もしも今日世界が滅亡するとしたらの第5話 全5話で完結
最終話・もしも今日世界が滅亡するとしたらの第5話
作者 ヘレン 得点 : 1 投稿日時:
「……長かった。」
宇宙の果てに立つ一人の少女。
その姿は北欧神話の戦乙女のように可憐で美しい装飾で彩られ、手に持つ白銀の杖から溢れるエネルギーは、恒星すら焦がす。
……彼が私の代わりとなり、隕石と対消滅してから幾数年。
親にも、友人にも、彼は死んだと言われた。
誰も彼も、彼の生存を信じていなかった。
でも、私だけは知っていた。
この杖が未だ、”彼”が所持者として認識している事を。
それはつまり、彼がまだ何処かに存在しているという証明でもあった。
――亮太くんはまだ、生きている。
その一筋の可能性を信じ、杖の力を使って星々を渡り、幾多もの戦いを経て辿り着いた宇宙の果て。
次元の境界線。
「……僕の観測結果によれば、この壁の向こう側に貴方の杖と同じ反応を検知しているぞ。」
「私達に出来るのはここまでだ。後は君が頑張るしかない。」
「運命を撃ち砕け、我らが勇者。」
「加奈ちゃん、頑張って!」
脳裏に聞こえてくる様々な声音が、私に足りない勇気を埋めてくれる。
「……ありがとう、皆。」
頬に流れる一筋の涙。
……ようやく、待ち望んだ日がやって来た。
両手を握り、宇宙の果てで彼女は願う。
最愛の人の生還を。
それに呼応するかのように彼女に集う、今まで出会った生命達の願い。
救ってきた者達の感謝の想い。
宇宙全ての生命体の願いが彼女のエネルギーとなり、彼女の力を更に増幅させる。
そのサイズは太陽系を超え、銀河全てを飲み込まんとする程に。
彼は、自分の全てを使って私を助けてくれた。
――なら今度は、私が全力で助ける番だ。
目を開き、前を向く。
零れる小さな雫が、辺りに浮揚する。
「――起動せよ。月より尚白く輝く白銀の杖、リズールアージェント。」
杖を翳し、真名を起動。
刻まれた紋様が揺らめくように離れ浮かび、繋がり、幾重にも重なった魔法陣となる。
「我に託されし力と叡智よ……」
「そして、この宇宙に生きとし生ける者全ての想いよ。この心に宿り、力となれ……っ!」
深紅の宝珠が輝き、銀河を覆い隠すほどのエネルギーが彼女に集束していく。
加奈の、亮太に対する強い想いが防核となって、許容限界を超えても尚集まり続ける。
「ぐっ……!うぅ……っ!」
(耐えて……っ、私………っ!)
暴走しそうになるエネルギーを意思の力で無理矢理ねじ伏せ、壊れそうになる心の形を必死に保つ。
全ては彼を救う為、その一点の為に。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ―――――ッッ!!!」
……全てが集束し、落ち着いた時。
そこには、白銀に輝くオーラを持つ一人の少女と、絢爛と煌めく金色の杖が在った。
少女は杖をゆっくりと、前に向ける。
「――魔法陣、起動。」
少女の命により魔法陣がゆっくりと回転。
そして杖の先に出来る、小さな光の球。
それは次第に熱量を増やし、紫電と共に大きさを増す。
魔法陣も同調するように回転を速めていく。
「次元解放術式、ディメンション・リヴィアル……ッ!」
術式名を詠唱し、現象として因果に刻む。
こうする事で世界線の集束による失敗を防ぐのだ。
「これが私の、全力全開……っ!」
脳内に、亮太との想い出が走馬灯のように駆け巡る。
初めて亮太くんと出会った時の事。
一緒に遊びに行った時の事。
些細な事で喧嘩して、しばらく口聞かなかった事。
……初めて、告白された時の事。
その全てがどれも愛おしく、幸せで。
亮太くん……、亮太くん……っ、亮太くん……っ!
絶対に、救って見せるから――――!
「発動――――――――――ッ!!!」
瞬間、膨大なエネルギーの奔流が壁に向けて発射される。
猛烈な勢いで叩き込まれる熱量は次元の境界線を物理的に融解させ、込められた因果の力は侵食し、壊していく。
時間にして僅か一分。
その一分の間に熱量だけでも太陽の一万倍をも超える物が射出され続けている。
なんと凄まじいエネルギー量なのだろうか。
境界線の穴はどんどん広がり、因果の影響を受けてガラスのようにひび割れていく。
(いける……っ!このまま……っ!)
「はぁぁぁぁあぁあああ―――――――ッッ!!!!」
更に勢いを高め、崩壊を早める加奈。
亮太くんと会いたい、その想いが因果の力をなお一層強める。
バキンッ、と音がして次元の境界線の一部が欠け、その奥、虚数空間が垣間見える。
その中は宇宙よりも暗く、何もうかがい知る事は出来ない。
そんな場所に亮太くんが居る。
そんな場所に……
「……っ!」
焦りから一瞬、エネルギーの制御が乱れ、体勢を崩す。
しかしすぐさま立て直し、焦燥に駆られた心を戻しにかかる。
……大丈夫、彼は生きている。
この杖が彼と私を繋いでくれている。
大丈夫……大丈夫……
「はぁー……、ふぅー……!」
纏めて吐き出すように深呼吸する加奈。
不安も心配も、亮太くんと出会ってから全部しよう。
何としても、今を成功させなきゃ……っ!
しっかりと前を見据え、手に力を込める。
刻一刻と融解し、塵と消え、開いていく次元の境界線。
僅か数分にも満たないが、無限に等しい時間が過ぎたように思える。
壁を貫き通すのも時間の問題に思えた、しかし。
無慈悲にも先に、彼女のエネルギーが底をつきかけていた。
(なんで……っ!後少し、後少しなのに……っ!)
エネルギーの放出が少しづつ弱まっていく。
境界線が持つ自己修復機能と、徐々に拮抗していく。
宇宙全ての生命の願いを受け取っても、私の想いを全て絞り尽くしても、まだ足りない。
ただ一つ。それだけでいい。
それだけあれば十分なのに。
悔しさで涙が溢れる。
自分の至らなさに自責の念を覚える。
でも……っ!
「嫌……っ、ここまで来て、諦めたくない……っ!」
杖を力強く握り直し、なけなしの力を振り絞る。
それでも、諦められない。
今にも燃え尽きそうな心を支えているのは、亮太に会いたいという強い想い。
亮太……!
お願い、亮太……!
力を貸して……っ!
「助けてぇ……っ!亮太ぁぁぁぁぁあああ―――――――ッ!!!!」
加奈の心からの叫びが虚空に響き渡る。
……その時!
『…………ぅ…………ぁ………………』
誰かの声がした。
虚無に落ちた意識が、現実に引き戻される。
『………た…………』
もう一度声がする。
空ろになった心に光が差し込む。
……何も思い出せない。
でも、何故か懐かしい感じがする。
差し込む光に手を伸ばすように、願いを込める。
あぁ、また、会いたいな……。
あの………子…………に………………。
…………加………………奈……………………――――――
彼から漏れ出たその想いは虚数空間を真っ直ぐに突き抜け、境界線の隙間を抜けて声の主の元へと届く。
「……っ、この……想い……っ!」
今にも精根尽き果てようとしていた加奈に、ほんの一人分の力が上乗せされる。
たった一人分なのに、これほどまでに溢れ、滾る。
そして、懐かしいこの想い……。
「亮太……くん……っ!」
溢れる想いを胸に噛み締め、力に変える。
……亮太くん、今、助けるから。
その想いがエネルギーとなり、亮太の願いと合わさり限界を超えてどんどん増していく。
あぁ、やっぱり。
貴方となら、どんな悲劇だって乗り越えられそう。
放出を一旦止め、残ったエネルギーの再集束に入る加奈。
境界線が自動修復し始めるが、問題ない。間に合う。
……もう我慢なんてしない。
亮太くんがくれた全部のエネルギー、その全てを一瞬で絞り尽くす。
今は一秒でも時間が惜しい。
……だって、今すぐにでもその胸に飛び込みたいんだもん。
「……魔法、再展開。」
「発動。」
放つ、極彩の究極砲。
その愛の一撃は、残った次元の壁を容易く穿ち、貫通せしめた。
……パラパラと、欠片が舞い落ちる。
壁が修復する兆しは見えない。当然だ。
エネルギーと共に次元の境界線に撃ち込まれた因果の力により、しばらく穴は塞がらない。
「はぁ……はぁ……。」
やり切った満足感で倒れそうになる身体を奮い立たせ、虚数空間へ侵入する。
ここからが本番だ。
自身の砲撃の威力でボロボロになった杖を握り締め、彼の気配を察知する。
その気配は、意外にも近くで見つかった。
分かれた時から少しも変わっていない顔。
これも虚数空間の影響なのだろうか。
すぐに近づき、優しく抱きしめる。
「……見つけたよ、亮太くん。さぁ、帰ろう。」
亮太を抱えて、虚数空間の外へ出ていく加奈。
しばらくして繋がっていた穴が閉じ、再び虚無の世界へと戻る。
……そこには、銀髪の青年が居た。
「……今回は、負けたね。」
嬉しそうに青年が呟く。
「人間は哀れで、矮小な存在だが、稀にああいった力持つ存在が現れる。」
「その力が破壊へと向かえば、何と危険な事か。」
「そんなものを生み出す可能性など存在してはいけないんだ。」
「あぁ、あぁ!必ず滅ぼさなければ。この手で。」
何かを潰すように手を握る。
話し方はとても悲劇的だが、その声音は興奮と歓喜に満ちている。
「……さて次は、どんな風に滅びを与えようか。」
「あぁ、なんと無意味で、無価値な時間なんだろう。」
「いずれ滅ぶ定めの者達を弄ぶなんて、一体なぜ僕はこんな事を……」
そして、言い終わる前に自らの魔法で姿を消す。
残された場所に在るは、只の虚無のみ。
ただ、彼の目的などどうでもよい。
今大事な事は、無事再会した二人がこの後どうなったか、なのだから。