真飛幽利は一人で暮らしたかった。の第2話 全4話で完結
真飛幽利は一人で暮らしたかった。の第2話
作者 うっぴー 得点 : 2 投稿日時:
「東京都内で家賃1万5千円! これはお客様だけに教える特別な物件でございます!」 目がギラギラした不動産屋さんが、とにかくこの物件を押してきた。
都内では1Kで安くても6万が相場である。築二十年の1Kアパートでこの値段は破格と言えた。
「うーん、じゃあ、ここにするか?」
父は当然、乗り気だった。
こういう格安物件は事故物件と決まっているが、父は住職として暮らしてきて、霊的な存在などに未だかつて会ったことがない。ここで殺人事件が起きていようが、別に構わないということだろう。
幽利も、霊の存在などまるっきり信じていなかったし、親に仕送りしてもらう手前、親の判断に文句のつけようもなかった。
もし幽霊など現れたら、動画にでも撮ってYoutubeに上げてやろうなどと冗談半分に考えていた。
「なんじゃお主は?」
初の一人暮らしに胸を含まらせて新居の扉を開けたら、そこに美少女が立っていた。
「すみません。間違えました!」
部屋を間違えたのだと思って、慌てて頭を下げて扉を閉めた。
そこで、はたっと気づく。
いきなりお隣さんに粗相をしてしまうとは、最悪の第一印象を与えてしまったかも知れない。
思い直し、きちんと挨拶しておこうと思い、扉越しに声をかける。
「今度、202号室に引っ越してきた真飛幽利と申します!以後、お見知りおき!」
てんぱっていたせいか、時代がかった挨拶になってしまう。
「うん、そうか。202号室は私の住処ゆえ。出ていくように」
「は?」
なにかよくわからない返答が来た。
どういうことかわからないが、とりあえず部屋番号を確認すると、扉の上に202号室と書かれている。
部屋を間違えたのではない?
では、この少女は勝手に鍵を開けて中に入っていた?
何のために? どうやって? 泥棒? いや、なにも盗まれる物などない空っぽの部屋に泥棒など入らないだろう。
「あの……202号室は俺の部屋だと思うのだけど?」
「それは人間どもの決めた勝手な取り決めじゃな。悪いがそんなものは私には関係ない」「いや、関係ないって……」
おいおい、どういうことだろう。俺の部屋に勝手に押し入って居住権を主張する娘がいる? こんなことが法治国家日本で現実に起きるのだろうか? なんというか幽霊に遭遇するよりあり得ないことである。
「ちょっと! ここは俺の部屋なんで、そちらの方こそ出て行ってもらわないと……警察を呼びますよ」
「勝手に呼ぶと良い。私は眠いのでしばらく寝る」
「ちょ、ちょっと!」
その後、なんと呼びかけようと、返答はまったくなくなった。
鍵を開けて部屋に入っても良かったのだが、知らない娘に乱暴なことはできない。下手をすればこっちが悪者にされてしまう。
仕方がないので、部屋の前に立ったまま本当に警察を呼ぶことにした。
だが。
「……誰もいないじゃないか」
警察官と二人で部屋に踏み入ったところ、そこはもぬけの殻だった。