陰キャだって、陰キャなりにいろいろあるんです。
作者 くろわっさん 得点 : 4 投稿日時:
俺、山谷 悟流(やまたに さとる)は今、人生最大級の大イベントに直面している。
「ねぇ、お話って何? 」
俺の目の前にいる、白石 緋音(しらいし あかね)に、可愛らしい声で言われた。
「あ……ええと……。」
俺は、とてつもない緊張感に襲われた。
手がガクガクと震える。
「俺、緋音ちゃんのことが好きです。付き合ってください! 」
事前に決めておいた台詞を言い、彼女の反応を見る。
どうだ……? 上手くいくか……?
思わず握りしめた手は、とても汗ばむんでいた。俺は恥ずかしながらも、勇気を出して彼女の顔を見つめた。
「…………。」
彼女は黙ったままだった。
心臓の鼓動が、よりはっきりとしてくる。
きっと大丈夫……俺にやれることは、全部やりきった……。
そう言い聞かせるも、効果は全くなかった。
むしろ、よりはっきりと強くなるばかりであった。
このままでは、心臓がもたない……!
そう思った時だった。彼女がようやく口を開いた。
「 さとる 君の気持ちは、わかったよ。たくさんお話して、たくさんお出かけして、とっても楽しかった! 」
おっ! 好感触!!! これは行けたんじゃないか!?
思わず、プチガッツポーズをした。
「でも、ごめんなさい。私、 さとる 君よりも気になる人がいるの。」
さっきまでの心臓の音は嘘のように消え、次第に、頭の中が真っ白になっていくのを感じた。
運命とは、不意に告げられるものである。そして、とても残酷なものである。
こうして俺の夏は、あっけなく終わった。
数日後───
「あぁああああ!!! くっそぉぉおおお!!! また振られたあぁああああ!!! 」
俺は雄叫びをあげた。
同じ寮の友達、菜葱 涼介(なぎ りょうすけ)と麓山 篤志(はやま あつし)と俺の部屋で、『スクールラブライフ(略して、スクラブ)』というゲームをしているときであった。
「それは、しょうがなくね? だってそのキャラ特殊で、告白モード突入しても、なかなかいい返事が帰ってこないらしいよ? いくつかの攻略サイトに、そう書いてあったの見た。」
涼介が、ゲーム画面を見つめながら言った。
僕は数日前、スクールラブライフ、略して『スクラブ』というゲーム内で、白石 緋音というキャラクターに『告白』したが、失敗した。
『スクラブ』は、学校生活が舞台の恋愛RPGである。個性豊かなキャラクターによるストーリーと、豪華な声優陣によるボイスなどが売りで、まあまあな人気を誇っている。
「そうだけどさぁー!!! 可愛いんだもん、緋音ちゃん!!! 」
白石 緋音は、スクラブの中で、俺が1番好きなキャラ、いわゆる『推し』である。だから、彼女の話になるとらよりいっそう熱が入るのだ。
俺は、ついこないだやっと、彼女を、『告白』という、キャラクターの好みそうな台詞を選択して、告白するシチュエーションができるレベルにした。
何とかして、『告白』を成功させたい。そして、1つ上のランクに昇格したい。
「だよなー! あ、悟流! そういや俺、白石 緋音の『告白』成功したぞー! 」
突然のドヤ顔カミングアウトに、俺は、開いた口が塞がらない。
「はぁ!? まじ!? 篤志、賀木坂 美晴(かきさか みはる)ちゃん推しじゃないの!!! 」
俺は、声を荒げ気味に言った。
「最近、緋音に変えたんだ〜。なんだかんだで緋音のほうがタイプだったんだよ。悟流、可愛いよな、緋音。」
篤志は、ニヤニヤしながら俺の顔を見た。
“篤志が、緋音の『告白』を成功させた”という事実が、俺にじりじりとダメージを与える。
「……か、可愛いよね!!! うん、俺が最初から推してるだけあるよ! 涼介は、どこまで進んでる? 」
俺は、緋音ちゃんの話から逸らすために、涼介に話を振った。
「あー……俺の推しNO.1とNo.2は、だいぶ前に『告白』成功させたよ。さっき、お前らが話してる間に、NO.3の『告白』も成功した。」
「すごいな、涼介! 」
よし、いいぞ!
いい感じに、緋音ちゃんの話から逸れてる!!!
「あ、ちなみに俺の推しNO.3は、白石 緋音ね。」
俺の希望が打ち砕かれた瞬間であった。
涼介も成功してたのか……しかもさっき……!
「くっそぉぉおおお!!! 俺、緋音ちゃんにもっかい『告白』やってみる!!! 」
俺は、すぐさま、四角い『告白』のボタンを押した。