異世界帰りの中指勇者
作者 星宮 薟 得点 : 1 投稿日時:
異世界ガルガドア アラド王国歴29年 夏 西東暗黒大陸『ソンファ』魔国の魔王城
「なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだぁぁ──────ッ!?たかが人間ひとりにこの私がぁぁ!!」
二本あった角の片方を折られ、左腕を無くした魔王が咆える。
「たかが人間ねぇ。魔王さんよぉ、確かにアンタは強ぇ。」
咆える魔王の前に光り輝く剣を構えた男、勇者が魔王に語る。
「素手で山を砕き、魔法で海を蒸発させ世界の半分以上をその掌の中に納めたアンタは最強の生物だったよ。でもよ………」
「ッ!?」
勇者が振るった剣を魔王の大剣が何とか受け止める。
魔王と勇者の激しい剣の打ち合いが始まる。
勇者が振るうたんびに光り輝く剣、聖剣の輝きが増す。
「最強になっちまってアンタは傲っちまった、やり過ぎたんだよ。欲張り過ぎたんだよ。やっちゃいけねーことしたんだよ!」
「うぐぬぬっ」
勇者による剣の圧に、魔王の体が大理石の床にめり込む。
「国を広げるのは民のためならまだ言い分があった……だが、アンタは自国の民をも虐げ、よその国を蹂躙して世界欲しさに破壊を尽くした!」
バキンッ!
大剣が砕けた。
「なにぃ!?」
「そんなアンタの傲慢は、そんなアンタの悪は……俺の正義に負けちまったんだよ魔王。」
───────斬ッ!!
勇者の聖剣が魔王を真っ二つに切り裂いた。
「………………み、認めぬ…認めぬぞおぉ……勇者ぁあ!!!?」
「静かに散れよ魔王……『浄化』」
ボシユッ!
真っ二つになりながらも勇者に手を伸ばした魔王が黄金の炎に包まれた。
「長い、本当に長い戦いだった。」
この夏、世界を脅かした魔王は1人の勇者によって倒された。
勇者の名前は星宮ホシミヤ 薟レン。
1年前の夏に日本から召喚された若者である。
彼の勇者としての冒険は伝説となった。
そして、また一年の月日が流れ、王国歴30年 夏 アドラ王国 異界の門前にて
「本当に帰ってしまうのだな勇者よ。」
「ああ、それが約束だったじゃないですか国王様。」
異界の門前に立つ勇者レンは国王に言う。
勇者レンの姿は勇者として活動していた武装した姿ではなく、この世界に召喚された時の私服姿であった。
「俺の役割は果たしました。この世界、本当の平和を作るはこの世界の住民の役割です。」
「うむ、そうであったな。しかし、いいのか?ともに旅をした仲間達に別れを告げなくて。」
国王に言われ、勇者レンは……俺は魔王討伐まで一年ともに旅をした仲間達、友の顔を思い出す。
「確かに、きちんと別れをすませてないのは心残りですけど……アイツらも忙しいので………おっと、時間だ。」
異界の門が開き、光を放つ。
「国王様、今まで世話になりました。」
「世話になったのはこちらの方だ。強制的にお前をこの世界に呼び、過酷な戦いに投げ出してしまったのはすまなかった。」
「確かに、始めは辛くて泣きたくなることありました。戦いの中、多くの仲間も失い後悔もしたこともあります。でも、俺はこの世界に来て前向いて生きていく人達の温かさ、力を知ることができて良かったと思ってます。俺を召喚してありがとうございました。」
「ゆ、勇者……レンよ。真にお前は勇者であった。」
俺は国王様にお辞儀をして、門に足を踏み入れ「レンっ!」
足は、完全に門の中に入ってしまったが振り返るとそこにはこの王国の姫と、かつての仲間達の姿があった。
「今まで本当にありがとう!」
門から光があふれ出し、仲間達の姿が見えなくなったがその言葉は確かに聞こえた。
「またな皆。」
そう呟き、勇者レンは………勇者だったレンは異世界ガルガドアから姿を消した。
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地球 平成29年 夏 日本 星宮 薟の自宅にて
「見なれた天井………帰ってきたのか。」
まるで夢のような出来事だった。
夢のような……………ん?
俺は目をゴシゴシこすって再び天井を見つめる。
見なれた天井………確かに見なれた天井だけど、遠くない?
あれ?俺んちこんなに天井高かったけ?
そして、起き上がろうとした時に気づく。
あれ?ベッドの端が見えない……え?
そして、俺は見てしまった。
全てのモノが巨大なことに
「え?は?どういうことー」
異世界帰りの勇者が中指サイズ(約79.5cm)の姿で現れた。