真飛幽利は一人で暮らしたかった。の第2話 全4話で完結
真飛幽利は一人で暮らしたかった。の第2話
作者 A 得点 : 0 投稿日時:
「よし、行くぞー!」
本日は日曜日。当然、学校は休みだ。幽利はこの日、親から入金された仕送りで、以前から狙っていた念願のスニーカーを購入することにしていた。生活費? なにそれ美味しいの? という気分である。
春うららかな昼下がりに外に出ると、アパートの庭の桜が目に入った。
「あれ、この木、見たことがあるような……」
桜の木には、ボールがぶつかって凹んだような傷がある。
「これは……」
幽利は振り返り、古びた2階建てのアパートを見上げた。なんとなく、記憶にある気がする。
「そっか、ここ、親父の知り合いのアパートだもんな」
幼いころ、幽利は父親に連れられて、何度かこのアパートに遊びに来たことがあった。
「そうだ、同い年くらいの子がいて、一緒にボール遊びをしたっけ」
キャッチボールをして、幽利が変化球を投げると「すごい、どうやるの? 教えてユーリ!」と、幽利のあとにくっついて離れなかった。
幽利はその友達に会うのが楽しみで、父親がこのアパートに遊びに来るたびに、付いて来ていたのだ。
「なんで、会わなくなったんだろう」
中学に入って、部活が忙しくなってからだろう。新生活が楽しくて、幽利は東京まで来るのが億劫になっていたのだ。
来る頻度が下がって、その子も淋しがっていた。
「ねえユーリ、次はいつ来るの?」
「次の桜が咲くころには来てね」
そんなことを言われていた。
「ユーリ」
そうだ、こんな声で。
「ユーリってば!」
「うわ!」
幽利は座敷童に抱きつかれた。不意打ちをくらった幽利は受け止めきれず、桜の下にうつぶせに倒れ込んだ。すぐ目の前には座敷童の顔があった。