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オズの毒薬
スレ主 左野冠 投稿日時:
プロローグ相談
いつもお世話になっています、左野冠です。
異世界風未来世界のファンタジーを書いています。旧掲示板で一年前くらいにプロット相談に乗っていただいたやつの改良版です。おかげさまで話の流れはだいぶ自然になったのですが。
世界観の描写とヒロインの登場スピード、どちらを取るかで困っています。
どっちも取れりゃいいんですけど、ヒロイン登場後すぐに主人公が意識を失うので、世界観の描写を減らさないとヒロインが早く出てきません。
世界観の描写も詰めすぎるとただの説明だし、描写にしようとするとどうしても文字数増えちゃって。さっさとヒロイン登場させたいのですがなかなかうまくいきません。
また、この話は、異世界に見せて実は未来世界なのですが、話の途中でうまく描写できるか不安で、A(後述)の一文を最初に入れるか入れないかで迷ってます。
プロローグをABCの三つの部分に分けます。Aが「これが異世界に見えるけどただの未来世界だよ」と説明する一文、Bが「主人公のいる場所は簡単に言うとこんな感じです」と描写している散文、Cが「ヒロイン登場の場面」を描写する散文です。
Cは絶対入れるのですが、ABは不要ですかね。B頑張って書いたんですけど主人公暴行シーンで始まるのもちょっとなあ、とも思っていて。
プロローグ
A:
――これは、遠い遠い未来、文明が一度滅亡し、また復興していく頃の話。
B:
1章名
目をギラつかせたいつものいじめっ子らは、おれを見つけた瞬間、待ってましたとでも言うように飛びかかって、おれの身動きを封じ、代わる代わる殴りに殴る。
三週間前にこのはきだめみたいな街に来てからというもの、これが毎日続いていた。
そして今日も、クリスマスだっていうのに、おれは地面に組み敷かれて、いじめっ子らにいいようにされていたのだった。
「おい、にんじん頭、これ、なーんだ」
いじめっ子の一人が、おれの赤毛を引っ張って顔を無理やり上げさせてから、おれのすぐ目の前にばらばらと何かを落とす。
腐りかけのりんごの芯、野菜くず、発酵しすぎのチーズのかけら、カビの生えた食いかけのパン。
ごみではない。おれのなけなしの食料だ。
「ばっかじゃねえの、お前。変なとこに置いてあったな。確か、なんか、物の陰に?」
「さすがはにんじん頭だなあ。あれで隠しているつもり? 知能もにんじん並みかよ。笑える」
そう言ってやつらは、おれが必死で集めた食料を、嘲笑いながら蹴り飛ばし、踏み潰す。パンのカビが飛ぶ。萎びたりんごの芯の折れる音がする。
「にんじん頭はにんじんらしく、土でも食ってろよ」
足で頭を踏まれる。昨日はたまたま雨が降っていて、地面がぬかるんでいたから、そのままめり込んで、顔に泥がつく。
「あははははは、こいつ見ろよ。にんじんそっくりだぜ。泥までつけちゃって」
「体中そばかすだらけで汚えんだよ泥つきにんじん」
「おいにんじん、もっかい地面埋まっとけよ、なあ!」
体を押さえていた手が離れたと思えば、今度は肩を蹴飛ばされる。おれは丸太みたいにそのまま地面をごろごろ転がって、痛みに顔をしかめながらゆっくり立ち上がる。
「おい、にんじん頭、にんじんは立たないんだぜ、知ってたか? でもお前馬鹿だもんな」
やっと立ちあがれたと思えば、また一撃。今度は腹を蹴られる。うっ、とうめく暇もなく、おれはいじめっ子のもうひとりに羽交い締めにされる。もう逃げられない。
顔を殴られ、意識が飛びそうになる。頭を殴られる。痛みを感じる暇もなく、脚を蹴られ、腕を殴られる。
おれはただただ黙って耐えていた。泣きもせず、笑いもせず、人形のようになって、嵐が通り過ぎるのを待っていた。体の力を抜き、だらんとする。まるで死んでいるかのように振る舞う。抵抗はいけない。相手の嗜虐欲を煽るだけだ。
「見ろよ、にんじんらしくすっかり萎えちまって」
股間を蹴られて、おれはさすがに耐えられなくなってもがく。痛い。羽交い締めにされているため、手でかばうことすらできない。
「おーおー、活きがよくなった。痛みで悦んじまったか? マゾにんじん」
違う、おれは好きでこんな理不尽な暴力を受けているんじゃない。そんな声さえおれは封印する。
刺激してはいけない。ただ嵐が止むのを待つんだ。この世には神様も魔女様もいるが、どちらも罪深いおれのような人間を救い出してはくれないのだから。
「そうだ」
羽交い締めの手がゆるむ。
「にんじん頭を本当に土に埋めたらいいんじゃね」
「どうやってだよ」
「砂漠を歩かせるんだよ」
ダメ押しとでもいうように背中を蹴られ、おれはつんのめって転ぶ。
「砂漠って、この街の西の?」
「そうそう。ずーっと西まで歩かせんだよ。あの砂漠は砂が細かいから、いい感じに埋まるぜ」
「いいねえ。でもやったあとどうやって助けるんだ? オレは砂漠に入るのは嫌だ」
「助けるぅ? 助ける必要なんかねえよ。コイツはにんじんなんだ。にんじん頭は人間じゃねえ。そうだろ。東の魔女様だって言ってる。赤毛は悪魔に魂を売ってんのさ。赤毛なんてのは人間じゃねえんだよ」
立ち上がろうとすると、また蹴られる。変な転び方をして、右腕を地面に打ち付ける。動かすと痛い。骨にヒビが入ったのかもしれない。
「それに、にんじんだって運が良ければ西の国なんてところに辿りつけるかもしれんぜ? 西の魔女に食われちまうかもしれねえけどな!」
「あははは、何言ってんだよお前、西の国なんておとぎ話じゃねえか」
「にんじん頭にゃおとぎ話くらい頭の悪い話がお似合いさ! さあ立てにんじん、お前の大好きな土がいっぱいの砂漠に帰れよ」
右腕をさすりながらおれは立ち上がり、とぼとぼ歩く。ときどきいじめっ子に小突かれながら、砂漠に向かって歩く。
「おい、ついたぞ」
空は見事なオレンジ色に染まっており、砂漠は沈んでいく太陽に照らされて金色に輝いている。が、おれの心はすこぶる暗い。
いじめっ子はおれを砂漠に蹴飛ばす。口に砂が入って、じゃりじゃりいう。おれが慌てて吐き出すと、いじめっ子たちは腹を抱えて笑い出す。
「おら、さっさと行けよ」
「戻ってきたら殺す」
そう脅され、おれは痣だらけの重い体を引きずりながら、西へ西へと、砂漠の奥へ進んでいく。
どうせやつらだって人を殺す度胸はない。適当なところまで行ったら、帰ってくればいい。
こんなものかと思って、振り返ると、遠くから怒声が聞こえる。
「戻ってきたら殺すからなあ!」
まだだめらしい。おれはため息をついて、再び砂漠を西へ西へと行く。
砂漠の中は風が強かった。びゅうびゅう吹く冷たい風はおれの体温を、飛ばされてくる砂はおれの視界を、奪った。
しばらく行って、おれは立ち止まる。耳をすましてみるが、何も聞こえない。そしておれの目は、砂でやられてもう開かない。
「ここらで勘弁してください!」
振り返って、そう叫ぶが、耳をすましてもやはり何も聞こえない。聞こえるのはただ、ごうごうと鳴る風の音ばかり。
「これ以上行ったら、死にます」
もう一度叫ぶが、返事はない。口に砂がまた入って、キシキシ言う。だめだ。まだだめなのか。だいぶ歩いたのに。
おれは仕方なくまた歩き出す。
またしばらく歩いた。目をつぶっているので、どこをどう歩いているのかもわからない。耳をすます。やはり何も聞こえない。どうだろう。これで戻ったら殴られて半殺しにされるのだろうか。嫌だな、もう少し、もう少し行けば、行っている間にいじめっ子が飽きてくれるかもしれない。
そう思っておれは砂漠を西へ西へと進んでいく。もう少し、もう少し行けば。もう少し。この「もう少し」の期待が重なっていって、そのうちおれは不安になってきた。
ふとまた立ち止まる。気温が下がってきたような気がする。だんだん暗くなってきたような。ああきっと、太陽がもう沈んでしまうのだろう。
ここまで砂漠を進んできたけれど、おれは自力で帰れるのか。
無理だ。
そもそもおれはまともな食事にありつけないでひどく飢えていたし、殴られ蹴られて体はボロボロだった。後先考えず、いや、ある意味考えていたからここまで進んできてしまったのだが、このまま戻ってもきっと途中で行き倒れる。
それに気づいてしまったおれは、途端に怖くなった。どうしよう。このままでは死ぬ。暴力に怯えているだけではいけなかった。自分の体力とも相談しなくてはならなかったのに。
だが、止まったこまは倒れる。おれは誰かが言っていたそんな言葉を思い出して、そのまま歩いた。馬鹿だと思う。本当なら一刻も早く戻ると決めなきゃならないのだ。
でもおれは、もう意地でも止まらないことにした。どうせもう戻ったって戻らなくたって死ぬ。どうせ死ぬならあんな国からずっと離れたところで死にたい。
あんな国、だいっきらいだ。二度と戻りたくない。心の中で毒づく。
C:
どれほど長い間歩いただろうか。夕方とは比べ物にならないくらい冷たい風がうなり声をあげながら通っていく。まぶた越しの世界は真っ暗。きっともう、日はとっくに暮れているのだ。
太陽がいなくなった途端に冷えていく冬の夜の空気を恨めしく思いながら、おれは疲れた脚を引きずるようにして行き先もわからないまま進んでいる。
喉を潤す水が欲しい。暖をとるための火が欲しい。もっと厚い服が、美味い食事が、安全な住まいが。
この夜の暗闇を照らす、光が欲しい。
人のぬくもりが欲しい。そんな愛だなんて贅沢は言わない。友情も贅沢だ。ちょっと話を聞いてもらえるくらいでいい。いや、挨拶を返してくれるとか、道を歩いていても石を投げられないとか、ほんとうにその程度のものでもよかったのに。
「あっ」
細かい砂に足を取られて転んだ。冷たい砂の上に倒れ伏す。どこも怪我はしなかった。だが、もう立ち上がる元気はなかった。
おれは間違えたのだ。
生きるために、消極的に、そりゃあもう消極的に生きてきた。それで大概のことはどうにかなった。それでおれは生き抜いてきた。今日だってそれでちゃんと生きてきたのに。
しくじった。素直に戻ってりゃよかったんだ。地獄みたいな生活かもしれないけど、とりあえず生きていられる。おれは死ぬのがひどく怖い。
冷えきった体はちっとも思い通りに動かず、血はもう頭を巡ってはいない。細かい砂がおれのからだを呑み込んでいく。
暴言を吐かれた日。ものを盗まれた日。人に石を投げられた日。カツアゲに遭った日。リンチに遭った日。崖から突き落とされそうになった日。川で溺れさせられた日。刺された日。鞭を打たれた日。母さんが病気で死んだ日。このところ三週間の生き地獄。それがおれの人生のすべて。
「ふ、ふふ」
砂にうずもれながら、おれは自分の人生を嘲笑う。
いったいおれは何のために生まれてきたのだろう? いったい誰に望まれて生きているのだろう? おれが生まれたって何もいいことなんてなかった。幸せに生きていたかあさんを、不幸のどん底に突き落としただけじゃないか。
どうしておれのようなクズが、この醜い赤毛野郎が、空を飛ぶ力もない生まれながらの罪人が、いったいどうしてこれまで生きていたのだろう?
もう動けない。もう感覚がない。
意識が砂に溶けていくみたいだ。眠い。もう眠い。このままおれは砂に飲まれて地獄へ堕ちていくのだろう。
みつけた。と、かすかな声。
まぼろし。
幻だろうか。
お迎えの声なのかもしれない。
「ああ、見つけた」
それにしても、なんて素敵な声なんだろう。おれのだいすきな声だ。
「君だ。やっと見つけた。百年かかって、やっとだ」
どこか懐かしくて、
「死なないでくれ、今助けるから」
力づよくて、ひんのある、
「私を助けてくれ、君が必要なんだ。これからの人間を救うために」
やさしいおんなのひとの……………………。
「この世から魔法を消すために」
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