あなたの、本当に、欲しいもの。
作者 家節アヲイ 得点 : 2 投稿日時:
二択。
行くか行かないか、食べるか食べないか、右か左か。
人生において直面する、シンプルで、もっとも悩みやすい問題。
大抵は、取るに足らないような二択をぼんやりと選択することが多いけれど、シンプルだからこそ、重要な選択を迫られることがある。
例えば……そうだ。成功する確率が五分五分の生死に関わる手術。これを受けるか受けまいか。
別にただ思いついただけで、この問いに意味があるわけではないけれど、実際にこんな状況に直面したら長考は免れないだろう。ここに余命数日なんて条件が追加されたら、パニックになること間違いない。
「少年よ、回答は決まったか?」
「すいません、もう少しだけ待っていただけますか」
「別に構わぬよ。我も時間を持て余しているからな」
そして今、僕は何の脈絡もなく、重要かどうかも定かではない、到底理解の出来ない二択を迫られていた。
「えっと、女神様……で良いんですよね?」
「左様。泉の女神・イスチヨである」
「失礼を承知でお願いしたいのですが、先ほどの選択肢、もう一度言ってもらっても良いですか? 僕の聞き間違いじゃないか、確認したくて」
「良いだろう、此度は聞き逃すでないぞ?」
僕の目の前には、うっすらと白い光を帯びた泉。回りは鬱蒼とした森の木々に囲まれている分、なおさら神聖さが増したその泉の中心には、神々しい光を放つ女性が立っていた。
髪は泉と同じ、透き通るように薄い青。風もないはずなのに、ふわふわと彼女の周りを漂い、光を反射しながら幻想的な輝きを放っている。そしてその髪が包みこむのは、等身の高い白磁のような体躯。絹布のような滑らかな布に覆われたその四肢はすらりと伸び、女神と名乗るに相違ない神々しさを放っている。
足がつくような岩場もないはずなのに、まるでそこに地面があるかのように水面に佇んでいることも含めて、この人物が女神であることに異議を唱える気すら起きなかった。
「それでは、再度問おう、少年よ」
女神様は全てを見透かすような深い青色の瞳で僕を捉え、言葉を紡ぐ。
「『少年のことが好きだけど、だからこそ強い態度で当たってしまうツンデレ幼なじみ』と『少年のことが好きであることを隠すことなく接してくるデレデレ幼なじみ』。少年が求めるものはどちらだ?」
「……すいません、聞き間違いじゃなかったみたいです」
……何言ってんの、この女神様?