Megaptera stratosferaの第3話 全4話で完結
Megaptera stratosferaの第3話
作者 つたぬき 得点 : 0 投稿日時:
「もう少しだよ…」
声が震えていた。
願いを、込めて冷たくなった手を握る。
「大丈夫だよ…」
その声は凍えていた。
背に背負った妹が生きていた事に安堵するが、既に体力の限界だ。
雪山の雪を踏み締める膝の力が抜ける。
雪が深くなかったら転んでいた。
雪に沈まないように這うように進む。
「ねぇ…私を置いて行ってよ…」
その言葉に瞳が揺れる。
その日は祭りの準備で忙しかった。
村は養蜂で栄える普通の村で、巨大鳥に乗って放鳥を行い、山々を回る一族を迎え入れる大事な日に祭りがある。
その日は、女王蜂と一定数のハチノコを残し、ハチミツの収穫を終えた冬を越せない蜂を燻して若い巨大鳥と一緒に食べる予定だった。
祭りを皆が楽しみにしていた。
だが、それが行われる事はないだろう…
最初の異変は、なんだったろうか?
俺と妹は、帰って来る一族を労う演劇の古くから伝わる演目の役者に選ばれ、連日練習していた。
最初は熱の入った演劇だと思った。
死んでいる他の演者相手に、しばらく演技が続いていた。
誰かがざわめき出し、主演の眉間に予定のない矢が刺さりパニックになった!
自分が妹を連れて逃げたのは、そういう役だったからに過ぎない。
そうでなかったら、一生後悔する恥を心に負っただろう。
…気付くまでの、一瞬の高名心、不幸中の幸いを得たという錯覚じみた、興奮がダイハードに繋がった!
生きる運を呼んだ!
下風を嫌い、足後を民俗衣裳の腰蓑で丹念に消しながら、定石と反対の山頂を目指した。
その理由は…そこに、一族の祠があるからだ。
一早く、帰投する族長がいるとすれば、そこだ。
その一念で、成人の儀式に使われるような険しい道を妹を背負い歩く、歩き続けた行く…