お前は「どこへ」いく。
作者 Yu 得点 : 0 投稿日時:
信号が青に切り替わる。
横断歩道をすたすたと歩く青年がもう一人のぼろぼろな服を着た青年の方を見て言った。
『なぁお前はさ、将来どうするん?』
そう告げると。聞かれる事を見透かしていたかのように
『知らん。とりあえず卒業するわ。』
これが、今後一人で生計を立てる奴の言葉かよ。そう思いながら青年は再び前を向きすたすたと歩く。ぼろぼろな服を着てる傲岸不遜な彼の名は、ハヤトだ。
『お前、そんな事言ってると、またぐっさんに怒られるぞ。』
『ぐっさんなんて怖くねぇよ。この前晩飯かけて大富豪したけど圧勝したわ。はははっ!唐揚げいただきましたっ!』
ぐっさんというのは、ハヤトが昔からお世話になっている児童養護施設の職員さんだ。山口先生なのだが、愛称はぐっさん。20代の綺麗な若い女性なのだが、ハヤトとは犬猿の仲らしい。なんやかんやでハヤトはぐっさんの事を信頼している。
『リュウイチ。お前こそどうなん。あれなんやったっけ、めっちゃむずい資格とるんやろ?』
ハヤトは頭を掻き毟りながら俺を見る。
『あぁ、司法試験な。俺はそのために大学に行くわ。早稲野大学やったけな。その大学が俺らみたいな施設上がりを優遇してくれんのだって』
聞いておきながら、ハヤトはポケーっとした顔をしていた。咄嗟に聞いてんのかっ!と突っ込んでしまった。ハヤトはにやりと口角を上げると
『へぇ~。俺には無理やなぁ。そこまでやれる気しやんわ。現実問題、退所したら金貯めなあかんやろ。それどうすんねん』
ハヤトにしては、意外な質問だった。見下している訳ではないが、先ほど知らんと言っていたせいだろう。すぐに俺は返事をした。
『割とちゃんと考えたで。バイトして貯金してんもん。あっ、ここ。』
ここで左に曲がる。左だ。と左手の人差し指を指したまま俺はハヤトを見た。
『真面目やなー、おい!…まぁでも、リュウイチなら大丈夫やわ。』
真顔で話してくれる優しいハヤトを見ながら、笑顔を見せた俺は
『ハヤト、お前。……左肩に鳩の糞の落ちてんで。』
はっ!?と声を上げると、指を指しているからか服を引っ張って、右肩を確認した。違う違う、俺からみて左!と言いながら、左手の人差し指を教えてあげた。
『うおわっ!!まじかよ!くそ生意気な鳩がぁぁあ!』
ハヤトは、軽度の知的障害を持っている。こうやって指を指して、目で見てわかるように接する事を視覚的支援というんだって。あとは、見通しを立てて説明する具体的支援と、決して否定しない肯定的支援がある。ハヤトのお世話をしているぐっさんが教えてくれた。俺って覚え早いから頭良いかも。
『ハヤト!ティッシュやるよ!トイレ行ってきな!』
笑いながらそう伝えた。ハヤトにはいつも助けられる。ハヤトのような同い年の奴に会えて本当に良かった。
『…ありがとな。ハヤト。ありがと神さん。』
ハヤトと俺が出会ったのは中学生の頃。豚箱で出会った。
『もう思い出したくないけどな…。しんどい事って忘れられへんねやろな。』
お前に救われたんやぞ。ハヤト。お前に会う前、小学生の俺はいくじなしやった。