不思議な雪の第2話 全5話で完結
第2.5話
作者 KAITO 得点 : 2 投稿日時:
おぞましいほどに青々と澄み切った空。
静寂と表現するにふさわしい音もないその日の午後、不安に胸をえぐられながら私は娘の帰りを待つ。
ただただ、待つことしかできないのだ。私にやれることなどそう多くは無い。
今日は愛しいの娘の誕生日。そう今日マミは十才になる。なってしまうのだ。
窓の外に忘れもしないあの〝キラキラした雪〟が降り始めたのを確認すると、震える左手を押さえつける。
何度もマッチをこすってやっとの思いで暖炉に火をつける。轟々と音を立て燃えさかり、時おりパチリパチリと薪がはじける。それなのに全くと言って温かさを感じない。
朱く冷たい炎の前に膝をつき、あの人へ救いを求めるように祈りをささげる。
母親として最もつらい時間が過ぎていく。
「ただいまー」
玄関から聞こえる娘の声に思わず涙が出そうになった。いままでマミの声がこれほど心に響いたことは無かった。
「マミっ! よかった……っ」
急くあまり、足が絡まってうまく立ち上がれない、両手をついてやっとの思いで玄関へたどり着く。
「お母さん、ただいまー!」
そこで私は息をのんだ。扉越しでも伝わってくる凍てつく冷気に、あの時の事を思い出させられる。
「うぅ……っ」
忘れたつもりでいた記憶なのに、鮮明に脳裏によぎるその記憶に、吐き出しそうになった。
「「お母さん、ただいまー!」」
マミの声が一段と大きくなる。きっと私を待っているのだ。あのとてもきれいな〝キラキラした雪〟を私に見せるために扉の前で、純粋無垢で真っ白な笑顔で待っているに違いない。
私は深呼吸をして心を落ち着かせる。
「……願わくばマミがこれから起こってしまう困難に打ち勝つことができますように」
胸の前で十字をきり、覚悟を決めて私は扉を開けた。
「お、おかえり。鍵は開いているのだから自分で入ってくればいいのに」
娘に悟られないように、必死にいつも通りの母の顔で出迎えてみせた。
「これ見て!」
そういって娘は両手いっぱいの〝キラキラした雪〟を私の顔に近づけてきた。直視したら今でも魅了されてしまいそうな美しすぎる輝きだった。
だけれども、この先の事を思うとソレを受け入れるわけにはいかない。この家に招いてはいけないのだ。だから私は娘に申し訳なく告げる。
「ご、ごめんねっ、雪は……捨ててほしいの。本当に、ごめんね」
私にできることは限られている。そうさせることしかできないのだ……。
「はぁーい……」
無力感に押しつぶされそうになったその時だった。
私の目の前で、残念そうに〝キラキラした雪〟を道路の脇に置く娘の背中を見た瞬間、左手の震えは止まり全身に熱い血液の流れを感じた。
「(母親である私が弱気でどうするんだッ)」
娘は今日十才の誕生日を迎えるのだ。絶対に邪魔などさせるものか!
私は娘を家の中に引き入れ、力強く玄関の扉を閉ざした。
…………。
……。