ソドム市警察殺人課の第3話 全4話で完結
ソドム市警察殺人課の第3話
作者 ちんきゅう 得点 : 0 投稿日時:
そして時は流れ、事件から3年が経過した。
ガタッ!!
「いつまで寝てるつもりなのよ!!さっさと起きなさいよ!!」
棺の蓋を乱暴に開ける音と甲高い女性の怒号によって目覚めた俺は顔を照り付ける朝日に目を細めた。
棺の外からアリシアがかんかんに怒った顔で俺を睨みつけている。
「あ…ああ、今何時だね?」
「何時だねじゃないわよ!あんた三年も眠ってたのよ!」
「少し寝過ごしたか…」
「少しどころじゃないでしょ?三年よ?三年!」
たまにやらかしてしまう…。
あの日捜査が終わった後にいつものBARで一杯やっていた。
程よく酔った俺は空を飛んで自宅へ帰宅しようとしたが、いつも帰宅を妨害してくるガーゴイル達の数が普段より多かったのだ。
左手に魔力を集中させて放つ衝撃弾で応戦したが、撃ち落としきれない数のガーゴイルの軍勢が俺の帰路を遮断した。
そこで俺は両手で交互に衝撃弾を放ちつつ対抗したのだが、これがいけなかった。
あの時、逃げるべきだったのだ。
魔力を使い切った俺は地上へと落下した。
急速に迫りくる眼前の地面を前に残された魔力全てを絞り出してテレポーテーションの呪文を詠唱した。
俺は地面に墜落する寸前で実家へ帰省した。
切り立った岩山の中腹に聳え立つ我が古城の自室で俺はフラフラとよろめきながら冬眠場所を求めてさまよう吸血虫のように棺を目指した。
魔力が回復するには長い時間を要すると思っていたが…まさか、3年も冬眠していたとは…。
「それで事件は?」
暫く回顧に浸った後、俺はアリシアにそう尋ねた。
「まだ未解決よ!三年も眠って呑気なものね!」
「すまない…吸血鬼には暫し冬眠を必要とする時があるのだよ」
俺はそう言うとポケットからぼっろぼろの煙草を取り出すと口に咥えようとした。
「やめて!」
アリシアはそんな俺の手をはたいて煙草を落とす。
「なんだ、いいじゃないか。煙草ぐらい」
「実はね、あなたが眠ってる間に私は別の事件を解決して刑事部長に昇進したのよ、娼婦が殺された事件の担当はあなたから私へと交代して、あなたは私の部下になったの」
「そういうことか…まあ、3年も眠ってたならそうなっても仕方ないな。しかし煙草は私の趣味だから仕事とは無関係だろ」
「残念ながら、うちの課は禁煙にしましたので、煙草はやめてもらいます」
「ちぇっ…なんだよそれ…」
「さあ、捜査に出発するわよ!」
「あいよっ、デカ長」
「あいよじゃなくて、はい!」
「はいっ!デカ長!」
「よろしい」
不本意ながら俺は棺から立ち上がると背筋を伸ばしてアリシアに敬礼した。
そんな俺の態度をみてアリシアは不機嫌そうな表情を若干和らげた。
マントをはおい部屋を出ようとする俺の背中にアリシアが再び声をかける。
「ちょっと、そんな寝癖ぼさぼさの頭で出勤する気?」
「えっ?」
俺は咄嗟に壁にかかった大きな鏡を覗いた。
しかし、吸血鬼は鏡に映らない。
どうしよう、これでは頭髪を確認できない。
しかし、どうして俺の部屋には鏡が置いてあるんだ?
自分の姿が鏡に映らないことくらい大昔から分かりきっている筈なのに。
「困ったもんだ、俺は吸血鬼だから鏡でチェックできないや」
「仕方ないわね!待っててあげるからシャワー浴びてらっしゃい!」
「はぁ~い」
アリシアに子供のように扱われる俺は自分に自信を無くし項垂れながら浴室を目指した。