不思議な雪の第3話 全5話で完結
不思議な雪の第3話
作者 かえで 得点 : 0 投稿日時:
「おぉい、アザミ。アザミ出てこい」
コンコン、ベランダのガラスを叩く音がする。知らない。あんな音私は聞こえない。
マミはとっくに二階のベッドで寝ている。
私はガウンを羽織りユラユラ揺れる暖炉の灯を眺め続ける。
「アザミ、約束の10年だ。10年待ったのだ俺は」
ちら、と視線をベランダに向けてしまった。ハッとしてすぐに暖炉に戻す。
真っ白な人形がガラス戸を叩いている。
「あざみ、入れろ。俺は待っていたのだぞ10年も。ここを開けろ」
駄目だ駄目だ。あんなモノに大切なマミを渡してなるものか。今夜だ、今夜だけ乗りきればきっと……。
「アノ子はどうなった。10年も経ったのだ、さぞ丸く大きくなっただろう。俺のようにな」
視界の端でそいつはムクムクと大きくなっていく。白くまあるい巨躯へと変貌していく。
「マミィ、迎えに来たよマミィ」
山彦のような響く声が窓をビリビリ震わせる。こんなに暖炉の灯りが近いのに膝と肩の震えが止まらない。
ああ、私は10年前どうしてあんな事を……。キラキラ光る雪なんかを……。
帰れ! 帰って! そう強く望みながら視線は暖炉から離さない。
ここは私とあの白い悪魔の根性比べだ。
「ママ……何だか眠れない……」
聞こえた声に悲鳴をあげそうになった。マミが眼をこすりながら階段を降りてきてしまった。
奴はありもしない口でニィと笑いを「マミ、見ぃつけ」と言った。