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Sonata

作者 木倉かなこ 得点 : 0 投稿日時:


 【不幸】という言葉は何もない日常に、突然降って湧いてくる物である。
それは今までの日常をあっさりひっくり返す出来事でもある。
 そのど真ん中に立った時、とんでもない力と、ありえない事が生まれる事がある。
それが【不幸】なのか【幸福】なのかは、置いといてだが…。

 もう何時間こうやってパソコンの前に居るだろう。
手だけがパチパチとキーボードをはじく。
 『もう、夕方…?』
 カーテンのの隙間からオレンジ色の夕日が見える。
 『まだ、夕方』
 もう一度画面に目を投げた。
かれこれこのプログラムに取り掛かってどの位経ったんだろう?一週間?…いや、十日だ。
 でも、あれから2日間はただただ泣いてただけだから、実質八日でここまでやってこれたのも、全部全部、恋人の知紀が事故に遭ってあっさりこの世とおさらばしてしまったからだ。
 殆ど寝てない、殆ど食べてない、だけどパソコンの前から動いたらまた泣き出しそうで。
時間が経ったら知紀の記憶も薄くなってしまいそうな気がして、2Lのお茶を2本買って、殆どこの部屋に籠っていた。
 パチパチという音が響く。八日も経ってれば何かしら世間は変わってるだろうけど、この部屋だけは全く時が動いてないように思えた。
唯一時の経過を刻むものは、更新したファイルの時間だけだった。
 絵を描くのに半日掛かってしまった事が悔やまれる。もっと、美術の時間真面目に受ければ良かったとか、友達づてで描いてもらうとか後悔はあるけど、それでも納得の行く物を作るには全部一人でやる必要があった。
マイクをオンにする。
 「ソナタ、こんばんは」
 殆ど間を開けずにパソコンの黒い画面に白い文字が浮かぶ。
 <こんばんは_>
 最初は打ち込んだ文字に対して、返事をするだけのプログラムだった。
その内パソコンと会話出来たら楽しいかも、と思いそこからは火が付いたようだった。
 自分がプログラムの学校出ておいて良かったと、心から思うのだ。
 『次は合成音声か…』
 知紀の声はデータに無いから、とりあえず既存のデータをサンプリングしてデータを、保存する。
優しくて聞き心地の良い声になったと思う。
 「あ~これ以上何をいじったらいいの?!」
 音声データを読み込ませた所で、頭を掻く。
出来る事はほとんど全部やった、正直これ以上は手の入れようがない程プログロムには隙が無い。
 『コンパイル、コンパイル…っとぉ』
>compile
>shell SONATA
>electric human system
>starting digitalian…_
 声になるため息をつく。
どのくらい時間がかかるだろう。椅子のリクライニングを倒すと、そのまま寝てしまった。
 「朝ですよ」
 不意に声が聞こえる。
 「朝ぁ…」
この部屋には一人しかいない筈、居ない筈。
 長い髪、ちょっと色白の肌、ライトブラウンの瞳。
状況を理解するのに、ちょっと時間がかかった。
 見た事のある姿、聞いた事のあるような声…そう、今横に立ってるのは自分の組んだプログラムの賜物『ソナタ』だった。
 「ソナ…タ?」
 「何?拓子?」
 間違いない、組んだプログラムが一人の人間として具現化してるのだ。
 「頭の中、整理できてないのかな?」
 その問いには答えない。そうだ、ソナタと話すには最初に名前を呼ぶ必要があるからだ。
ダメだ、さっきから疑問形が多い。でも、それくらい混乱している。
 「ソナタ、ちょっと貴方の事教えて」
 「うん。シェル名は<ソナタ>コア名<知紀>。河村拓子による独自のプログラム、electric human systemにより作られたdigitalianです」
 淡々とソナタは返す。
間違いない、今目の前にいる男性は拓子が組んだAIのソナタだ。
 状況をすんなり受け止めるには解らない事が多すぎたが、とりあえず納得する事にした。
 「解ったわ、なぜソナタが具現化したのかは解んない。それについては問い詰めない方が良さそうね」
 一瞬ソナタは『何言ってるんだろう?』という顔をしたが、すぐに戻ってニコニコと笑いかけていた。
 「ソナタ、朝ごはんにしよう」
 そう言って仕事部屋から出る。
 「うん」
 拓子は久々にリビングダイニングに向かった。
ここ数日まともに食べてなかったせいか、お腹が空いてる、冷蔵庫を開けて中身を見るがほぼ空に近い。
 朝というにはちょっと遅い太陽がリビングに降り注いでいる。
何もないなら何もなりの朝食を摂り、午後は買い出しに出なければと拓子は思う。
 食後の紅茶をゆっくりと飲む。
そんな姿をソナタは眺めていた。
 「ソナタ、貴方は食べなくて良いの?」
 「俺は食べる事でのエネルギー補給を要しないから。だからと言って何処からエネルギー補給してるのかは、解り兼ねるよ」
 その事に拓子は色々疑問が浮かんだが、解決するには拓子の脳みそが追い付かない。
 「そっ…か」
 正直難しい事を考えるのはもう疲れていた。

追加設定(キャラクターなど)

・河村 拓子(かわむら ひろこ)
 ごく普通のSE。(と本人は思ってるが凄腕のハッカー)
 恋人を不慮の事故で亡くし、独自にAIを開発する。
 現在一人暮らし。
 ソナタと出会ってからは、自宅勤務している。

・ソナタ
 『何か』の拍子に拓子のAIが具現化した物。
 体温は35℃台とちょっと低めだが、血は通ってない。
 コア名は知紀(ともき)シェル名がソナタという架空の人物。
 拓子からは、ソナタと呼ばれている。
 処理速度はCPU3G8コア16スレッド程度
 回線速度は5G程度。
 記憶能力は300T程度)
 拓子の事は、名前で読んでいる。

 Electric Human System
 ソナタを構成したAIの名前。
 マスター(この場合は拓子)のいう事は絶対。
 人を傷つけてはいけない。
 嘘をつかない。
 と言った制約がある。
 ○○って知ってる?という問いかけより、○○って何?という問いかけに反応できる。
 本来なら、囲碁・将棋にめっぽう強い筈だが、拓子が知らないので、ゲームには不向き。
 唯一出来るのはオセロ位
 一通りの生活には対応してる。
 このAIで出来た物をDigitalianと呼んでいる。

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