灰空ときどき死神〜ぼくが生きた7日間〜の第3話 全4話で完結
灰空ときどき死神〜ぼくが生きた7日間〜の第3話
作者 玉子 得点 : 0 投稿日時:
二人、庭のベンチに座って。
「それで、誰のことについて訊きたいんだい?」
渡したココアを、くぴくぴ飲むヒトミへ聞き直す。
実際問題、それはとても重要な事だ。
彼女が特別な部類なだけで、病院中に『死神』の名前は知れ渡っている。入院患者だろうが、看護師だろうが。それが僕を知ってる人ならば、近づく事すら難しいかもしれない。
すると、ヒトミは飲み口から顔を離し、からからと笑いながら、
「それを言ったら、エスパーにならないじゃない」
「いや……だから僕には、名前なんて言い当てられないよ」
それだけは、きっぱり否定しておく。
「……ただ、『命のこと』なら。少しは出来る、かも」
普段から僕を苦しめる病気だけど、肯定できそうなのはそれぐらいしか無かった。
「そう……面倒臭いエスパーなんだね」
「本当だ」
それは心の底から同意した。何なら、笑い飛ばしてしまったぐらいだ。
しかし、
「……ホント、本当に。面倒臭い『エスパー』だよ」
そんなヒトミの強調するような言葉が、妙に心に引っかかる。
「エスパーさん。エスパーさんは、いつもどういう気持ちで『命のこと』について話してるの?」
「どういう気持ちって……」
意味が解らず、思わず茶化し気味になる返答に、
「いつも誰かに、誰にでも言っている時。それは『役立ててほしい』って思って、ずっと言い続けてきたんじゃないの?」
それに対し、何かしら言い返そうとしたところで、ハタと止まる。
……何で入院したばかりのヒトミが、僕の普段の行動を知ってるんだ?
「『エスパーさん』、悔いを残さないで」
しつこいぐらいに、僕を『エスパー』と呼び続ける。
ヒトミは一度だって、『死神』とは呼ばなかった。
――翌日。「逆識運命」は、病院の庭で倒れているのを発見された。
その傍らには、飲みかけの缶が二つ落ちていた、らしい。