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真飛幽利は一人で暮らしたかった。第3話 全4話で完結

真飛幽利は一人で暮らしたかった。の第3話

作者 桜田パエリア 得点 : 2 投稿日時:


 しかしその部屋に「出て」きたのは、人に恐怖を与え害なす悪霊怨霊のたぐいではなく、座敷童子だったのだ。
「ユーリ、この枕合わないから新しいのを買ってきて欲しい。上質な羽毛枕でも一向に構わないのだけれど、ニトリのやつで我慢しておこう」
 朝、寝床にしている押し入れを開くなりこれなので、彼女が完全に無害かというと考えものだ。
「断る!」
 言いながら、俺は空間を巡る『気』から組み上げた破魔札を表出させ、座敷童子に向けて飛ばした。
 しかしそれは、彼女がよけるそぶりも見せずに体育座りした押し入れ、その入口に至るより前に、へろへろと畳に着陸して消え去った。
「はい、駄目。記録2メートルと少し。全然調子上がってないね?」
「くっそ……」
 俺の退魔術の実力では、基本となる破魔札を一度で1枚、2メートルほど飛ばすのがやっとで、紙飛行機を折ってそこにくっつけた方がマシだと思うようなレベルだ。
「それでは、あと2枚届かなかければ、枕の御購入決定ということで」
「よし、やってやる!」
 しかし続く二波もまた、六畳の小さな部屋さえ渡り切れず、枕の代金と共に散った。
「2枚目は少々飛距離が伸びたけど、3枚目は力み過ぎだよね。30年前この部屋に住んでた奴は、最後が爆発的に鋭くなるタイプだったのだけれど」
「お、おう。気を付ます」
 どうしてこうなったのやら、彼女は自分を退散させたいならさせてみろと、毎日俺の修行に付き合ってくれている。まず退散させないと日常生活も送れない悪鬼魍魎に比べれば、まあ我慢するしかないが、経済的にも余裕ある高校生生活を満喫するには、現状の進み具合では厳しいものだと、日々実感させられていた。
「ってか、30年前にここに住んでた奴ってのは、最終的にどのくらいになったんだ?」
「裏の小学校にいた、落武者の怨霊を倒してた」
「マジかよ……」
 この部屋のかつての住人。その存在上だけの先輩の存在も、俺にとってはプレッシャーだった。
「どうしてか、私のことは成仏させずに出て行ったけれど」
 一瞬、座敷童子の表情が寂しげだった、気がした。
 次に彼女が見える俺がこの部屋に来るまで。その間も、座敷童子はずっとこの部屋にいたということに、そのとき俺は気付いた。
「それはともかく、枕を買ってくるのだ。楽しみにしている」
 先程の表情など見間違いだったかのように、押し入れの中でどっしりと胡坐をかき、座敷童子は笑ったのだった。

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