小説のタイトル・プロローグ改善相談所『ノベル道場』

記憶喪失の俺が、メイドになってお嬢様に仕えるワケ (No: 1)

スレ主 かもめし 投稿日時:

こんにちは、度々お世話になっているかもめしと申します。
皆様の回答を頂いて新しくプロローグを推敲してみました。
設定説明が多すぎるということで、それらを省いてキャラの特徴やその魅力を盛り込んでみましたが……正直自信がありません。
ヒロインの魅力が皆様に伝わるかどうか……ものすごく不安です。自分でも、あれ?これって魅力、なのか?状態です。
世界観は、魔法とドラゴンを盛り込んだファンタジーです。皆様のご意見やご感想を頂ければ、幸いです。

(あらすじ)
「それで? 殺害方法は考えついていて?」
クーヤの主人――セレス嬢には殺害したい相手がいるらしい。
らしい、という曖昧な表現なのには理由がある。それはクーヤが、殺害相手の名前もろとも過去の記憶を喪失してしまったのだ。
彼女が殺害したい相手は誰か? 

「お前が思い出したらすべて教えてあげるわ。えぇ……すべて」

喪失した過去を取り戻した時、世界は戦乱の波に包まれる。

プロローグ

プロローグ

放課後のサロンの利用者は多い。サロンはアールヌーヴォー調の内装に瀟洒《しょうしゃ》な調度品が余裕を持って配置されている。学校内でももっとも上等な空間なのは間違いない。
 故に、利用者は学院に対して多額の寄付を行った名家のみに限られるため、平民からの成り上がりは利用できない不文律がある。
 そんな中、ひときわきらびやかな存在感を放つ女子生徒が、サロンのテラス席でアフタヌーンティーを楽しんでいた。
 腰まで届く艶やかな髪の毛は匂い立つ薔薇のように紅く、切れ長のまつげに縁取られた瞳は青玉をはめ込んだようだ。
髪に劣らず華やかで美しく整った顔には高貴な面差しがあるが、焼き菓子をゆっくり味あうその表情はだいぶ幼く見える。
「このふわふわ……まるで雲みたい。噛めば噛むほどチーズの酸味と甘みが口いっぱいに……あら? あららら?」
「セレスお嬢様、いくら人払いをしているかといって此処はパブリックスペースです。痛々しい奇行はお控えください」
 とろけそうなほど甘い笑顔を浮かべるセレスにすかさず苦言をていしたのは、鼻筋までを銀仮面で覆い隠す、彼女の傍付きのクーヤだ。
「一瞬ね。やっぱり一瞬で消えちゃったわ。残念……もう少しチーズの余韻に浸りたかったのに」
 そんなクーヤの苦言も何のその。マイペースに感想を述べた後、彼女は本日三度目のおかわりを要求してから、
「それで? 殺害方法は考えついていて?」
 ちゃぷん――と。
ポットのお湯がこぼれ落ちる音が妙に大きくクーヤの耳朶を打った。
「……それが俺《・》に女装をさせる理由ですか? セレスティアお嬢様」
 クーヤは金色の縁取りが入ったグリーンのカップをテーブルに置いてから、醒めた口調で問い返す。
 メイドとしては無礼極まりないが、セレスは何故か嬉しそうに頬を緩め、ナナメ下方からコケティッシュな流し目を乗せて、
「さぁ? どうだと思う?」
 それがあなたち冗談でもない、とにおわせるセレスはその可憐な唇に小悪魔的な微笑を浮かべた。稀有な美女のルックス、女性らしい抜群のスタイルと相まって、男を狂わせずにはいられない蠱惑的な雰囲気を醸すが、クーヤは眉間に皺を寄せて険しい表情を浮かべる。
「それがただの戯言であることを切に願います。お互いの将来のためにも」
「将来……ねぇ」
 セレスは紅茶をふっくらした唇に含み、ゆっくり味あうように目を閉じた後、「おいしい」と満足そうに呟く。
 綺麗に反り返った長いまつげを持ち上げて、口元をほころばせるだけで紅い薔薇が咲き匂うような華やかさが増す。
「……お気持ちはお察ししますが、あまり目くじらを立てない方がよろしいのでは? そんなことよりも今は間近に迫った野外実習に集中した方がよっぽど建設的です」
 来月に迫る野外実習の話題を持ちだすが、セレスはすでに追加の焼き菓子に夢中だ。
 そんなやる気のない主人に苛立ちが募り、クーヤは素早く彼女から焼き菓子を取り上げた。
「ちょ、やだ。なにするの!? わたくしの数少ない癒しを邪魔する気!?」
「少しは真剣に考えて下さい。まだ野外実習の内容すら決めていないでしょう!」
 彼女から焼き菓子を遠ざけ、野外実習に関する書類の束を差し出す。すると彼女は弱々し気に呻いたかと思うと、もごもごと口ごもりながら、
「まったく。今も昔も……お前は口うるさいわ」
 昔の話を持ちだされ、クーヤの小言が止む。
 不意打ちを受けたような彼の表情を、セレスは切なそうに見やる。
「……俺の過去を教えてくれる気は?」
「まったくないわ。出直してらっしゃい」
 ぐぅ、と悔しそうに呻くクーヤをセレスはくすくす笑った。
「そんなことよりもお前の方はどうなの? 魔具師の店主はうまくいっていて?」
「露骨に話題を挿げ替えないでください。まったく……ご心配には及びませんよ。親方の腕は天下一品ですからね。今では親方の魔具を求めて行列ができるほどです」
「まぁそうなの。さすがクーヤの先生ね」
 称賛するポイントがどこかずれている気がするが、それをあえて指摘するほどクーヤは無粋じゃない。そうですとも、と相槌を打つ。
「これもお嬢様の慈悲のお蔭です。親方たちもお嬢様に感謝申し上げておりました。嗚呼、そういえばお嬢様の護符が少し痛んでいましたね。実習も迫っていることですし新調なさってはいかがでしょうか?」
 セレスはきょとんとしたが、すぐに内容を理解すると「まぁ!」と目を輝かせて食いついた。
 釘は刺したつもりが、どうやら彼女の脳内で実習という単語は除外されたようだ。それでも挿げ替えられそうになった話題をそれとなく修正できたことにクーヤは満足する。
「楽しそう。もちろん見繕ってくれるのでしょう?」
「えぇ、もちろん」
 間髪入れずにクーヤが了承すると、セレスはふっくらした唇をほころばせ、弾んだ声で「絶対よ」と上目遣いで念押ししてくる。
 そんな年相応の無邪気なセレスの仕草はとても子供っぽく見える。主人なのに、まるで年下の我儘な妹を相手にしているかのような微笑ましさを覚え、クーヤの頬が自然と弛んだ。
(――あれ?)
 ふと、クーヤの脳裏に誰かの面影が浮上した気がした。
 けれど、その面影は猛禽を思わせる太い雄叫びによって掻き消された。
 二人は揃って空を仰ぎ見る。
 遥か高みの、切なげに染まりかけた夕雲を黒い影が突き破ってくる。それはみるみるうちに、対の翼、長い尻尾、鉤爪を備えた四肢までが見て取れるようになった。
「お嬢様!」
「えぇ。すぐに準備を」
 セレスの指示を受け、クーヤは足早に飛竜《ドラゴン》を迎え撃つ準備に走った。
「おっ飛竜《ドラゴン》だ!」
「ひゅー。我らが飛竜《ドラゴン》使い様方のご帰還か?」 
「まぁ! 新しい飛竜《ドラゴン》使いのおツレ様なの? わたくしまだお目にかかったことがないのよ」
 周囲から和気藹々としたざわめきが起こる。しかし、その背中に誰も騎乗していないことが判明するや否や、未熟な生徒たちは然るべき反応を見せた。
「おい! 待て待て待て! あれは自由な飛竜《ドラゴン》じゃないか!?」
「嘘だろ!? 我らが飛竜《ドラゴン》使いたちは何してんだよ!」
「お、落ち着きなさいませ! わたくしたちは誉れ高き準騎士《エクスワイア》の地位を預かる者なのですのよ! 例え天敵が襲って来ようとも冷静に」
 怒号に悲鳴。これが騎士の最高位――【竜騎士】を目指す者の態度か、と逃げ惑う生徒たちを冷めた目で一瞥し、クーヤが重そうにワゴンを押してセレスの元に投擲物を運び込んだ。
「お待たせしました!」
「……クーヤ、それは一体なんの真似事かしら?」
 セレスが胡乱な眼差しで、矢筒と弓を装備するクーヤを見た。
「微力ながらも援護します」
「そんなこと望んでいないわ。ただの見習《ペイジ》は準騎士《エクスワイア》に守られていなさいな」
「ご冗談を。俺は見習《ペイジ》ですが、お嬢様の傍付きですよ。主人が戦うのに傍付きがそれを補佐しないで何が傍付きですか」
 矢筒から抜いた矢を地面に突き刺し、手近にあった燭台を持ちだしてろうそくの火をその矢じりに移す。
 事前に矢じり部分に油でも仕込んでいたのか、矢じりは勢いよく燃え上がる。
「弓術の心得はあります。ただなにぶん我流でありますので、お嬢様のような洗練さは欠片もございませんが」
「洗練? おかしなことを言うのね。この非常時に洗練なんて……」
 クーヤが用意した投擲物は中身がぱんぱんに詰まった皮袋だ。運搬しやすいようについた持ち手を、セレスがおもむろに両手で握る。
「コカトリスの餌にもなりませんわ!」
 人、一人入りかねない袋を、セレスはいとも容易く持ち上げて投擲した。
 まるで小石を投げるように軽々と。その細腕からは信じられない腕力だ。
 クーヤの放った火矢がそれに追従する。狙いは誤らず投擲物に着弾した直後、ドォンッと爆発が起こった。
『くさっ!? げぼっ!!』
 そんな悲痛な叫びがクーヤの耳朶を打ったが、彼は都合よく聞こえないふりをした。
「……クーヤ、あれに一体何を仕込んだの?」
「油と粉末ですが……何か問題でも? お嬢様、飛竜の動きが鈍っています! 今ならこれで狙い撃ちし放題ですよ!」
 目に見えて弱った飛竜《ドラゴン》の姿に、セレスは訝しんだが一理あるクーヤの進言に表情を引き締め、彼が差し出す投擲物を次々に投げ込んだ。
弱った飛竜《ドラゴン》は最早ただのカカシだ。滅多打ちにされ、そのうちの一つが急所に命中した。
ギャオ、と痛みで大きく吠えた飛竜《ドラゴン》の巨体が大きく傾ぐ。
飛竜《ドラゴン》はその衝撃に思わず身を引き、嫌がるように空中で向きを変えて逃亡した。
『くっさああぁぁああい!!』
 クーヤはまた都合よく聞こえなかったふりをして、主人の勇姿を拍手でもって称賛した。
 しかしセレスの表情は険しく、素知らぬ顔で称賛するクーヤをじろりと睨みつけた。
「ねぇ、クーヤ」
「さすがお嬢様です」」
「ねぇ、ちょっと」
「投擲スキルと強化魔術だけなら、あの飛竜《ドラゴン》使いの弟君にも勝りますね」
「わたくしが厳選した粉チーズとハードチーズをどこへやったのかしら?」
「いやー、ですがやはり飛竜《ドラゴン》は頑丈ですね。あの凶器を食らってもよろけるだけですものね。人間ならまず間違いなく即死ですけど……ですが、さすがに今回はその鋭い臭覚が仇になりましたね。はは……いたっ!?」
 不意にセレスが振りかぶった扇子がクーヤの頭部を強かに打った。
「このうつけ! 主人の好物を投擲物に扱うなんて」
「いたいっ。ちょっ、致し方ないでしょう!? そう都合よく飛竜《ドラゴン》を撃退できる凶器なんて用意できませんし! いたっ、つかそれらを調理するこっちの身にもなってくださいよ! 毎度毎度重くて臭いったらありゃしな……いたっ!」
 その後、遅れて到着した竜騎士が止めに入るまで、彼らの攻防は続いたのだった。

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記憶喪失の俺が、メイドになってお嬢様に仕えるワケの返信 (No: 2)

投稿者 田中一郎 : 0 No: 1の返信

投稿日時:

見違えるほど良くなったと思います。
あとは自然な形で必要な設定を見せつつ、話とキャラクターを動かしていければかなりの作品になりそうです。

以下細かいですが文章、表現の問題点。
・鼻筋までを銀仮面で覆い隠す、彼女の傍付きのクーヤだ。
鼻筋までを銀仮面で覆い隠したメイド、彼女の傍付きのクーヤだ、のように、メイド姿であることを最初に伝えたほうが良いかなと思いました。

・俺《・》に女装を
《・》が私には意味不明です。文字化けでしょうか?

・それがあなたち冗談でも
多分誤字だと

・「……お気持ちはお察ししますが、あまり目くじらを立てない方がよろしいのでは?」
このクーヤのセリフにある「目くじらを立て」がおかしい気がします。セレスは微笑んでますので、目を吊り上げて怒る表現は合いません。内心の怒りを表したいなら何か他の類語に変えたほうが良いかなと。

・重そうにワゴンを押してセレスの元に投擲物を
投擲物というのは投擲された物のことなので、まだ投擲されてない物は他表現をした方が良いと思います。
後ほどでてくる「彼が差し出す投擲物を次々に投げ込んだ」の部分も同様です。

・矢筒から抜いた矢を地面に突き刺し、手近にあった燭台を持ちだしてろうそくの火をその矢じりに移す。
サロンのテラス席は土むき出しなのでしょうか? あと、矢じりに火をつけるなら先に点火してから突き立てる方が自然だと思います。
あと、油と粉末を詰め込んだ袋に火矢を刺して爆発するものでしょうか? 私も詳しくはないので明言はできないのですが、油は気化して酸素と混合されないと燃焼しないので、直後に爆発することは無いのではないかと思います。

長所。良かった点

キャラクターストーリー、設定、全てに先を読みたくなる魅力があると思います。

良かった要素

ストーリー キャラクター 設定 オリジナリティ

記憶喪失の俺が、メイドになってお嬢様に仕えるワケの返信の返信 (No: 3)

スレ主 かもめし : 0 No: 2の返信

投稿日時:

田中様、嬉しい回答ありがとうございます!
田中様を始め、貴重なアドバイスの元いろいろと推敲してみました。ので、かなり粗が出てますね(汗)
チーズは燃える……じゃあ爆発させちゃえ、と安易にやっちゃいました!
もう少し練って、自然な形で必要な設定を加えつつ、誤字を直します。
もし差し支えなければ、田中様が必要と思う設定を教えて頂けたらとても嬉しいです。
ありがとうございました!

記憶喪失の俺が、メイドになってお嬢様に仕えるワケの返信の返信の返信 (No: 4)

投稿者 田中一郎 : 0 No: 3の返信

投稿日時:

チーズを武器にしてしまうというアイデアはとてもいいと思います。
個人的に工夫をこらしたバトル物は好物ですので、その部分は取りやめるよりはむしろ活かす方向で考えたいところです。そうなると読者を納得させてしまえる設定が欲しいですね。
実在科学でチーズを爆発物(武器)にする方法を見つけて採用するか、それともファンタジー世界ならではの方法を採用するか。
前者でちょうど良いものがあるなら問題ありませんが、後者だと冒頭で使用するとご都合主義で安っぽくなることもあるので要注意。最も、安易に見せておいて実は布石で、終盤に回収するなんて手も使えます。
多少苦しくなろうが、面白くなりさえすれば正義です。やりようはあると思います。

現状すぐに思いつくのはこのぐらいです。

記憶喪失の俺が、メイドになってお嬢様に仕えるワケの返信の返信の返信の返信 (No: 6)

スレ主 かもめし : 0 No: 4の返信

投稿日時:

田中様、何度も貴重な回答をありがとうございます!
凶器にチーズを使うのはどうかと悶々と悩んでいましたが、田中様の回答のお蔭で踏ん切りがつきました!
このままチーズ案は続行で、もう少し練ってリアリティを出せるように頑張ります。
また何かございましたら遠慮なくお声がけをお願いします。

記憶喪失の俺が、メイドになってお嬢様に仕えるワケの返信 (No: 5)

投稿者 手塚満 : 0 No: 1の返信

投稿日時:

おそらくは1~2日という短期間で、よくここまで改稿できたと思います。設定情報はバッサリ削られている点は、作者さん(スレ主さん)としては、かなり辛かったのはずです。せっかくアイデアを起こして、設定まで練り上げたはずですから、少しは出したいのが人情でしょう。が、よく思いきられました。

ただ、お急ぎのせいか、粗削りであるようにも感じます。前回は大枠で考えての回答だったので、細かい点は抜きにしました。今回は少し詳しく見てみようと思います。単語選択等で既出のご指摘と被るものが出るかもしれませんが、ご容赦をお願いいたします。また、いろいろ長くなってしまっていますが、駄目出しをする意図ではありません。いろいろ可能性を考えましたので、文章量が増えてしまっただけです。

1.出だしの描写について

> 放課後のサロンの利用者は多い。
(細かいことを申せば、字下げがない。バサバサ削っては調整したからでしょうか。急造した影響を感じます。)

作者さん(スレ主さん)は既に「ここはアルイル総合士官学校内だ」と想定してお出でですね。しかし読者はまだ知りません。書き出しは慎重であるべきです。これだと、読者は面食らいます。「放課後」からは「学生が登場するらしい」と読めます。しかし、「サロン」がどこにあるかは分かりません。

現代の学生だと、放課後に学校の近く、あるいは(電車などを含む)通学路途中に寄り道することはよくあります。しかし、学校内にサロンに相当する息抜きできる場所がある例はあまり知らないはずです。

ですので、上記一文で「学校の外」をまずイメージしてしまう恐れがあります。

> サロンはアールヌーヴォー調の内装に瀟洒《しょうしゃ》な調度品が余裕を持って配置されている。

「アールヌーヴォー調」は、御作がドラゴンや魔法のある世界であることから、要注意な言葉になります。フランス(やベルギー等)が、この作品世界にあると示してしまうからです。かつ、19世紀末以降の世界であるとも示したことになります。「アールヌーヴォー調」という単語だけで、かなり世界設定が絞られてしまうわけです。

もしくは、地の文の語り手が読者の現実世界と、作品世界の両方を知っているキャラになります。全知に近いキャラになり、以降は嘘は付けませんし、知らないこともあってはいけなくなりますし、わざと大事なことを語らないことも許されなくなります(でないと、読者からは卑怯な語り手という印象が生じかねない)。

「ハリー・ポッター」のような世界観(現代に魔法とドラゴン等を持ち込んだファンタジー)ならいいんですが、そうでないなら現実世界の名詞を使うのは慎重になさるべきだと思います。

> 学校内でももっとも上等な空間なのは間違いない。

続く一文で「学校内」となって、場所に対するイメージの揺らぎが解消されています。一段落内だし、連続する文だとお考えかもしれませんが、読者への配慮は入念にする必要があります。こういうことが積み重なると、「なんとなく読みにくい」と感じてしまう恐れがあるからです。

これが、わざと揺らがせる、イメージ確定を遅らせて驚いてもらう、といった狙いでしたらいいのですが、出だしですし、この後を読んでもそういう狙いがあるようではありません。

最も簡単に問題を無難に解消するなら、例えば、

> 放課後のサロンの利用者は多い。サロンはアールヌーヴォー調の内装に瀟洒《しょうしゃ》な調度品が余裕を持って配置されている。学校内でももっとも上等な空間なのは間違いない。
>  故に、利用者は学院に対して多額の寄付を行った名家のみに限られるため、平民からの成り上がりは利用できない不文律がある。
 ↓
>  ここ、アルイル総合士官学校のサロンは校長室でも及ばないほどの、校内でも最も豪奢な場所に違いない。内装の曲線美、調度品の瀟洒なことは類を見ない。それだけに事実上、富裕の名家の子弟のみが利用を許されていると言える。

などでしょうか(あまり練れておらず、すみません)。

2.投擲物・革袋

出だしはあまりに細かく申し上げましたので、少し端折って申し上げてみます。後半の飛竜騒動で、撃退の主アイテムが(後で明かされる情報を含めますと)「粉チーズとハードチーズが詰まった革袋(焼き菓子の材料)」ですね。そのこと自体は、冒頭の焼き菓子が伏線として機能している感じで、うまい運びだと思います。

ただ、イメージを思い浮かべるには不都合な情報の出し方になっています。最初に「投擲物」と表現していますね。

> これが騎士の最高位――【竜騎士】を目指す者の態度か、と逃げ惑う生徒たちを冷めた目で一瞥し、クーヤが重そうにワゴンを押してセレスの元に投擲物を運び込んだ。
(細かいことを申せば、主語クーヤを出すのがちょっと遅いかも。「~、と逃げ惑う生徒たちをクーヤは冷めた目で一瞥し、~」などのほうがイメージしやすそう。)

こう表現すると、運び込んだ物の目的は分かりやすい。ですが、形状が分からないわけです。絵的にはっきりイメージできず、絵の中に[投擲物]と文字を入れたような感じでしか想像できません。

ここはリアリティとスピードが必要な場面のはずです。迫りくる飛竜と対抗手段をくっきりイメージできないと、かなり損、もったいない。上記一文からかなり経ってから、

>  クーヤが用意した投擲物は中身がぱんぱんに詰まった皮袋だ。運搬しやすいようについた持ち手を、セレスがおもむろに両手で握る。

と描写されています。これでは逆です。イメージしやすいのは、形状の革袋と示してから、使用目的の投擲物と表現する流れです。これより前にセレスが、

> 「……クーヤ、それは一体なんの真似事かしら?」
>  セレスが胡乱な眼差しで、矢筒と弓を装備するクーヤを見た。
(これも細かいことながら、おそらく「真似事かしら?」(何かを真似ているのか?)ではなく「真似かしら?」(何をしているのか?)が適するはず。ただ、台詞は多少の言葉の混乱はあっても可。)

と言って、クーヤの行動に疑問を呈していますね。かつ、プロローグ最後のオチで、セレスが投げたのはチーズと気が付いてスラップスティックコメディになる。そこも踏まえると、なおさらに形状が先です。セレスの疑問に読者を同調させられれば、オチも効いてくるからです。

ですので、革袋→サイズ(人が入る)→投擲物、という順で情報を出すように文章を工夫してはどうかと思います。

3.爆発物について

既出ですが、チーズが爆発するのか、というのは疑問になります。読んでいて引っかかってしまうわけで、スラップスティックの騒動で締めくくるのを妨げかねません。「あれ?」と思いつつ笑うことはできませんから。
(その他、「じゃあ、焼き菓子も容易に爆発するのか?」「焼き菓子を焼いているときになぜ爆発しない?」等の疑問、邪推も生じかねない。)

ただ、スラップスティックでプロローグを締めくくっているため、ある種の手法は使えなくもないです。例えば。セレスに「どーやったら、チーズがあんな風に爆発すんのよ!」と叫ばせる。クーヤが「そこはそれなりの工夫でってことで」とか返し、少しながらきちんとドタバタを見せておけば、ノリで押し切ることもできます。

もしそうしてみた場合、注意点も生じます。チーズで武器が作れる、が設定上のデフォになってしまうことです。チーズが爆発物になれるなら、他の何でもないものも兵器になり得る、と読者は想定してしまいます。この後のストーリーに影響を及ぼすわけですので、設定を出すのは慎重に行う必要があります。

そこを避けたいのなら、「単なる爆発物では飛竜には不足だから、飛竜が嫌いそうな匂いを持つチーズも混ぜ込んだ」としておくのが無難になるかと思います。

そしてセレスが飛竜撃退後に怒り出すわけですが、チーズの伏線の使い方がもったいないような気がします。

> 「わたくしが厳選した粉チーズとハードチーズをどこへやったのかしら?」

で、チーズに言及するわけですが。チーズがなくなっていることに気が付いたセリフですよね(どうして在庫に気が付いた、というのは置いておきます)。ドラゴンは臭がっている。

セレスも匂いに気が付いてもおかしくない(必然ではないが、不自然にはならない)。飛竜だけでなく、セレスも攻撃中に「あれ、この匂いは?」といぶかしがったほうがいい(好物だから飛竜と対照的に、嫌悪感を示さず、むしろいい匂いという雰囲気で)。だけどバトル中は緊張しているので、それ以上はセレスは考えない。

飛竜撃退後、ようやく投擲物の正体に気が付けばいいわけです。かつ、量からして在庫を大幅に減らしたことにもセレスが気が付き、思考を進めて、例えば「これでチーズは在庫切れ、再入荷まで一週間は焼き菓子が食べられない」と結論し、クーヤに対して怒りが爆発、二人がドタバタと揉める、という段取りへの移行がスムーズに可能にできると思います。

要は、セレスの情動やテンションに読者を巻き込むということですね。クーヤは何をどうしているか知っているわけですから、クーヤ視点で読んでしまうと意外性がなく、スラップスティックへの移行も下手すると無理矢理感が出かねません。セレスであれば、飛竜撃退シーンではクーヤに主導権を譲っていますので、振り回されて感情(疑問→驚き→安心→怒り等)も動かせます。

4.ドラゴンの念話

前回も拝読しておりますので、『 』表記の台詞は飛竜のものだと思いました。もしそうではないのでしたら、この項はスルーしてください(ただし、それでも台詞主が曖昧~不明な点は気になる)。

バッサリと設定説明を削ったため、必ずしも飛竜が臭がっての台詞とは気が付けない恐れがあるように思います。「飛竜の念話が聞こえた。」程度の簡潔な設定説明を入れるか、飛竜の動作(首を振ったり、爆発から異様に逃れたがる等)で暗示してはどうかと思います。

以上、これらが全てではなく、サンプル的に取り上げてみました。他の部分も同様な気配りで推敲してみてはどうかと思います。簡潔にまとめてみますと「何の情報をどういう順序で出すか」ということになります。

現状で情報の量、質は問題ないと思います。順序だけは手を入れる余地がありそうです。少し並べ替えるなどして、今の文章と見比べてみて、作者さん(スレ主さん)なりの最善を工夫してはどうかと思います。ほとんどの読者はこのプロローグで、以降を読むかどうか決めるはずですので、手間をかける価値はあるはずです。

長所。良かった点

前回からの思いきった削除はなかなかできないことだと思います。推敲、改稿に大いに役立つ資質です。

良かった要素

ストーリー キャラクター 設定

記憶喪失の俺が、メイドになってお嬢様に仕えるワケの返信の返信 (No: 7)

スレ主 かもめし : 0 No: 5の返信

投稿日時:

手塚様、何度も足を運んでいただきありがとうございます。
前回に引き続き、貴重なアドバイスを……それもたくさん本当にためになります。
やはり粗削りが目立ちましたね。手塚様の推敲を参考に自分なりに出だしを直そうと思います。
投擲物や爆発物に関しては皆さんからツッコミを受けておりますので、やはりこれも直します。
あとは削った設定説明をちょこちょこっと復活させつつ、手間暇かけて読者を惹きつけるプロローグを書き上げたいと思います。

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「それで? 殺害方法は考えついていて?」
クーヤの主人――セレス嬢には殺害したい相手がいるらしい。
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彼女が殺害したい相手は誰か? 

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