幻燈街の飴売り
作者 フレデリカ 得点 : 3 投稿日時:
街の大通りの隅を、大きな籠とビラの束を持って一人の少女が歩いている。春の穏やかな陽光が人々に降り注ぐ中、彼女はひなたに出るのを躊躇しているようだった。脚はガタガタ震え、指を強く握りしめている。
しかしそれでは仕事にならないと、少女は意を決して道行く子どもたちに声をかける。
「そ、そこの坊ちゃんに、お嬢さんがた。あの、飴はいかが?」
子どもたちが振り返ると、そこには醜い火傷痕の広がった顔。
「うわぁ、化け物!」
一目散に逃げていくのを、飴売りの少女は呆然と見ていた。そして、深くため息を吐く。
「また、駄目だった……」
少女は、両手に握っていたビラを見つめた。そこには、派手な衣装を身につけた年増ながらも美しい男性の写真が印刷されている。その隣には、『劇団ステラ次回公演・あのシェイクスピア名作を長江亮輔が熱演!』の文字が踊っていた。
「いいなぁ、父さんは。こんなにも美しくて、才能に恵まれて……」
写真の男性を眺めながら、その少女・長江有希子は呟いた。