深緑の第2話 全4話で完結
深緑の第2話
作者 あおとら 得点 : 1 投稿日時:
「どうする? 電車乗る?」
紫鏡に問われ、文月はぐっと親指を突き出した。
「乗らない!」
「えー!!!」
「いやいやいや、だって普通乗らないだろ。どこに行くかも分からない電車。大都会まで行っちゃったら、どーするんだよ!」
「都会直通電車が、この田舎を通ってるわけないじゃない。ほーら、乗ろうよ!きっと、いつもとちょっと色が違うだけだってば~」
「お・ま・え・なぁぁぁ」
短絡的な言葉に文月はため息をつき、ふと、紫鏡が妙に熱のこもったまなざしで、電車を見ていることに気づく。
それは紫鏡が大好物のチョコレートケーキを前にしたときよりも、もっともっと熱く夢見るような瞳で、文月は妙な胸騒ぎを覚えた。
「えーい! 私、乗っちゃうねっ。文月はあつーい中で、電車を待ってなさいよ!」
ポニーテールが翻り、電車の中に吸い込まれる。文月は慌てて、立ち上がる。
「おい! ちょっと、お前、待てって!!!」
紫鏡を引き戻そうと、文月は電車に乗り込む。彼女と数秒遅れて電車に乗り込んだ、はずだった。
「え……」
たったの数秒だ。
しかし、そこに紫鏡の姿はなかった。
「おい、紫鏡?」
車内はどこかレトロな古い内装だが、いたって普通の電車だった。しかし、なぜか嫌な予感がひたひたと腹の底から湧いてくる。
「ふざけんなよ? 紫鏡、隠れてないで、出てこいよ」
きょろきょろしていると、文月は後ろから肩をたたかれる。
「ひっ……」
「ご乗車ありがとうございます。発車いたしますので、席にお座りください」
30代ほどの車掌に声をかけられ、文月は首を振った。
「いや! 僕は友達を探しているだけで。乗車する気はないです!」
「いいえ、そんなことはありません。これは想いを残す人の前に現れる、特別列車。あなたには、やり残したことがあるはずです」
「……なにを言って」
「お友達は先に行きましたよ。ご乗車ください」