながら入る音声。
 バグや没の台詞ならば、声優による音声が入ることなどありえないだろう。
「悟流、お前まさかずっと遊園地ばっかり行ってたのか……?」
 涼介が信じられない物を見るような目を向けてくる。
「だ、だってプロフィールに遊園地が好きって書いてあっただろ? 何がいけないんだ?」
 悟流としては、むしろ遊園地以外の選択肢なんてありえないと思っている。
「いや、だって、デートイベントって何回かあるだろ。まさか全部遊園地か……?」
「それの何がいけないんだ?」
「むしろ全部いけないわ! ラーメン好きでも毎日ラーメンは飽きるだろ!」
「そ、そうだな」
 考えてみれば、初歩的な事だったのかもしれない。
『ほら、お友達もこう言ってるでしょ? せめて一回くらいは外してくれればよかったのに』
「…………」
 そのメッセージが表示、そして聞こえた時、部屋には沈黙が降りた。
「な、なあ、おかしくねえか?」
 篤志が声を震わせる。
「ああ、まるで俺たちの会話を聞いてるみたいな……」
 偶然にしては出来過ぎている。
「ま、まさかそんな……」
『あー……怖がらなくても大丈夫だよ。別に悪い事なんて無いから』
「——っ!」
 やはり聞こえてるようだ。
「なあ、電源落とした方が良いんじゃねえか……?」
「そ、そうだな、何が起こるか分かったもんじゃねえ」
 悟流が電源のボタンに手を掛け、
『ちょ、ちょっと待って! 悪い話をするわけじゃないから! むしろ君に得のあることだから!』
 その言葉を聞いて、手が止まる。
「得のある話……?」
『そうそう、得のある話』
「ぐ、具体的には……」
『恋のレクチャーをしてあげようと』
「恋のレクチャー……? 誰が?」
『私が』
「誰に」
『君に』
「……は?」
『んじゃ、そういう事だから、明日からよろしくね。バイバイ』
 彼女が手振ると同時に、画面がブラックアウトした。電源が切れたのだ。
「え、ちょ、待って!? どういうこと!?」
 何度か電源のボタンを連打するが、一向につく気配が無い。
「な、なあ、どうしたら良いんだ……?」
 悟流は二人に視線を向けるが、その二人も何が起こったか分からないといった様子で大口を開けている。
 しばらくして涼介が、
「と、とりあえず、今日は遅いし寝ようぜ。明日だ明日。放課後に調べてみようぜ。何か分かるかもだし」
「そ、そうだな」
 釈然としない思いを抱えつつ、床に就く。
 しかし、睡魔がやって来ることはなかった。


「えー、急な話だが、今日は転校生が来ている。親の都合で中途半端な時期の転校になったらしいが、詳しい事は俺も知らん。まあ、仲良くしてればそれで良いから、よろしくな」
 翌日、急な転校生が来るという担任の話も耳に入らず、悟流は睡魔と闘っていた。
「じゃあ、入ってくれ。えーっと……しろ……ん? し……ら石。うん、白石緋音さん」
 なんだか聞いたことのある名前だ……な?
 嫌な予感がする。
「皆さん、よろしくお願いします。白石緋音です。こんな時期に転校してしまって申し訳ありません。仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」
 頭を下げたその少女の姿を見て、悟流の睡魔が吹き飛ぶ。
 その姿は、昨夜見たスクラブの白石緋音そのものだったのだ。
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