首無し姉妹の第2話 全5話で完結
首無し姉妹の第2話
作者 のん 得点 : 5 投稿日時:
先に自分の顔を洗ってしまおうと思っていたわけだけど、私の両手は妹の頭で塞がっている。一旦下ろして......というのも嫌で、妹の顔を先に洗ってから自分の顔を洗うことにした。のは良いものの。妹の顔を洗ったからって、妹の顔は消えない訳で。
「先に洗ってあげるから、自力で戻ってよ」
「えー、面倒くさいー。洗って来てくれるって言ったじゃん」
「む......もう、わかったわよ」
両手で持っていた妹の頭を左手オンリーに持ち変えて、蛇口を捻って水を出す。ちらりと妹を確認すれば、しっかりと目も口も閉じていた。このまま流水に突っ込めばいいだろう。
「ひゃ、つべば! おねえじゃ、ひどっ」
「え? なに!?」
妹の悲鳴に慌てた私は、うっかり手を滑らせて妹の頭を落としてしまった。水はためていなかったから溺れる心配はなかったけれど、そのぶん衝撃はあるだろう。何とかキャッチしようと思いいたった私は、急いで手を差し出し──首がとれた。
「うわあぁああ!?」
「いっ! あ、あれ。へぶ!」
戸惑いの声と柔らかい感触がする。首がとれたせいで更にパニックになってしまったわけだけど、何とかキャッチは間に合ったようだ。でも、キャッチできた妹の頭の上に私の頭が落ちてしまったから、無事とは言えなさそうだった。頭の下であばれているのが伝わってくる。
「すぐ退くから待って!」
そう言いながら胴体を動かして、自分の首をくっつけた。それと殆ど同時に妹の胴体もやって来て、自分で拾いあげている。幾ら眠たくて面倒だとはいえ、流石に動いたようで少し安心した。が、自分で自分を救出した妹はそんな訳もなく。
「酷いよお姉ちゃん。死ぬかと思ったんだからねー!」
眠たそうに半分閉じていた目が、ぱっちりと開かれていた。首がとれるのは良くて、とれた首が落ちるのはだめなのか。落とされたのがだめだったのか。妹の感性がまったく理解できなかったけれど、確かに妹は怒っていた。昨夜に謝り倒したばかりで謝罪に飽々していた私は、元気そうだしいいかと勝手に結論付けて、適当に流す。
「でも目が覚めたでしょ」
「もー、お姉ちゃんの意地っ張り」
「はいはい」
すっかりパニックも消え先のことがどうでもよくなった私は、自分の顔をまだ洗っていなかったことを思いだして、手早く済ませた。隣で騒いでいた妹は部屋に戻っていったようだ。私も戻ろう。
首がとれてもやっぱりちゃんと生きているようで、お腹が空いてきた。部屋の時計を確認すればいつもの朝食の時間は過ぎている。
「何かあったかな」
冷蔵庫を覗けば、調味料と少しの野菜、あとは飲み物しかなかった。ご飯は炊いてないしパンも買ってない。麺類ももちろんなかった。首がとれちゃうような状態で外に出るのは嫌で、お菓子で済まそうと戸棚を開ける。たしか買い置きがまだ残っていたはずだ。
「あれ、ない。ののちゃーん、お菓子知らない?」
「今食べてるー」
そう言われて視線を向ければ、カステラを丸ごと頬張ったまま振り向いた妹と目が合う。おそらくそれが最後のお菓子だ。私が分けてと言おうとしている間にも、妹はどんどん食べてしまっている。ふと、妹の首がまた外れているのに気が付いて、私はまだ残っているカステラより食べられたカステラの方が気になってしまった。
首が外れることにはもう大分なれてきてしまったけれど、血とか神経とか、本当にどうなっているのだろうか。それ以前の問題だと頭の片隅でツッコミを入れながら、自分で自分の首をやさしく持ち上げてみた。高くなった視界が少し怖いものの、他に違和感は感じない。そのままグルリと体を一周させ、また妹を視界におさめる前に、知らない女の人と目があった。
耳の近くまで口が裂けた、真っ赤な髪の女の人。うっすら開いた唇から血のようなものが溢れ落ちて、私は今日何度目かの悲鳴をあげた。