不思議な雪の第3話 全5話で完結
第三話
作者 ゴン 得点 : 1 投稿日時:
「神よ、女王陛下を守りたまえ」――。
薔薇のベッドの傍にあって、そう騎士が呟きました。
(……それは、何のオマジナイなの?)
妖精たちの誰ともなく、騎士に尋ねます。
「ああ、これは希望のコトバだよ」
小さな騎士が答えると、妖精たちは聞きかえします。
(希望のコトバ……?)
久しく精霊界の住人たちが失っていた、希望を――。
小さな騎士は、ベッドに横たわっている少女へ、祈るような視線を落としました。
「……はるか遠くの彼方に、人という種族の住んでいる世界があってね……」
小さな騎士は、語ります。
その世界には、この精霊界とは違って、魔法という力がないんだ。
だから住民である人という種族は、古くから魔法を使わずに、道具だけを用いて生活を営んできた。
けれども魔法のない暮らしは不便らしく、ときに人は何度も戦いあわなければならなかったんだ。
「戦い……って、アノ連中みたいな?」
話の途中で、1人の妖精が聞きました。
「そうだよ。古い聖典の予言通りに蘇って、精霊界へ攻めてきた、アノ連中のように、ね」
すでに今や、精霊界は滅ぼされようとしていたのでした。
――「審判」と呼ばれる、灼熱の炎をまとった紅蓮の竜が降臨する日に、世界は終わる――。
紅蓮の竜と、その家来である「黒い影」たちが一斉に蘇って、精霊界の全ての生命を奪う、と預言されていたのです。
「だけど……、ね」
そこまで語ると騎士は、しかし明るい口調でつづけました。
「そんな戦いの歳月にあって、人という種族は、けっして負けない目的のために、それは色んな道具を創っていったんだ」
とおく視線を向けるように、騎士は語ります。
「それら道具の中でも、最後の頼りになったのが、この希望のコトバだったんだよ」
――神よ、女王陛下を守りたまえ――。
騎士は、ふたたび祈っていました。
(女王陛下……)
砦のベッドの少女に託された、希望を胸に。
(紅蓮の竜による侵略を受けて、灼熱の地となった精霊界を救えるのは、もはや女王の夢だけだ)
それは予言に語られる、伝説の「雪の女王」の夢だったのです。
(即位するまでの10年間を、眠ったまま女王は過ごす、という)
その刻限も、すでに近かったのです。
(すでに先代の王は、ご出発なされた……)
眠りつづけている予言の「雪の女王」が、その夢に体験している遠い異世界である「地上」へと向けて、譲位に際しての「約束」を果たすために。
――それは――。
「誕生日に、雪をプレゼントすること」
それが成功したとき、「雪の女王」は夢から目覚めて、滅びかかった精霊界を救うために、最後の雪を全土に降らす、と予言されていたのでした。