小説のタイトル・プロローグ改善相談所『ノベル道場』

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調律奏は幸せを唄いたい〜異世界で恋愛と復讐は両立できますか?〜

スレ主 篠宮ソラ 投稿日時:

初めまして、篠宮ソラと申します。今作のテーマとして「悪事を働いた者には報いを受ける」を重点に置いた主人公を幸せにする為にはどうすればいいかという物語になってます。

復讐をしながら、自分を好きでいてくれるヒロインと本当に幸せになっていいのか、幸せになれるのかを苦悩する主人公が書きたかった。

プロローグ

「ほ、本当にやるんだな! 響!」

 ある一軒家の前で、10人の男女が佇んでいた。友達の家を訪れたかのような軽い雰囲気でだ。

「うん。中にいる子は好きにしたらいい」

 手には縄や金属バット、何かの液体が並々と入ったポリタンク。そして、顔には仮面をつけた彼らはリーダー格の青年を先頭に扉の前に立つ。

「やっべ、興奮してきたよ、俺!」

「それな! こんな事、滅多に楽しめるもんじゃないぜ!」

 興奮気味に話す2人が我先にと扉に手をかけようとするが、伸ばした腕はリーダー格の青年に捕まれる。

「──言ったよね? ぼくの言うことには従って貰うって」

 捕まれた腕から骨が悲鳴を上げる。余りの痛みに振り払った彼が見たのはリーダーの瞳。

「ぼくはただ実験をしてみたいんだ。君達はそのおこぼれに預かっただけ。計画は邪魔しないでくれ」

 汚れきって、落ちきった、深淵の黒瞳がその集団が怯える姿を映していた。
 発しられた圧の重さに自分達の命が握られているように。

 彼は静まり返った皆の姿に頷くと、入り口前のインターホンを鳴らす。
 すると扉が開き、中から二十代くらいの女性が出てくる。

「はーい! どちら様ですかー?」

「初めまして。ぼくは四ノ宮響」

 そして、その青年は手の骨を鳴らし、

「調律琴音さん。貴方を殺しに来ました」

 天使のような笑顔を浮かべたのだった。

 *

 ──4年後

 月明かりが照らす中、夜の帳か完全に降りた時間に、町外れにある倉庫街の夜闇を車のヘッドライトが切り裂いた。そろりそろりと表現すべき慎重さで進む車は、やがて、四方を高い建物に囲まれた場所へと入った。

「こ、ここなら安全なんだよなぁ!?」

「ああ、ここは奴らさえも知らない秘密の場所だ。坊ちゃんのお父様が裏でやってる薬の売買も主にここで行われている」

 降りてきたのは鼻にピアスを開けて、何かに怯えているような汚い髪色の男だった。その側にいるのは白人でありながら服の上からでもわかる屈強な男性。

 その数はおよそ20人強。あからさまに堅気じゃ無い雰囲気を漂わせた黒スーツの男たちの後ろで坊ちゃんと呼ばれた男は頭を掻き毟る。

「どうして、どうして、今更彼奴が………! ただ俺は、事件に関してもみ消しただけなのに………!」

「何処からか、バレたんでしょう。ですが、ご安心を。私達としても護衛の仕事は果たしますので」

 男は安心させるように声をかけた。
 ここは誰も来ない、だから彼らが悪事をやるのに持って来いなのだ。

「どうせ、殺された奴らからだろう! 他の4人も行方不明とかになっているが、俺には分かる! 全員殺されたんだ!」

「………坊ちゃん、少し静かに」

 まるで今にも発狂しそうな精神を恐怖という補正で何とか保っている男に対し、護衛の男は彼を後ろに下がらせ、銃口を向ける。

「よぉ、テメェら。揃いも揃って発情期みてぇな顔しやがって」

 いつの間にか、入り口付近に人がいた。

 僅かな明かりでは性別が判断できない程の美少年?美少女?がいた。

 服装から判断しようにも黒のテーパードにギンガムチェックシャツ、ジャケットを羽織るその姿は男女どちらにも取れたからだ。

 窓から差し込む柔らかな月明かりに照らされて、鏡のように反射する目映い銀髪が揺れ、襟足が長めで首元が細く見えるせいか華奢な雰囲気を与える。

「当て馬にしちゃあ、数が多すぎんだよ。テメェら、全員デクの棒にして屑ばかりだろうが。そこどけ、俺は其奴以外に興味はねえ」

 誰よりも優しい声で明確に敵意を宿した言葉が、桜を溶かし込んだような唇から飛んできた。
 闇夜に蠢く真っ赤な血のような目だけがこちらを見ていた。

「おやおや、誰だか知らないが、ここは帰った方がいいよ、君? 君だって彼みたいにはなりたくないだろう?」

 振り返り、勇ましい言葉に口笛を吹いた護衛の男性は、後ろに使える部下達と嘲笑をあげる。それに侵入者は鼻を鳴らし、

「ハッ、三下風情が。口先だけはベラベラ回りやがる。自分はよわいでちゅーって自分から紹介して、恥ずかしくねえの?」

 それに護衛は青筋を額に浮かべる。高々、相手は1人。引っ込みがつかないから、強い言葉を吐いているだけ、彼はそう考えた。

「──奴に舐めた口がたたけないように、やれ」

 だから、少し痛い目を見せてやろうと思った。

 護衛の合図に部下達の銃口が一斉に侵入者へ向き、轟音と共に飛び出した死の風が開戦の合図になった。

 我先にと弾丸が飛びかう中で、侵入者は避ける素振りすら見せず、首にかけていたホイッスルを口に咥えると、思いっきり吹いた。

「──は?」

 甲高い音が倉庫に反響。それだけで護衛と坊ちゃんと言った男以外が、地面に崩れ落ちた。侵入者は一切、手を触れず、自分の部下達を蹴散らしたのだ。

「お、お前何した!?」

「音波で三半規管揺らして、意識を飛ばしただけだ。って、言ったところで足りねえ頭じゃ理解できねえな」

 護衛の男には目の前で何が起きたか、まるで分からなかった。どちらかと言えばタチの悪いSF映画のような説明に若干の苛立ちを覚えたくらいだ。

『………マーク・ガードナー。元諜報部員だったが、組織からの足切りに巻き込まれて以来、政治家限定のボディーガードをやってる。それで合っているな?』

『………貴様、流暢に英語を話すな。パパとママにでも習ったか?』

『これは俺の能力の一環だ。後、俺に両親はいねえ。そこの男のせいでな』

『そういや、そうだったな。つまり、貴様の目的は復讐という奴か」

 マークと呼ばれた男は油断なく、銃口を向けつつも鋭い目を向ける。

『悪いな、小僧。こちらも金を貰ってる以上、仕事はやらなくちゃいけない。それと助言だ、復讐は身を滅ぼすぞ? 俺が………そうだった』

『ハッ、俺みたいな人間に助言するなんて引退したほうがいいぜ、おっさん。それと返答だが………決めるのはテメェじゃねえ』

『だろうな』

 それを見て、マークはため息をついた。今の現状を省みて、果たして自分は如何するべきかを。

『さっきからやってる事が悪人にしちゃ、チャチなんだよ。テメェ、それでも悪人か? そこらのチンピラにも劣るぞ?』

『それは随分な言い草だ、超能力少年。俺は金さえ貰えれば善でも悪にでもなる。チンピラ風情なんかと一緒に………』

「いい加減にしろよ、お前ら! お、俺にも分かるように話せよ! それに、お前もいつまで過去に囚われてるんだ! 前を向けよ、下らねー!」

 互いの剥き出しの刃のような殺意を前にして、坊ちゃんと呼ばれた青年の精神がついに壊れたらしい。
 それにマークは舌打ちをする。叫んだからでは無い、叫んだ内容に問題があるからだ。

「………六実多朗。父は厚生労働省の官僚。清廉潔白だが、裏では麻薬などの売買に手を染めている。実の息子のテメェはその薬を流用し、幾つもの被害を出している、合っているな?」

「ああ! なんだよ、なんか文句あんのかよ! 俺に指一本でも触れてみろ! パパが黙っていないぞ! それに俺はテメェみたいな正義の味方気取りの男が大っ嫌いなんだ!」

「ハッ、正義の味方ぁ? そんな相応しくねえもんで定義すんなよ」

 侵入者は指を突きつける。まるで照準を定めるように、六実の背中に氷水を入れられたような悪寒が走り、

「──俺はただの悪の敵だよ、クソッタレ」

 指先から放たれた一閃の光が六実の肩を貫いた。

「があっ………!」

「くっ………!」

 マークがすぐさま六実との斜線に入り、引き金に指をかけるが、

「レイン!」

『漸く出番かい?』

 真横から深海のような深い青に染まったサイドテールの少女が、パーカーのポッケに手を突っ込んだまま走って来た。

 マークはすかさずを六実の盾になるように庇いながら、銃口を少女に向けた。

(ボクをそこらの少女と一緒にしないでおくれよ)

「ふがっ!?」

 だが、目に見えない何かが、迫る少女から飛び、マークの鼻っ柱をへし折り、レインと呼ばれた少女に拘束され、地面にうつ伏せで押し付けられる。

『指一本でも動かしたら、腕、へし折るよ』

「くっ………!」

 首から垂らしている音楽機器から流れ出る機械音声が真実だと証明させるように背中に回された自身の右腕に力が込められただけでヒビでも入りそうなほどに少女は怪力だった。

 マークが何とか現状を把握しようとする中、侵入者の携帯から着信の音とともに強気な女の声が流れ出す。

『マスター、アタシの、案内が優秀だったから間に合ったようね』

「おお、サンキューな」

『ふ、ふん。褒められても何も出ませんからね、マスター!』

 電話にしては何処かおかしいと思ったが、それよりも早く、侵入者がマークの目の前に立った。

『奏君。彼で間違いはなさそうだ。どうだい? やるならこのままボクが首をへし折るけど?』

「罪状的にはどうだ? 善か悪か?」

『人殺しはしてるけど………ボディガードとしては優秀ね。さっき言われた通り、金さえ払われれば何でもやるけど………主に善より、お金は出身の施設に寄付しているようよ?』

 意味がわからない光景だった。青髪の少女の口に合わせて、機械から声が流れ、更にはスマホの中から話している声も平然と会話に混じっている。

「………微妙なとこだが、今回の件から手を引くなら見逃す。どうだ、悪くはねえだろ?」

 理解不能な現象を前にして、頭が痛くなるマークに奏と呼ばれた青年が問いかける。
 それにマークの猛禽類のような瞳が収縮する。そして、しばし考えた後に、皮肉げな笑みを讃える。

「命は金に変えられない。今回は引かせてもらおう………正直なところ、君のその怒りには同意しかないところだ」

「………そうか。レイン、解放してやれ。今から俺の言う箇所の武装を全部解除してからな」

『ボクの彼氏に感謝するんだね』

「………全く、人生とは予想の斜め上を行くものだな」

 レインによる武装解除が終わり、身軽になったマークは今になっても喚き立てるしか能がない坊ちゃんを見て、呆れたように笑う。

「おい! 護衛をやめたらどうなるか、分かってんのか!? お前の情報も全部バラしてやる! パパに言いつけてやる!」

『じゃあな、クソ野郎。地獄の片道旅行、せいぜい楽しめ』

「ま、待てよ! 何処に行く! おい、おい!」

 マークは捨て台詞を吐いて、その場を後にすると残されたのは侵入者2人に囲まれる六実だけだった。

「ひいっ………」

 恐怖のあまり、喉の奥から空気が漏れた。肩から流れる血が、彼の意識を辛うじて保たせ、生暖かい液体が股間を濡らしていく。

「そんな怯えた|音《・》出すんじゃねえよ。手元が狂うだろうが」

『奏君。あまり時間をあげて苦しめてやるな。それとも………やりたくないのかい?』

「………そんなわけないだろう」

 レインが今にも|泣《・》|き《・》|そ《・》|う《・》|な《・》奏と呼ばれた青年に悲痛な声をかける。
 レインにとって、それが最後の静止なのだろう。

 けれど、奏は

「これは|僕《・》にしかやれない──他の誰にも出来ないことだから」

 両目から感情の抑制が効かない涙を流しながら、六実に中性的な少年の端正な顔立ちが近づけさせ、人差し指を丸めたそれが巻のおでこを軽く弾く。

「──ッ」

 それだけで黒目から白目へ瞬時に変わり、後頭部からもろに地面に倒れ、そして痙攣。
 そのまま痙攣がおさまるとそこには物言わぬ死体だけが残った。

「後………6人」

 彼──調律奏はそう吐き捨てた。

 *

 虚な|悪夢《ユメ》を見る。

 初めて手を汚してから、ずっと見続けるその夢は。

 朝になり、涙と共に現実へと消え、鈍い頭痛が代わりに意識を浮上させる。

「………チッ、1時間も寝れてねーか」

 携帯の画面からわかる代わり映えのしない現実を前に、俺は自分の顔を撫でた手をなんとなしに見る。

 その手は血で真っ赤に汚れていた。

「………っ!?」

 思わず目を閉じてあければ、そこには男にしては軟弱な、よく言えば白魚のようなほっそりとした手がある。

「………完全にきてんな」

 制服に着替えて、鏡を見る。

 そこにら疲労感の残る顔つきと、どこか虚脱感を思わせる眼差し。だらしなく気抜けした頬も相まって、三拍子欠けて腑抜けていた。

 その面構えを引き締めるために、自分の頬を両手で思いっきり叩く。

 乾いた音と痺れる痛みの後、顔を鏡に映し、顔つきと眼差しと頬を入念にこねながら、念じる。

「──嗤えよ、調律奏」

 使用用途を完全に間違えているであろう自分の能力で、気分を無理やり上げて、感情を固定する。

 決して、あの人達には悟られないように。

「よし、今日も完璧」

 扉を開ける前に俺は、机に飾られた写真についていた埃を払う。

 その写真にはチョコレートを溶かし込んだような茶色の髪をした女性に後ろから、俺が抱きしめられていた写真だった。

「──もうすぐ終わるから」

 そんな言葉だけを残して、部屋を出る。
 あの人を救えなかった俺が言える言葉なんてそれだけだから。

 例え、どれだけ容姿が優れていようと
 例え、神がかった才能があろうとも。

 あの人を救えなかった。
 あの人を救える存在になりたかった。

 だから、僕は──

「|僕《・》は君の神様になりたかった」

 思わず願ったその声は誰にも届かない事を俺は知っていた。

「おお、起きたか! おはよう、奏」

「あ、おはよう御座います………」

 欠伸を噛み殺しながら、降りてきた階段の下で香り豊かなコーヒーを入れるナイスミドルな男性が笑っていた。

「今日の珈琲は格別だぞう! なんと、俺の愛情が入っている。だから愛息子のお前になら呑めるはずだ!」

「無茶言わねえでくれるかなぁ。俺の奴はミルクと砂糖、大量に打ち込んどいてくれ」

「ついでに蜂蜜も入れて、ハニーラテにしとくな!」

「お願いしまーす」

 父親との毎朝のやりとりを終えて、俺は朝食が並ぶ席に座る………前に畳のある部屋に置かれた仏壇の前に座り、蝋燭に火をつける。

「おはよう、琴姉。今日も俺は元気です」

 暫く手を合わせた後、階段から降りてきたもう一人の足音を感じ取り、すぐさま席に腰を下ろして、咳払いをする。

「あら、おはよう2人とも。もしかして私が最後だったかしら?」

「おはよう、母さん」

 父の言葉に母はぽわぽわとした空気を隠さずに、目を擦りながら、既に用意された朝食を前に俺の席に座り、

「おはよう、|琴《・》|音《・》」

「………うん、おはよう! お母さん」

 醒めない夢を見続ける母に俺は返事を返した。

 これが調律琴音を亡くした一家の毎朝の光景だった。

 *

「………奏。本当に大学に行くつもりはないのか?」

 身嗜みを整えて、靴を履き、父親特製の弁当を持った所で玄関に佇む父から声がかけられた。

「………お母さんの事は気にしなくていい。お前が、悪いわけじゃないんだ。そう、お前が悪いわけじゃ………ないんだから」

 あの日以来、姉が亡くなってから母さんは壊れた。帰ってこない姉を探して、夜中に街を彷徨うこともあった。

 大事な大事な一人娘を失った事に、あの人の心は耐えられなかったのだ。

 だから、俺はあの人の代わりになった。髪を伸ばし、女物の服を好んで着るようになった。
 能力を使って、声もあの人と同じ声で会話をするようになった。

 それ以来、母は夜中に街を彷徨う事もなくなった。警察のお世話になる事もなくなった。
 代わりに俺を琴姉だと思い込むようになり、死んだのは義理の弟の奏だと思うようになった。

「お前はもっと、好きに生きていいんだ。お前は幸せになる権利が………」

「父さん」

 |シ《・》|ワ《・》|の《・》|な《・》|い《・》|ス《・》|カ《・》|ー《・》|ト《・》を揺らしながら、振り向き、俺は笑った。

「|僕《・》は、今でも充分好きに生きてるつもりだよ、父さん。だから気にしなくていいんだ」

 そうだ、俺は好きであの人の代わりを演じているのだ。本来ならば死ぬべきだったのは自分の方だったのだから。

「だが………」

「あ! やべ、遅刻する!」

 いつもならここで退く父だったが、今日は珍しく食い下がるので、時間を言い訳にして、扉を開けて、学校まで走り抜ける。

「あ、いってきますって言ってねえや」

 何となく心地の悪さを抱えながらも、ギリギリ高校に滑り込んだ俺は自分の教室へと足を運んでいく。

「おはよう、奏! 後で相談してもいいか!」

「奏さん! 少しお話が!」

「奏、助けて欲しいんだけど!」

 俺は声を掛けて来る皆に手を上げて、挨拶を返しながら、先程の父との会話を思い出していた。

 そもそも揃いも揃っていい大学に行くためだけにアホ面並べて勉強して、部活なんざで活躍するために練習するなんて、阿呆らしい。

 それより、重要な事があるだろうが………

「頼む、調律! あの子に告白するにはどうすればいい!?」

「ハッ、俺の見立てじゃあ彼女はロマンチックなのがお好みだぁ! 水族館から洒落たカフェで告白しやがれ! おすすめデートスポットは後でデータ化してやるよお!」

「さっすが、恋愛マイスター! 頼りになるぜ! じゃあな、うまく行ったら連絡するよ!」

 そう──恋愛だろうがァァァァ!

 放課後の教室で、甘く触れ合う2人、
 誰も来ない体育倉庫でちょっと過激に、

 誰もが一度は考えた事があるよな? ないとは言わせねえ。

 恋愛をしている奴から生まれる幸せの|波《・》はいいものだ。
 能力の影響から、俺はそういう奴らを応援し、見守る事が趣味になった。

 学校に着いた俺はいつも通りに、恋愛相談の進歩を聞き取り、幸せそうな皆を見て、ほっこりする。

「にしてもさ、奏は自分の事は本当に鈍感だよね〜いつになったら、鈴雨さんの思いに答えてあげるのさ?」

 朝の恋愛相談が終わり、隣に座るミルキーベージュ色の髪を短く切った細身ながら鍛えられている事が分かる青年、風桐礼央からそんな言葉をかけられる…が

「少なくともテメェにだけは言われたくはねえよ! 鈍感力の鈍感王たるバカにはな!」

「誰が馬鹿だようっ!? 僕を365度見てもモテてる要素はないでしょ!」

『実質5度しか見てないんだけど、それ』

「テメッ、エスポワール! 学校で出てくるなって言ったろうが!」

 途中で割り込んだ機械音声の声に遮られる。胸ポケットに入れていたスマホを取り出せば、その画面には憮然とした態度の雪のように儚げな白い髪をボブにした電脳少女が腕組みしている。

『ハッ、私が出てきた所で社会的に死ぬだけでしょう? いたいけな少女を画面のど真ん中に置いてるのなんて、アンタだけよ?』

 こちらをジロリと青い目が睨む。目鼻立ちも整っているせいか、無駄に怖いのは如何なものか。

「テメェが好きで居座ってんだろうがぁ!」

 こいつはあるゲームをダウンロードした際に添付されていたデータを開いた時に俺のスマホに住み着いたのだ。

 名前がないからつけろとうるさかったので基本的にゲームの主人公につける名前にしてみれば、案外気に入ったらしい。

 因みにゲームの名は『レゾナンスワールド』巷で話題のソシャゲだ。

 かなり自由度が高く、魔法世界に存在する科学の街を発展させながら、自分を転移させた神やその使いとバトルするというものだ。

 何より特徴的なのが、ゲームに出てくる好きなデザインのNPCと仲を深める事で、誰でも好きな相手を仲間に出来るのだ。

 数は7人までと決まっているが、その自由度の高さから男女問わず、夢中になり、ネットでは嫁や旦那論争が絶えない。

 なお、常駐しているサイトの全員には俺の主人公が嫁にしたヒロインの良さを語り、嫁論争を終了させた。

 今でも俺は自分の主人公とヒロインの押しCPを進めてはいるが、あまり芳しくはない。だが決して、俺は諦めたりなどしないからな!

 話を戻そう、こいつには最初は戸惑ったのだが、朝からけたたましいサイレンを鳴らしたり、人のゲームデータを削除しようとしたりと、厄介極まりない女なのである。

『おはよう、奏君。朝から元気で何よりだ、所で今日は君の為に髪型を変えてみたんだが、昨日のボクと今日のボク、どちらが好みかな?』

「悪いがレイン、今取り込み中だ。どうやったらこの人造エネミーを消せるか、考え中でな!」

『ちょっ、やめなさいよマスター! あーはいはい! 私が悪うござんした! もういいわよ、ふん!』

「あ、消えたね」

「何だったんだ、ったく」

 俺はスマホをしまい、後ろの席に座る|鈴雨《レイン》へ体を向ける。
 藍色の滑らかな髪をサイドに纏めており、真珠のようなきめ細やかな肌との色合いのバランスもいい。

 唯一の異物として、ネックレスのように首から下げている音楽機器から機械の音声が彼女の声の代わりをしている事だが。

『おや? もしかして今日の髪型の方が君の好みかな?』

「まあな。お前はいつもいい女だが、今日は特別にだ。それに………俺を止めようとしてくれたのは記憶の中でもお前だけだ」

『──そうか』

 昨日の光景を思い出してか、彼女の表情が曇る。けれど直ぐにそれを誤魔化すように高らかに笑って

『つまり君は今日の髪型のとか関係なく、ボクが好きだと』

「誘導やめてくださーい」

 いつものようなやり取りを交わす。

 所々ついた筋肉が、モデルのようなスタイルである彼女を作り出している。レインは若干いじけながらも吸い込まれるような緑の目を向けてきた。

『でも奏君は漫画に良くある借り物競争とかに『好きな人』って書かれてたら、ボクを選んでくれるんだろ?』

 茶目っ気なしの真剣な声で、能力でも感じ取れる恋の波を前にして俺は後ろめたさから目を逸らす。

「僕思うんだけど、遠恋してる人がいたらそのまま地方まで出向いたりするのかな?」

「そんな可能性は考慮されてねえし、ちょっと黙ってくんねえか? 頼むから」

 ………こんな俺に好意を向けてくれるのは凄く嬉しい

「悪りぃ。俺は『幸せになっちゃいけないから』………」

 それでも俺は幸せにはなってはならない人種だから。

『まあ、いいさ。ボクは気長に待つとしよう。だから──』

「けど!」

 悲しみの音を隠すように笑った彼女の言葉を遮って、俺は自分の正直な思いを口にする。

「お、俺は、お前を選ぶよ、必ず。一緒に、ゴールもする………そ、卒業までには」

『────!!』

「だから………報いを受けた後に必ずお前を俺は選ぶよ」

 教室にいた皆から、信じられないものを見たとばかりな視線を浴びる。
 そして、一瞬の静寂の後、

「調律の奴が遂にデレたぞぉぉぉぉぉ!!」

「朗報、朗報! 恋愛マイスター! 遂に陥落! 勝利者インタビューを急げ!」

「良かったねえ、ぐす…本当によかったねえ、倉樹ちゃん」

「長かったわ、漸く彼女が報われる時が来たのね………」

「テメェらうるせぇェェェェェェェェェェェェェェェェ!! そんなにおかしいか、あ゛あ゛!?」

 まるで甲子園優勝を果たしたとばかりに盛り上がる教室。廊下の窓からは情報がもう伝わったのか、俺が世話した奴らが横断幕を掲げている。

「じゃあ、僕はこの辺で。結婚式には呼んでね? 真と一緒にお祝いするから!」

「逃すかテメェ! テメェ神の眷属だろ! 何とかしろやァァ! 恥ずかしくて居た堪れねえ!」

「離せリア充野郎! 君との絆はここまでだ! 裏切り者に僕は手を差し伸べたりしないっ!」

「元はと言えばテメェが発端だろうが! 俺だってなぁ、告白の仕方とか、色々考えてんだよ! テメェの流れ弾のせいで全部台無しじゃねえか!」

 騒ぎ立てる中で、俺は胸ポケットに入れたスマホが震えていた。またエスポワールが暴れているのかと思い、スマホを取り出す。

「エスポワール、今は取り込み中──」

『マスター! 今すぐここから離れて!』

「あ? 何を──」

 レオの首根っこを掴み、エスポワールの鬼気迫る声に顔を上げれば

 俺と目の前のレオと後ろのレインの足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。

 その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様──俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

 その魔法陣は徐々に輝きを増していき、俺たち3人を何らかの力の結界に閉じ込める。

 異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。

「テメェら! 教室から出ろ!」 

 咄嗟に叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したように光ったのは同時だった。

 数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に3人はいなかった。

 教室の備品はそのままにそこにいた3人だけが姿を消していた。

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