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真飛幽利は一人で暮らしたかった。第4話 全4話で完結

最終話・真飛幽利は一人で暮らしたかった。の第4話

作者 家節アヲイ 得点 : 2 投稿日時:


 東京に来てから一ヵ月、高校生活にも少しずつ慣れてきて、座敷童子のいる生活に少しずつ慣れ始めた時、事件は起こった。

「おーいシキー、どこ行ったー? お前の好きなモナカ買ってきたぞー」

 普段は家にこもってぐうたらしているはずの座敷童子ことシキがの姿が見当たらない。モナカと聞けば、飼いならされた犬のようにどこからか飛び出てくるシキが、いくら呼んでもその姿を現さなかった。

「おーい、モナカ食べちゃうぞー」

 彼女お気に入りの押し入れの中、良くつまみ食いしに行く共有スペースの冷蔵庫、ぼんやりと庭の木を眺めていることの多い宵伽荘の縁側。どこを探しても、彼女の姿が見えない。

「うーん、出かけてるのかな?」

 本来ならその家に住み着いて離れないはずの座敷童子がふらふらと外出するというのもおかしな話だが、彼女ならそんな常識に囚われなくてもなんらおかしくないような気がした。
 仕方ないので、一人でモナカの箱を開けて一つ取り出し、それを頬張る。わざわざ学校帰りに少し遠周りして買ってきた有名店のモナカは、しつこくない上品な甘さの餡が舌を転がり、絶品だった。これなら、甘いものに目がないシキも喜ぶに違いない。

 それから時間が流れ、日が完全に落ちても、シキは戻ってこなかった。

「壮士さん、シキが……!」
「手分けして、近所を探してみようか」

 流石に帰りが遅すぎることを心配した壮士さんと一緒に近所を歩き回る。問題なのは、彼女が座敷童子という普通の人の目には見えない存在であること。それゆえに目撃証言もなく、ただひたすらに自分の足で探し回るしかなかった。

「おーい、シキ―! 隠れてないで出て来いよ! 今日の夕飯はお前の好きな肉にしてやるからさ! デザートにモナカもあるぞ!」

 探索を始めて一時間経った頃、ついにその姿を発見した。
 場所は、家から一キロほど離れた境内の上。不躾にも賽銭箱を椅子替わりにして、ふてぶてしく座っていたのは見間違えようもない、シキ本人だった。

「何やってんだよシキ! 早く帰るぞ!」
「帰らん」

 不貞腐れたようにそう告げるシキは、どこか物悲しそうに空を見上げていた。

「どうしたんだよ急に、いつもはあんなにぐうたらしてるくせに」
「そうだな、あそこは幾分、居心地が良すぎたのかもしれん」
「……どういうことだよ」

 シキは賽銭箱から飛び降りると、ゆっくりと幽利の方に向かってくる。その目はじっと幽利の顔を見つめていた。

「どうもこうもない。あのまま、私があそこにいたら私は消える。それだけだ」
「消えっ!?」

 シキの口から出た突拍子もない言葉に、幽利は愕然とした。
 消える? シキが? なんで……?

「霊というものは、未練があるからこの世に残るのだ。その未練がなくなれは、その存在は消える。それはユーリが良く分かっているのだろう?」
「……」
「だから、私は家出した。これ以上あの居心地のいい場所にいたら消えてしまう。私にはまだまだやりたいゲームも見たい動画もあるのだ。ここで消えるわけにはいかぬ。なに、心配はいらぬよ、また別の家に厄介になればいいだけの話だ。……受け入れられるとは限らんがな」

 シキは幽利の目の前まで歩み寄ると、小さくうなだれる。

「だから、これで別れとしよう幽利よ。短い間だったが、居心地の良い時間だった――」
「ダメだ!」

 悲鳴のような幽利の声が、境内にこだまする。
 シキは顔をあげて小さく目を見開くと、口角を上げて笑った。

「たかが一ヵ月、一緒にいただけの物の怪だぞ?」
「そうかもしれない、でも、俺は、認めない」
「やれやれ、これではどちらが童子か分かったものではないな。わがままを言うてもどうすることも出来まい?」
「出来る。俺なら、シキとずっといられる」

 式神契約。物の怪を退魔師のパートナーとして使役するものであり、一度これを結んでしまえば、人間の方が死ぬまでパートナーとなる式神は存在し続けられる。
 ただし、それを行ってしまえば、幽利の霊力は辺りの悪霊に感づかれ、情け容赦なく襲われる。この先嫌が応でも退魔師として生きていくしかなくなるだろう。

「式神契約……か。しかし、お主は退魔師などではない、普通の生活を望んでいたのではなかったのか?」
「一人暮らししたかったさ。でも、シキといる生活も悪くないって思えたんだ」
「ぬかせ、色男でもあるまいに。……覚悟はできておるのか?」
「ああ、シキ、俺の式神になってくれないか」
「良かろう、ユーリよ。しっかりと養ってくれよ?」

 満月の夜、神聖なる境内で、一人と一魂は楔を結ぶ。
 これから先に起こりうる、どんな困難も乗り越えるための契約は、こうして結ばれた。

 それからこのタッグが退魔師業界に躍動をもたらすわけだが、それはまた別の話。
 だからこれは、一人暮らしをしたかった真飛幽利の、二人暮らしを決心する話。

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