終末少年ジャンプの第2話 全6話で完結
終末少年ジャンプの第2話・IFルート
作者 あすく 得点 : 2 投稿日時:
「あの、至高神様。これはどうかと思いますが……」
「言うな、副神よ……」
天界だとか神界だとか人間が呼び習わしているらしい世界の、一番高そうな山のてっぺん付近、今正に神と呼ばれる者たちが2柱、恐ろしいほどに途方に暮れていた。
「よもや、エンタメ番組である『チキチキ天界ラジオ・地獄編
地上滅亡へのカウントダウン 』の思念電波が、手違いで地上人類へ届いてしまうとは……」
至高神と呼ばれた、うねうねするエネルギーの塊が、空間そのものを侵食するような重々しい声で、脱力しそうな事実を告げた。
「いやはや本当に。どこをどうまかり間違えたら、地上人のすべてが同時受信するほどの強思念波となってパルス放射されるのでしょうか?」
続くのは、幼女の姿の副神である。ただし、その視線は極寒の冷気を伴って、至高神へと注がれていた。
「というか、いい加減そのうねうねボディはやめませんか?」
「話しづらいか?」
「いえ、目がチカチカするので」
「まぁ、お前の視線が冷たいから、それから逃れるための変身なので、余が望んだ結果ではあるのだがな」
至高神は、副神の視線から逃れようとしているようだ。実際は目がチカチカするせいで、副神の視線は鋭さを増しているので、本末転倒ではあったのだが。
「珍しく貴方が呼ばれたからと言って、張り切りすぎたらこのザマですよ。どうするんです、コレ?」
「仕方なかろう。よもや余の思念が強すぎて地上まで届くとは夢にも思わなんだ……」
「もっと御自分の力を把握なさってくださいな。地上人がアレを聞いたせいで、全地上はもう終末ムード一直線ですよ」
呆れた声の副神は、事実呆れ返っていた。この至高神の行動で、惑星一つが緩やかに壊滅しようとしているのだから、それも仕方のないことかもしれないが。
事の顛末はこうだ。天界だか神界だかで放送されている思念電波ラジオ番組の1企画として、『文明が終焉を迎える中を最期の瞬間まで力強く生き抜く知的生命体の感動物語』が音声ドラマ化されることとなった。その中で、文明に終焉を告げる神の配役として至高神がゲスト出演したのだ。
その際、『汝等の文明は、後一月で終焉を迎える。これは変えようのない事実、甘んじて受け入れよ、戦を止めぬ愚かな知的生命体よ!』という台詞に熱が入り、ノリノリの演技でつい思念を全開にして無差別に地上へ向けて放ってしまったのである。それを全人類が一斉に受信したのだからたまらない。これは真の神のお告げに違いない、と人類揃って認め、終焉の訪れを運命だと諦めてしまったのである。
「これを期に、全天評議会では、かねてより人類を良く思っていない保守派でタカ派の一部議員による地上殲滅のための『神の雷作戦』が立案されるに至ってしまいました」
「頭の痛い問題だ」
「ええ、まったく」
2神揃って深くため息。
「そう言えば、その神の雷作戦とやらはどうなったのだ? 実行部隊として派遣するのは、インドラかトールかで意見が割れていた所で情報が止まっているのだが……」
「それでしたら……」
副神は手元の資料をパラパラとめくると、あー、と呆れた声を出した。
「どうした?」
「話はそこから、『ヴァジュラとミョルニルのどちらが強力か』という方向に反れた結果、インドラ神とトール神が直接対決をして決めることになったようです」
「アホだな」
「ええ、まったく」
至高神のうねうねが激しくなった。苦悩しているようだ。
「ちなみに、対決は今日とのことです」
「うむ。 …………え? 今何と?」
「対決は今日、今まさに戦いの火蓋が切って落とされようとしているところだそうです」
つかの間の沈黙。至高神はうねうねをやめて発光し始めた。
「聞かなかったことにしようか」
「おい」
コントのようなやり取りだが、本人たちは至って真面目である。そこへバタバタと足音がして、茶番劇に乱入者が現れた。
「た、大変でございます、副神様!」
「どうしたのだ、副神の腹心よ。そんなに慌てて」
入ってきたのは、黒髪でスーツ姿の美人だった。副神の腹心と呼ばれた彼女は、至高神へと目を向け、
「あ、至高神様もいらっしゃったのですか。 って、眩し! 目がチカチカします消滅してください今すぐ」
「いや、ここは余の部屋であるぞ? というか、そなたは余が至高神だという認識があるのかと小一時間……」
「そんなことより!」
至高神の言葉をバッサリと切り捨てる、副神の腹心。そのまま、副神へ頭を垂れて報告する。端から見れば親子のように見える2神のため、こうしていると親が子供の言いなりになっているようで、どことなく微笑ましい。だが、報告の内容は微笑ましいを通り越して、馬鹿馬鹿しかった。
「先程始まった『ヴァジュラvsミョルニル! 最強はどっち!? 壮絶じゃんけん3本勝負!』なのですが」
「それはどこに突っ込むべきなのかしら……?」
「ええ、本当に。 って、そうじゃなくて! 会場となった雲海の上に、突如としてゼウス様が出現、『貴様ら、俺のケラウノスを差し置いて雷神最強を名乗るとはどういう了見だ!』とか言って乱入した模様です!」
「おい主神何やってんの!?」
これには副神も叫んでしまう。しかし副神の腹心の報告は止まらない。
「それを見ていた保守派議員たちが、揃ってゼウス様派へ転換、満場一致で地上へケラウノスが放たれることになりました!」
「あの、クソバカ愚神どもがァァァッ!」
至高神は激昂した。対照的に、副神は落ち着いて指示を出す。
「今すぐ、とびきりの美女をありったけ集めて、ゼウス神の所へ行きなさい。あの色ボケはそれで足止めできます。さぁ、早く!」
「は、はい!」
副神から指示を受けた美人秘書は、踵を返して走り去って行った。その足音が聞こえなくなってから、副神がポツリと一言。
「ゼウス神を足止めできる時間は、あてがう女の美しさに比例します。頼みましたよ、我が腹心よ」
「ゼウス相手に色仕掛けは、まさに最高の一手だな」
「ええ。そして、この情報をヘラ神へ流せば、ヤンデレ彼女の報復攻撃でさらに拘束できますからね。そっちの苛烈さも女の美しさに比例しますから、まさにうってつけです」
清々しい笑顔で鬼畜なことを言う副神に、至高神は戦慄した。そして、いつかゼウスにワインの1本も奢ってやろうと心に決めた。
「それで、肝心の地上は如何なさいますか? これで中々責任感のある貴方のことです、まさかこのまま放置ということもないでしょう?」
「うむ、それなのだがな」
至高神は、自身の体から更なる光を発して、壁に映像を写し出した。
「これは……。どこかの学校の一室ですね。男女の学生が一組いますが、彼らをとうするつもりですか?」
副神が問うと、至高神は答えた。
「余が小遣い稼ぎのために地上の漫画雑誌へ連載していたラブコメだ。どうやら彼らはこの話の最終回を予想するゲームをするらしい」
「随分と俗な関わり方をしてらっしゃるのですね……」
副神は本日何度目になるかもわからぬため息をついた。
「で、それがどうしたのです?」
「何、最終回の予想結果が、余の考えていたものと同じ、または極めて近かったなら、『人間は至高神と同レベルの知性の持ち主だと証明されたので、終末から救ってやる』という大義名分ができるではないか」
「こじつけもいいところですね」
「ケラウノスを食らって全滅するよりは、マシな未来であろうに」
「いやまあ、そうかも知れませんが……」
肩を竦める副神。だが、彼女に異論そのものは無いようだ。映像の中の名も知らぬ男女へ向けて、呟く。
「至高神様の目に敵った者たちよ。勝手に選んで済まぬが、お主らに託すぞ。人類は、しぶといのだろう」
そんな様子を見ていたか、至高神の輝きが光量を増した。
かくして、人類の命運は、二人の学生に託されることとなったのである。