深緑の第3話 全4話で完結
深緑の第3話
作者 あすく 得点 : 0 投稿日時:
「40年前の電車、か……」
「おかしいね、文月」
「あぁ、おかしいな」
二人は、揃って後ろを向いた。そこに立つ存在に、視線を向ける。
「ホゥ、良く気付いたナ……」
それは、車窓からの光を反射して、深銀に輝く滑らかな人型であった。それは、壊れたラジオのような、妙にノイズの混ざる言葉を発して、二人に呼び掛けて来たのであった。
「不自然な点はいくつもあるさ」
「そうそう。まず前提からして、この電車は40年前には存在していないよ」
「偶然、と言ウ訳では無さそうダな」
「当たり前でしょ」
紫鏡が目を細める。
「そうだ。何故なら……」
隣で、文月の姿が薄らいで行く。
「俺達が、お前を誘き出す罠を張っていたんだからな!」
叫ぶと同時である。文月の姿が完全に消えた。光の屈折率を瞬間的に変化させる。それは遥か遠く、一万年未来より持参した、科学時空警察官、三国文月の持つ専用装備の効果である。
「何ダと!?」
列車の車両を丸ごと用意して人間を餌食とする白銀の襲撃者も、驚愕して叫ぶ。しかして、それはどちらへと向けられたものであったか。
「ブーストクロック、オーバーワーカー!」
こちらは紫鏡。彼女の両手と両足は瞬時に外れ、機械機構が剥き出しとなる。その断面より、高熱のレーザーが放たれた。
「くっ、ダがこの身ニ光学武器は効果を持タヌわ!」
襲撃者の外皮に弾かれるレーザー。伊達に鏡面のごとき体表ではないようであった。
「むぅん!」
そこへ、光学迷彩で近付いた文月が、至近距離から正拳を突き込んだ。
襲撃者は派手に吹き飛ぶが、その後に何事も無かったかのように着地する。
「タフだな」
「ちょっとどいて、文月。ミサイル飛ばすから」
「ミサイルダト?」
「いや、それより火炎放射の方が良い。車両ごと焼いてしまおうぜ」
「火炎放射? ごめーん、装備から外しちゃったよ」
「おい、バーベキューはどうすんだよ、このポンコツサイボーグ!」
突然始まる痴話喧嘩。襲撃者はそれを見て決意する。この瞬間より、襲撃者から逃走者へ転職することを。
「お前タチ、何者カは知ラぬが、我では勝てヌことダケは理解シた……」
そして、その力で具現化させていた電車を、分解しにかかる。
「お、良いのか? 俺達に有利な条件になるぞ?」
文月は軽い調子で言う。そう、襲撃者は失念していた。今、この車両は、高速で線路上を移動している、ということを。すなわち。
「パージ!」
襲撃者が車両を分解した瞬間、文月は沿線の木に飛び付き、紫鏡はバーニアを吹かして推力を発生させる。しかし、どちらもしなかった襲撃者は、電車の持っていた運動エネルギーを慣性として、そのまま受け取った。つまり。
「ぐわぁぁぁぁぁぁーーー!」
襲撃者はドップラー効果で次第に低くなる悲鳴を残して、彼方へとすっ飛んで行った。
「アホだな」
「ホントに」
後には、顔を見合わせて呆れる二人の科学時空警察官が残されたのであった。