小説のタイトル・プロローグ改善相談所『ノベル道場』

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寿国演義 お転婆皇后と幽霊皇后 出会いは地下牢、その後は砂漠の汽車旅

スレ主 ドラコン 投稿日時:

 中華風ファンタジー世界で、現代日本で失わた鉄道風景を再現しようとしている、ドラコンです。

「新・プロット相談掲示板」へ投稿したプロットの「序破急」中、「序」の部分を、この掲示板投稿字数制限1万字以内で書いてみました。1万字だと、「序」のプロット段階の2/3ほどしか書けませんでした。

 以下、書けた部分のあらすじです。
「14歳の皇后、張銀鈴(ちょうぎんれい)は、「賭けすごろくで負けた人が囚人役をやったら」と言い出した。だが、言い出した銀鈴本人が囚人役をやり、3日間地下牢に入るハメとなった。しかも、周囲も「200年間適用例のない、処遇が最も厳しい宮刑(終身幽閉)囚役でどう?」と悪ノリ。
 銀鈴が入獄した日の夕方、銀鈴の夫で寿国皇帝の紀仁瑜(きじんゆ)は、幼馴染の学友で、最高裁長官兼法相兼女官教育係の越忠元(えつちゅうげん)を千里鏡(せんりきょう)(テレビ電話)で呼び出した。そして、銀鈴の地下牢入りに事情を尋ねた。また忠元から、かねてより反乱予備軍として警戒しているカルト教団「福地寺(ふくちじ)に、準皇族である火昌王家の麹開明(きくかいめい)の妃・紀絹翠(きけんんすい)と、その姫・薔裴(しょうはい)が入信したと聞かされる。特に、薔裴は火昌王家の王女で同王家から唯一寿国皇后になった、伝説の踊り子・麹香々(きくこうこう)の再来とのこと。ただし、香々は皇后になってからの記録はほとんど残っていない。残っている記録は、皇后になった6年後食中毒死ぐらい。
 銀鈴は、特別の許可がない限り、就寝時間中を除き常に正座をすることを義務付けらていた。入獄初日の夕食後、足のしびれに耐えかねて、足を投げ出した。これが獄則違反と見なされ、入獄2日目は1日2度与えられる玄米粥(に等しい重湯)の量が半分に減らされていた。そのため3日目の起床後、空腹で倒れ込んだ。これも獄則違反とされ、銀鈴は朝食を抜かれた上、首に大きな正方形の板枷をはめられた。
 空腹と足のしびれ、寒さとで頭が回らない銀鈴の目の前に、体からバラの香りを漂わせる香々(の幽霊)が現れた。香々は銀鈴に、「200年前この監房に幽閉されているとき、差し入れの毒入り肉まんを食べたら死んでしまった。私をここに封じ込めている呪符をはがしてくれない?」と依頼。だが、他人が来る気配を感じて、香々は姿を消した。
 香々が姿を消したと同時に、賭けが終わり、銀鈴の親友で、18歳の少女、芬秋水(ふんしゅうすい)が銀玲を迎えに来た。銀鈴は秋水「ほかに誰か入っていなかった? 中でバラの香りがする女の人を見た気がする」と尋ねる。秋水は「気のせいでは?」と答えた。だが、銀鈴は納得していなかった」

 今後の展開予定の詳細は、「新・プロット掲示板」投稿分をご覧ください。

「序」のうち、書き切れなかった場面は以下の通りです。

 ・銀鈴、入浴後、秋水と共に朝食、仁瑜と共に昼食を取る。その場で、香々について尋ねる。
 ・銀鈴、地下牢再訪し、香々と再会。香々から、「故郷での踊りの後継者探しを手伝って」と頼まれる。

「破」と「急」は以下の通りです。

「破」
 銀玲一行が香々の故郷・西砂(せいさ)州火昌(かしょう)へ列車で向かう、架空鉄道旅行記。踊りの後継者候補・麹薔裴(きくしょうはい)と、その母・紀絹翠(きけんすい)が途中駅から、銀鈴一行の列車に乗ってくる。火昌駅内の公衆浴場で、絹翠から銀鈴・晶芳雲(しょうほううん)(忠元の妹分で、判事見習。銀鈴の世話役として同行)がカルト教団「福地寺」の勧誘を受ける。

「急」
 銀鈴一行が、薔裴の依頼で絹翠を福地寺から脱会させる。
 絹翠・薔裴母子の証言で福地寺西砂州本山(会社なら支社)を家宅捜索、西砂州本山住職等幹部を逮捕。
 香々が薔裴を正式に踊りの後継者に定める。そして、香々は薔裴の指導と、銀鈴を気に入ったために、成仏せずに現世にとどまる。
 
 書けた部分の不安な点としては以下の通りです。
 
 ・グロさについて
 プロローグの舞台が「牢獄」、テーマが「刑罰」なので、グロくなっていませんか。また、15禁、18禁の年齢制限に引っ掛かりませんか。
 
 ・内容の粗さについて
 1万字の字数制限で書いたため、場面はプロットの2/3しか書けませんでした。また、書けた個々の場面も、粗くなったような気がします。もう少し書き込みたかったのですが。
 
 ・銀鈴・香々の出会いの場面までの長さについて
 銀鈴が、香々に出会うまでが長過ぎませんか。先に、銀鈴と香々が出会って、出会うまでは銀鈴の回想で、とも考えました。ただ、回想場面は書いたことがないですし、それをやると書いていて混乱しそうだったので、順を追って書きました。

プロローグ

「これより『女子宮刑囚処遇規定』に基づく、獄則を読み聞かせる。一度しか申し渡さぬゆえ、心して聴くように」
 娘子軍の隊長は、張銀鈴(ちょうぎんれい)へ向かって、そう声を張り上げた。
 十四歳の皇后、銀鈴は、後ろ手で縛られ、床に引き据えられていた。縛られていなければ、銀鈴は裕福な屋敷の奥様か、お嬢様付きの侍女にしか見えない。着ている衣も、主のおさがりのようだ。縛れていようがいまいが、とても皇后には見えない。
 隊長は、広げた巻紙を手にしている。また、銀鈴を取り囲んでいる娘子兵たちは、隊長をはじめ全員、皮の胸当てを着け、覆面姿だ。
 娘子兵とは、後宮の警備、後宮関連の犯罪捜査、後宮内の牢獄「囹宮(れいぐう)」の管理を行う、女性だけの軍隊、娘子軍の兵士。
 銀鈴は、神妙な顔つきで頭(こうべ)を垂れた。
「一、囚人は、特別の指示・許可なくして、言葉を発することを得ず。その必要がある場合には、床を三度拳でたたき、許可を求めること。
 一、囚人は差し入れを受けくることを得ず。
 一、囚人は、信書を発し、またはこれを受けくることを得ず。
 一、囚人は、面会を得ず。
 一、囚人は、監房内に私物持ち込みを得ず。
 一、囚人は、衣服、寝具、糧食の自弁を得ず。
 一、囚人は、文書・図画の閲読を得ず。
 一、囚人は、髪結い・化粧を得ず。
 一、囚人は、入浴を得ず。ただし、一日一度ぬれ布巾で顔をぬぐうことを許す。
 一、囚人は、監房内では筵(むしろ)に引かれた白線内で、常に正座のこと。特別の指示・許可なくして、姿勢を崩す、立ち上がる、歩き回る、その他の姿勢・行動を取るを得ず。
 一、囚人は、鈴の音(ね)で起床、鈴の音で就寝のこと。就寝時間中を除き、臥具の使用、横臥を得ず。
 一、就寝の鈴が鳴ったら、筵の上に布団を敷くこと。頭は入口の方へ向けること。起床後は、布団を元通りにたたみ、元の位置に戻すこと。
 一、食事は一日二度とす。
 一、娘子兵の指示・命令は順守のこと。
 一、以上獄則に反したと認めたるときは、鞭を三度鳴らして戒告す。その上で、笞打ち、首枷、後ろ手拘束、猿轡、減食、絶食、臥具禁止の懲罰を科す。
 左様心得るように」
 そう申し渡した、娘子兵の隊長は巻紙を丸めた。
 最大大陸の東を治める帝国、寿国(じゅこく)。その都、長洛(ちょうらく)。「天子南面」の通り、四方を高い城壁で囲まれた長洛の正北端に位置し、真朱の塀で囲まれた宮城。宮城の多くの建物が、黄色の瑠璃瓦をいただき、壁と柱も真朱という鮮やかな色調。
 皇帝の私的な生活空間であり、女性官吏の独身者寮でもある、後宮。華やかであるはずの後宮内にあって、黒瓦屋根に、灰色の高塀、柱、壁と、不気味さを漂わせる建物。それがここ、囹宮(れいぐう)。後宮の牢獄である。
「これより、そのほうの身体を改める」
 娘子兵の隊長は、そう言って銀鈴の鼻先に、閉じた扇子を突き付けた。
 隊長の目配せを受けた娘子兵が二人、銀鈴に取り付き、耳の上で結われた鳶色の二つの団子をほどき、髪の中を改めた。そして、無言で銀鈴を立たせた。
「口を開けなさい」
 銀鈴が口を開けると、娘子兵は懐中夜光石で銀鈴の口の中を照らして、口の中を覗き込んだ。
「脱ぎなさい」
 そう言われた銀鈴は無言でうなずいで、絹製で赤い金魚柄の上衣と無地の裙(スカート)を脱いで、娘子兵に手渡した。
 娘子兵は、銀鈴の体を撫でまわして、改めた。
「これに着替えなさい」
 銀鈴は、用意されていた衣一式を受け取った。肌着を身に着け、薄灰色の上衣――丈は膝と足首の中間――を着ようとして、ため息をついた。
(……襟の名札と、背中の「囚」の字がなければ、これは寝巻きなんだけどね。ってこれ、綿なのはいいとして、袷(あわせ)じゃないの。この暑いのに、どんな嫌がらせよ。単(ひとえ)にしなさいよ)
 襟には「囚人張銀鈴」と書かれた白布が縫い付けられていた。
 そう、今は七月下旬、大暑の候。一年で最も暑い時期。そして袷とは、主に春・秋に着られる、裏地がある衣のこと。一方、単とは裏地のない夏向きの衣。
 銀鈴は、不満気な顔のまま囚衣に袖を通して、襟先の紐を結んだ。
 東方の島国、和国(わこく)にも、甚平といって、帯を用いず、襟先に縫い付けられた紐で見頃(みごろも)と留める衣がある。
「両手を前に」
 銀鈴が両手を差し出すと、娘子兵の一人が重い鉄製の手枷と腰縄をかけた。もう一人の娘子兵が、銀鈴の両足首に足枷をかけた。
「これより地下牢へ連行する。進みなさい」

 銀鈴は、娘子兵に引かれて最下層の監房への階段を降りていた。夜光石が明るく光っているので、窓がないことを除けば、地上の建物とそうは変わらない。
(前に、肝試しで入ったことあったけど、ちょうど地下二層、半分降りたところね。それにしても、足首の鎖が短くて歩きづらいじゃないの)
 銀鈴は思わず立ち止まった。
 すると、後ろの控えた娘子兵が竹笞で銀鈴の尻を二回突いた。
(何よ、進めってこと? 少し休ましてよ。動きづらいし)
 銀鈴は不満顔で後ろを振り返った。
 その途端、娘子兵が銀鈴の尻を竹笞で一発打った。
(痛い!) 
 銀鈴は尻を掌で押さえようする。が、手枷をかけられた両手首は体の前で腰縄に結び付けられていて、動かせない。
(……みんな本気ね。「賭けすごろくで負けた人が訓練の囚人役をやったら?」って言い出したのはわたしだけど。職務熱心というか、悪ノリしてるというか)

 囹宮最下層、地下四層。監房の前。
「中をよく見ておきなさい」
 娘子兵の隊長は、連行してきた銀鈴にそう告げた。
 監房の広さは、一人でも狭さを感じるぐらいで、二人も入ればぎゅうぎゅう詰めだ。扉と垂直に奥へ向かって筵が一枚敷いてあり、奥に手洗いと粗末な布団が一組あった。
「中に入り、入口を向いて正座しなさい」
 腰縄を解かれて、手枷・足枷はつけたままの銀鈴は、言われた通り、筵の上に入口を向いて正座した。
(少し湿っぽいけど、案外涼しいわね。袷を渡されたときは、どうなるかと思ったけど。それに、結構明るいわね。部屋は狭いけど、手枷・足枷がなくて、本を持ち込めれば、地下牢暮らしも悪くはないかも)
 銀鈴はほっとした顔になった。
 扉が閉まった。その瞬間、明かりが消えて、真っ暗になった。
(何よ!? 何も見えないじゃないの!?)

 銀鈴が地下牢に入った日の夕方。黄色の瑠璃瓦屋根を焼いていた日が傾き、空気が冷たくなって、過ごしやすくなってきたころ。
 寿国当今皇帝、紀仁瑜(きじんゆ)――十八歳――は、自身の住まいである後宮の龍床殿(りゅうしょうでん)の書斎で、千里鏡(せんりきょう)に向かっていた。
「臨兵闘者皆陣列在前、師兄を、急々如律令」
 仁瑜は、印を結びそうつぶやいた。
「陛下でしたか。いかがされましたか? 今、役所から戻ったところですが」
 鏡の向こうに、越忠元(えつちゅうげん)の姿が映し出された。忠元は、二十二歳の青年。仁瑜とは幼馴染で学友。幼いころより、宮城を抜け出す仲。最高裁判機関であり、文武百官の監察を行う、太法院(たいほういん)の長官、太判事を務めている。また、後宮の女官教育機関「後宮太学」の教師でもある。
「師兄、先ほど鳳凰宮へ行ったら、銀鈴がおらず、囹宮に入っている、と聞いたが」
 鳳凰宮とは、銀鈴の住まい。
「今、聞かれたんですか」
「銀鈴は今朝、何も言わなかった。何でそんなことになったんだ?」
「私も、話を聞いたのは今朝方なんですが。一言で言えば、銀后と娘子兵の悪ノリですね」
 銀后とは、銀鈴のこと。寿国後宮では、女官は名の頭文字と位名を付けて呼ぶのが習わし。
「悪ノリって、何も宮刑囚役をやることはないんじゃないか。銀鈴も、宮刑が何たるかを知っているはず。止められなかったのか?」
 宮刑は死罪に次ぐ重罰。女子に対しては、終身宮中、特に後宮に幽閉される。
「止めて止められます? 銀后はかわいい顔して、結構意固地ですからね。宮刑についても、知った上でのことですよ。後宮太学の法学の授業で教えたのは、私ですしね。それに、囹宮も後宮太学の入学式の直後に、『後宮懲罰令』の説明も兼ねて、見学させてますよ」
『後宮懲罰令』とは、門限破りや無断外泊等、刑事罰を科すほどではないが、後宮の規律を乱す行為に対する懲罰を定めた法令。
「確かに、そうだったな。……止めるの無理だな。確かに意固地だからね、あれは。それに、皇后は妬みを買いやすい立場だからな。有力な後ろ盾がある名家出身でもそうだが、銀鈴は庶民の娘で後ろ盾もないし、妬まれるのは当然か。妬みのはけ口に、わざとイジメに引っ掛かってるのではないか?」
「いくら何でも、それはないでしょうね」
「確かに、そこまでの深謀遠慮はないな、あの天然娘に」
「まあ、結果的に妬みのはけ口になってはいますが。最初のうちは、『すごろくで負けた人が、夜中に地下牢の掃除をやったら?』ぐらいだったそうですけど、だんだん大げさになってみたいですよ。『一晩泊まっていく?』『二、三日入ってみる?』『どうせなら、訓練を兼ねて、二百年間適用例のない、最も処遇が厳し宮刑囚役でどう?』って感じで。それも『後宮出世すごろく』を使ったようで」
「『後宮出世すごろく』? 何であれをやったんだ? シャレにならんマスがあるぞ」
「まったくですよ。あれは、宮女見習から始まって、女官に出世して、最後は皇后になって、あがり、ですからね。しかも、『皇帝や主人の女官の勘気をこうむって、囹宮送り』。しかも『宮刑に処せられる』というマスまでありますよ。そんなマスに止まったら、その時点で負けが確定ですよ。何もあんなの使わくても、私に言ってくれれば、『鉄道院監修 寿国一周鉄道旅行すごろく』を貸しましたが」
 後宮に仕える女性のうち、高等官の資格を持つ者が女官、そうでない者がが宮女。また鉄道院とは、官設鉄道を運営し、運輸業・旅行業を監督する役所。
「しかし大丈夫か? 銀鈴もそうだが、娘子兵たちも。銀鈴に一服盛られるのではないか?」
「この間の福地寺(ふくちじ)礼拝所無断調査事件ですね。銀后が、後宮で福地寺に興味示した者が出始めたのがきっかけで、勝手に調べに行った件ですね。内偵捜査の邪魔になる上に、危ない目に遭わせたくなかったので、少々口実は強引でしたが、礼拝所での喧嘩を理由に、囹宮へ入れておきました。その時でしたよね? 銀后が面会に来た陛下を春眠丸(しゅんみんがん)入りのお茶で眠らせて脱獄したのは」
「……あの時はまいったな」
「まいった、じゃないですよ。だいだい陛下がわざと引っ掛かったんじゃないですか? 春眠丸は湯に溶くと苦みが出ますから気付きますよ。だから、噛まぬように小粒の丸薬なんです。眠り薬をお茶で飲んでも効きはしませんよ。この件を理由に、礼拝所を家宅捜索しましたが、大した物は出てきませんでしたね。末端の礼拝所ですから当然ですが。せいぜい信者名簿を押収した程度です。もう少し、銀后をしっかりしつけていただかぬと。話は変わりますけど、芳雲と裁文に『訓練だから本気でやらねば困るが、やり過ぎて事故が起こるともっと困る。そうならぬように見張っておくように』と指示しておきました。私が言うのもなんですが、女子の宮刑は『未必の故意による処刑、つまり死ぬなら死んでも構わない』『命以外すべて奪う刑』ですからね」
 芳雲とは、十六歳の少女、晶芳雲(しょうほううん)のこと。裁文とは、寿個歳の少年、欧裁文(おうさいぶん)のこと。二人とも、太法院判事見習兼後宮太学教師手伝で、忠元の妹・弟分。
 忠元は続けた。
「それから福地寺といえば、火昌(かしょう)王殿下から内々に手紙が来まして。何でも、火昌公麹開明(きくかいめい)家の紀絹翠(きけんすい)妃殿下が娘の薔裴(しょうはい)姫を連れて、福地寺に入信したと。『百年前に、我が一族はご宗主に火昌の統治権を譲与して王国としては消滅したとはいえ、代々の皇族の礼で遇してしていただいている。にもかかわらず、一族から皇帝陛下に弓を引きかねない邪教の信者を出すとは、陛下に申しわない』と」
 火昌は長洛の西の砂漠地帯にある水場(オアシス)都市。火昌王国は百年前までは、寿国に臣従する代わりに、保護を受けるという「冊封国」だった。現在の火昌王家は、一言で言えば「領地・領民を持たぬ『王家』」。火昌王家本家の当主は「王」の称号が、分家の当主は「公」の称号が許され、寿国の「準皇族」として待遇されている。
 忠元は続けた。
「この手紙をもらって調べてみたんですが、薔裴姫は、二百年前に火昌王家から唯一、皇后になった王女、香々后の再来、と言われる踊り子だそうですよ。福地寺は、それに目を付けて、薔裴姫を広告塔しようとしているみたいです。香后は、皇后になる前の実家での記録は残っているので、火昌では伝説の踊り子して知られています。ただ、皇后に立ってからの記録はほとんど残ってないですね。立后六年後に、食中毒死したとあるぐらいで」
「確かに捨て置けぬな。太祖皇帝が天下統一されたのも、邪教による反乱と、その後の動乱がきっかけだったしな。それに、火昌公麹開明妃は、末席のほうとはいえ、我が紀家の出もあるし」
 太祖皇帝とは、寿国初代皇帝。
「御意。直接、調べに行ってみる必要がありますね」
「分かった。……それにしても、食いしん坊の銀鈴、辛抱できるか?」
 仁瑜は、直裾袍――文人が好む直線的な形が特徴で、ゆったりとした足首丈の衣――の太い筒状の袖の中で腕を組んで、ため息をついた。

 同時刻、囹宮の地下牢。
 銀鈴は掌に息を吹きかけた。
(結構寒いわね。火鉢があってもいいぐらいの温度じゃないの? 入った直後は、涼しくて気持ち良かったけど、袷でも寒いわよ。綿入れ寄越しなさいよ。せめて靴下はほしいわね。それに幽霊が出てもおかしくないわ)
 銀鈴は裸足だった。
 綿入れとは、表地と裏地の間に綿が入っている冬向きの衣。
 手枷をかけられた不自由な腕で、銀鈴は自分の体を必死にさすっている。
(……お腹すいた。お昼抜きなのは知ってたから、来る前に肉まんをお茶で強引に流し込んだけど。今、何時? 入ったののが、朝の九時過ぎだったけど。真っ暗で時間が分からないわよ)
 監房の扉の下の差し入れ小窓が開き、光が差し込んだ。そこには、玄米粥が入った木椀と木の匙が乗った丸い盆が置かれていた。
(やっとご飯? いただきます)
 銀鈴は粥を一口食べた。
(何よ、これ? 味付いてないじゃい。それに米粒がない。これじゃ重湯よ。重病人や赤ちゃんじゃあるまいし。それに完全に冷め切ってる。この寒いのに。氷を入れる嫌がらせがないだけ、マシ?)
 重湯とは、粥の上澄み液のこと。後宮太学の授業には、医学や基礎育児の時間もあった。
 銀鈴は粥をかき回して、もう一口食べた。
(刻んだ搾菜(ザーサイ)が少しはかかってみたいね。囚人用だからといっても、もう少しマシなの出しなさいよ。食事は一日二度で、お粥ってのは知ってたけど、これじゃキツイわ)
 食器が引き取られた後のこと。
(就寝合図の鈴、早く鳴らないかしら。じっど正座しているだけって、ヒマだわ。それに足もしびれたし)
 銀鈴はニヤリと笑みを浮かべた。
(少しぐらいなら、いいよね。だって真っ暗だし、見えやしないわよ。わたしは暗さに目が慣れて、何とか物の形は見えるけど)
 銀鈴は足を投げ出した。
 すかさず、体を貫く雷のごとき鋭い鞭の音が三度鳴った。
(えっ、バレた!? 何で!?)
 銀鈴は首を前後左右に大きく動かし辺りを見回した。
 再度、鞭の音が三度鳴った。
 銀鈴は、慌てて姿勢を正した。
(獄則違反でお仕置き? 何をされるのよ!?)
 銀鈴の顔は青ざめていた。
 
 ちょうどそのころ、囹宮地上部にある、娘子兵の部屋。
「銀玲さん、ついに足を投げ出しましたわね。暗視鏡は、真っ暗闇の中でも良く映りますわね」
 黒くて艶のある髪の毛をア(Yに似た漢字)頭(あとう)に結った芳雲が、暗視鏡に映った銀玲を見てつぶやいた。
 千里鏡は双方向で映像を送り合うの対し、暗視鏡(あんしきょう)は監視鏡(かんしきょう)の一種で、暗闇の中の映像を一方的に映し出す。故に、この部屋の様子は銀玲には分からない。
「これは獄則違反で懲罰ですね。差し詰め、食事半減で、搾菜抜きです。銀鈴も、もう少しやつれれば幽霊に見えますね」
 頭頂部で一つの大きな団子結い、余った髪の毛を背中に垂らした娘子軍将軍、芬秋水(ふんしゅうすい)が答えた。秋水は、十八歳の少女。女官候補時代、つまり後宮太学時代、銀鈴と同室で生活していたため、銀鈴とは親友。五品官の「才人」の位を有している。秋水と、芳雲・裁文とでは、官位は秋水のほうが上。しかし、秋水からすれば芳雲・裁文は、忠元門下としては姉弟子・兄弟子であるのみならず、師範代でもある。
 黒髪・黒目の典型的な寿国美人の芳雲とは対照的に、琥珀色の髪に、青い目。一見すると異国人だが、れっきとした寿人。秋水の先祖は、はるか西の出身で、時々先祖返りするとのこと。
「銀鈴殿本人が『やる!』と言い張ったんでしょうけど、さすがに気の毒ですね。銀鈴殿は食いしん坊ですし、玄米粥といっても、米粒はすり鉢でつぶしてますから」
 実年齢十五歳、外見年齢十二歳未満の少年、裁文も口をはさんだ。
 芳雲と裁文は、盤領(ばんりょう)――丸首の襟――に、広袖――筒状ではなく袖口が大きく開いている袖――、足首丈というゆったりとしたつくりの、文官朝服姿。色は司法官を表す黒、襟元の縁取りと胸の解豸(かいち)の刺繍は、八品官待遇を示す薄緑。なお、解豸とは司法官の象徴で、一本角で羊に似た善悪曲直を知る聖獣。
 一方、秋水がまとっているのは、武官朝服。色は五品官の緋色。盤領なのは文官朝服と共通。相違点は、動きやすいように細身仕立てで、袖は筒状の筒袖、丈もひざ丈。

 銀鈴入獄二日目の朝。
 監房の扉の差し入れ小窓から、丸盆が差し入れられた。粥の入った椀のほか、小さな正方形の濡れ布巾が乗っていた。
 銀鈴は、そのぬれ布巾で顔を拭いた。
(……お風呂に入れない上に、顔すら洗えない)
 そして、粥を匙でかき回してから一口食べた。
(何これ!? 量が昨日の半分しかないじゃないの。しかも搾菜すらかかってない。昨日、足を投げ出したお仕置きがこれ? これじゃ、ほどんど断食修行じゃないの。ほんとキツイわ)

 銀鈴入獄三日目。
 真っ暗闇の監房に鈴の音が鳴り響いた。
(もう朝? しかしこの鈴の音、心臓に悪いわね)
 銀鈴は枷をはめられた手で、胸を押さえた。そして、何とか起きて布団から出て、枷をかけられた不自由な両手・両足で布団をたたみ、定められた位置に布団を置いた。そして、筵の上に正座した。
(……お腹すいた。足を崩したお仕置きで、ただでさえ少ない重湯を半分に減らされてるし。今、何時? 何日? ……もうダメ)
 銀鈴は、倒れ込んだ。
 すかさず、鞭の音が三度鳴った。
(獄則違反? またお仕置き?)
 銀鈴の顔から、血の気が引いていった。倒れ込んだまま、首を大きく動かし、辺りを見回した。
(起きないと。この真っ暗の中で、一体どうやって見てるのよ!?)
 銀鈴が体を起こし、筵の上で正座した瞬間、扉が開いた。そして、覆面姿の娘子兵が二人、監房の中に入って来た。
 娘子兵たちは、無言で銀鈴の首に正方形の大きな板をはめた。この首枷板の一辺の長さは、女性の腕の長さの一・四倍。
(えっ、何? これがお仕置き? これじゃ、横になれないじゃないの)
 そして娘子兵の一人が、銀鈴の口元に水の入った椀を突き付けた。
(飲めってことね)
 銀鈴は水を飲みほした。それを見届けた娘子兵は監房から出て行った。
(えっ、ご飯抜き? ……首の板枷が邪魔で、手が口にたわないから、食べされてもらわないと、食べられないけど。ご飯も食べらない、横にもなれない、このまま続けると殺されるわ)

 銀鈴が首枷をはめられた四時間後。
「あなた真面目ね。それに扱いも随分厳しい」
 白い煙が立ち込め、中から一人の女性が現れた。年のころは二十五、六。彫りの深い顔立ちで、黒くて尻まで届く長い髪は、結わずに垂れ髪のまま。銀鈴と同じく囚衣をまとっている。
「えっ、何!? いい香り? バラ?」
 銀鈴は、思わず声を発した。掌で口を押えようとするが、首枷板がねずみ返しのようになり、銀鈴の手を跳ね返した。
(マズいわ。またお仕置きさるわ。今度は猿轡かしら?)
「あなた、前にもここに入って掃除してたわね。今度は一体、何したの?」
(えっ、ここにほかの誰が入っていたっけ?)
 銀鈴は激しい瞬きを繰り返ながら、目の目の女性を見上げた。
「私は、麹香々(きくこうこう)。……これでも、皇后、だった、と言えばいいのかしら」
(……皇后は、一応わたしなんだけど。それに、麹香々って、どっかで聞いたことがあるような。ダメ、お腹がすいて頭が回らない。それに、皇后だった、ってどういうこと? それにこの人、顔は暗くてよく見えないけど、体からいい匂いがする)
 香々は、銀鈴の襟に縫い付けられた名札に目を留めた。
「あなた、張銀鈴さんって、いうのね。私の夫、紀広卓(きこうたく)ってのは、妻だった私が言うのもなんだけど、女好きで、人の話を妄信しやすくてね。皇后になってから、一年ぐらいたったころかしら。広卓が、側室で貴妃の、野玉雉(やぎょくち)の讒言を信じたおかげで、ここに幽閉されたってわけ。私が、不貞を働いただの、広卓を呪詛しようとしただのと、とんだ濡れ衣よ」
 貴妃とは、一番上の皇后に次ぐ女官の位。つまり、上から二番目。
(玉雉って、芝居や講談で有名な、あの性悪女じゃない。広卓ってのは思い出せないけど、玉雉の相方で、あの女好きのバカ皇帝、「業平帝(ぎょうへいてい)」のこと? つまり、この香々って人、二百年前の人? ってことは幽霊?)
 業平とは、広卓在位中の元号。一般には、過去の皇帝は実名よりも在位中の元号のほうが通りが良い。
「どうしたの、銀鈴さん? 何驚いてるの? まあいいや。すぐには殺されなかったけど、幽閉されてから五年後に差し入れの肉まんを食べたら、死んじゃったの。一口かじっただけで死んだので、鴆毒(ちんどく)だったかしら」
 鴆毒とは、鴆という毒鳥から取れる毒。
 香々は続けた。
「毒を盛ったのは、玉雉でしょうね。私が自然に死ぬのを待っていたみたいだけど、娘子兵のみんなが良くしてくれて――娘子兵のみんな、大丈夫だったかしら? 下手すると私の同じ目に遭いかねないのに――、何とか五年間、生きていたわ。銀鈴さんのような扱いを受けてたら、数箇月で死んでたわよ。玉雉は、やたらに気位が高くて、私が皇后になったことを、いつも『蛮族のくせに皇后になるなんて許せない! 本来は皇后の位は私のものだったのに!』って言ってたからね。それはそうと、お願いがあるの。枷を外してあげるから、この監房の中に貼ってある呪符を探して、はがしてくれない? その呪符のおかげで、私はここに封じられてるの。はがしてくれたら、いろいろ面倒を見てあげられるわよ。……あっ、誰か来たみたいね。じゃまたね、銀鈴さん」
 そういうと、香々は白い煙と共に姿を消した。
 と同時に、三日間真っ暗だった監房に明かりがともり、扉が開いた。
「まぶしい!」
 銀玲は叫んだ。
「銀鈴、お疲れさま。おかげで、いい訓練になったよ」
 そう言いながらが、秋水は銀鈴の首枷、手枷、足枷を外した。
「銀鈴、動けるか?」
「……ダメ、動けない。秋水、終わったの? 一生出られずに、このまま殺されるって思ったわよ」
「これで終わりだ。娘子兵の皆も、『やりにくい』って言ってたぞ」
 そう言うと、秋水は銀鈴を抱きかかえた。四つ五つの子供ならともかく、同じ年ごろの娘の平均より若干小柄とはいえ、十四歳の銀鈴を抱きかかえるとは、さすがは娘子軍の将軍である。
 銀鈴は秋水の腕の中で尋ねた。
「秋水、監房にほかに誰か入ってた? バラの香りがする女の人を見た気がする」
「腹が減って幻覚を見たのではないか? あの監房はもとより、囹宮全体でも囚人は銀鈴、君一人だぞ」
「そうよね」
 銀鈴は、怪訝な顔で首をひねった。

スレッド: 寿国演義 お転婆皇后と幽霊皇后 出会いは地下牢、その後は砂漠の汽車旅

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