儀式(あの日から彼女は上履きを履かなくなった)の第2話 全10話で完結
儀式(あの日から彼女は上履きを履かなくなった)2
作者 咲玖タライ 得点 : 1 投稿日時:
「ね、そういえばあそこ取り壊されるらしいよ~」
「え、あそこってどこ?」
僕は久々に開いた小説に目を通しながら、女子たちの会話を盗み聞きしていた。
「ほらっ、あそこあそこ……花枝の家のすぐ近くの神社!」
「えっ、神社なんてあったっけ」
「鳥居あるでしょ? あそこ抜けたとこだよ~」
えっ、と思わず声が出てしまった。
小説を取り落としそうになりながら、慌てて二人の元へ行く。
「鳥居って、まさか西方面の⁈」
「え、あ、うん」
二人はきょとんとした顔で僕を見つめ返した。当然だ。僕はクラス内ではそんなに目立つ方ではないし、ましてやこの二人と話したことなんて数回しかない。
「ご、ごめん……」
僕はハッと顔を上げると、そそくさと席に帰った。
「何君だっけ」
「幹雄くんじゃなかったっけ? どしたんだろ……」
二人の会話に顔を赤らめながらも、僕は頭をフル回転させて考えた。
神社が……取り壊される?
僕の脳裏にあの光景が蘇る。しかし何とか忘れようと頭を必死にふった。
―――じゃあ、あれは一体どうなるんだ?
カメラを持ってもう一度あそこに行こうか? ―――いや、精神的にそれは無理だ。じゃあどうする? でもあの事実を誰にも知られないままでいいのか?
そうだ。
A子さんに言おう。
放課後、僕はA子さんのクラスをノックした。いや、本当ならノックする必要などないのだが、今日はなぜかしなければいけないような気分になったのだ。
「A子、さん?」
小声でそう呼びかけると、小さな返事が返ってきた。
「よかった~、いつもの席にいた」
僕はいつもA子さんが座っている席にA子さんの姿を見止めると、安堵の声を漏らした。
「どうしたのよ、いつもいるじゃない」
A子さんは笑いかけながら小さな声で言った。誰もいない教室に響き渡る。
僕はゆっくりとA子さんの席に近づき、いつものように隣の椅子を拝借してA子さんの隣に並んだ。
「……あのさ」
「何?」
深刻な様子を察知したのか、シャーペンを持っている手を止めてこちらを向いた。
「鳥居……の奥の神社が…………その、……壊されるんだってさ」
「!」
周りの空気が止まった……ような気がした。
A子さんは僕の右を見たまま動かない。
「だから……その、どうするかなって」
「壊されるんだ」
いつもの笑顔をなくしたA子さんは、少し不気味に感じられた。
「あれ……どうなるんだろ」
A子さんが乾いた唇を動かして言う。
「か、カメラとかで撮っといた方がいいのかな」
僕は少しでも場を明るくしようと声を上げて言ったが、声が裏返ってしまい逆効果だ。
お互いが俯き、しばらくの沈黙が流れた。
「……でも、幹雄君……つらいんじゃない?」
「そ、そんなこと……」
「そんなことないよ」と最後まで言い切ろうとして、言葉が途切れた。
「なら、私が一人で行くよ。写真とかやっぱ残しといたほうがいいでしょ。もしかしたらなんか重大なことかもしれないし、さ」
「え、A子さんが行くなら僕も行くよ! A子さん一人に行かせるなんて……」
またも言葉が詰まってしまった。
「……多分もう一度見たらあなたはおかしくなってしまうわ。きっと」
「……」
僕は何も反論できなかった。
「いつ取り壊されるの?」
「分からない」
A子さんはそれだけ聞くと、シャーペンを置いて勢いよく立ち上がった。
「A子さん!」
僕は悲痛な叫び声をあげた。
そして何気なくA子さんの足元を見た。
ひざから下が消えていた。