真飛幽利は一人で暮らしたかった。の第4話 全4話で完結
最終話・真飛幽利は一人で暮らしたかった。の第4話
作者 匿名 得点 : 0 投稿日時:
買い物をして家に帰ると座敷わらしはよだれを滴ながらイビキをかいて眠っていた。
「幸せそうな顔しやがって。いや実際幸せだよな、これ」
出されるままに3食食べて、攻略サイトを見ながらゲームをして、飽きたら眠るのである。座敷わらしの顔を覗きこむと、ちょうどそのタイミングでむにゃむにゃ聞き取れない程度の寝言をいいながら寝返りをうった。
「おい、起きろ。たまにはご飯の支度ぐらい手伝え」
声をかけると、目を擦りながら座敷わらしが体を起こした。
「お、おかえり。今日の夕飯はなんだ?」
「ハンバーグ」
「早く食べたい。早く作ってくれ!」
「いや、よく聞け。今まで俺も流されるままここまできてしまったが、一緒に住んでいるからにはお互いが協力することが必要だ。俺だけが家事の一切をやるのは面白くない。お前もちょっとは掃除とか料理とか手伝ってくれ」
「なるほど」
座敷わらしは胡座をかくと、急に神妙な面持ちで言った。
「ところでユーリは私をここから追い出さなくていいのか?」
「え?」
ユーリは退魔業のことを座敷わらしに話したことはない。知っていたことが驚きだった。
「いや、壮子から聞いていたのだ。福の神のはずなのに私がいると食費と光熱費ばかり高くついて困ると。一応いっておくが、私がいるお陰でいつもこの物件は満室なのじゃよ。しかし家賃収入以上に私が飲み食い遊びするもので、少しはおさえないと退魔師を読んで追い払うとな」
ユーリはそこまで細かいいきさつは知らなかった。ぽかんとするユーリに座敷わらしは首をかしげて続けた。
「もちろん、私は人生を謳歌するつもりでここにいるから、出費を押さえるつもりなぞない。お前が来たときにこいつが件の退魔師かと思って、どう返り討ちにしようか考えておった」
「そうなのか」
「なのにお前はいつまでたっても私を追い出そうとせず、あげくに今後も共同生活を続ける提案を投げてきた」
ユーリとしては、座敷わらしが自分の正体をしっているとは思わず、なるべく穏便にことを構えたい一心であったし、そこにいても害がないものを追い払う理由もない。
それに本音の部分では、座敷わらしとの生活を楽しんでいる自分もいた。
起きたときや家に帰った時の挨拶やゲームをしているのを隣で見ているのも、一緒に食事をする相手がいるのも楽しい。
そんな本音を言うのは恥ずかしいので、「別にお前、金がかかる以外問題ないわけだし」とお茶を濁す。
「ふむ」
座敷わらしは腕を組んで暫し考えこんだあと、にっこりと笑顔をつくって言った。
「ご飯の手伝いをしたら、食後に一緒にゲームをせんか?」
「え、それはいいけど」
「今はまっているこのゲームはな、一人でも楽しめるが二人でも協力プレイができるのだ。今まで相手がおれなくて、二人で楽しむということができなかった。つまり一人だと感じれない楽しみがあると常々思っておったのだ。どうだ一緒に面白いことをたくさんして、うまいものをたくさん食べよう。気が済んだら、お前に退魔されずとも自分でふるさとに帰ってやる」
「そりゃ大変そうだ」
そう言いながらユーリの顔がほころんだ。
そんな退魔業なら悪くない。
そしてユーリの座敷わらしを退魔するための長い共同生活が始まった。