はじめまして。以下、所感です。
まず、書き出しの時点で「商業レベルには達していない」と感じましたが、一方で「惜しい」とも感じました。
「描きたいもの」の芯は垣間見える一方で、「描く手段、技術」が不完全であるという印象です。
問題点は大まかに4点あると思われます。
●必須でない設定が多い
物語上の必須パーツとして機能する設定が少なく、フレーバー的にしか配置されていないと感じました。
たとえばタイトルにもなっている主人公の混血設定ですが、アイコンとしての側面が強く物語には影響していません。確かに技などは親のものを引き継いでいますが、技の属性はその気になれば幾らでも置換可能です(特に本作は、「その属性でなければできない戦い方」が希薄な印象でした)。
特別な出自を持つ主人公はカッコ良いものです。分かります。ただ、だからこそその主人公の人格や振る舞いにもっと設定を反映させなければ「名前負け」に近い状態になってしまうと感じました。
主人公の設定は、外界に固有の影響を及ぼしてこそ機能するものだと思います。
天地の神の血を引いている、だから天地の技を使える、「だから天候や地形を操れる」「だから領地を肥沃にしたい権力者たちから目をつけられている」まで持っていければ、
「主人公の力を悪用しようとする権力者に追われる主人公」「敵国の土地を不毛の地にしてくれれば報酬をやる、という悪役に対し『両親から貰った力を悪用はしない』と突っぱねる主人公」「一方で天災に苦しむ人々をこっそりと助けているが立場上真相は明かせない主人公」など、物語上の展開に接続しやすいのではないでしょうか。
(なお、上記の展開をそのまま使うと「理想郷へ向かう」という目的と噛み合わないため調整が必要かと思われます)
「人間とは価値観が違う」も活用されていない印象ですが、たとえば「助けた少女からお礼として花を貰うも、花を摘んだ(殺した)ことに怒ってしまいすれ違う。しかし少女の真意を知ってからは和解し、二人で花の種を植える」辺りのエピソードに繋げられそうです(これもベタですが)。
また、こめかみから神の羽を出せるという設定についても、現状冒頭でしか触れられていない印象ですが「不安になった時その羽に触れる癖がある」などを設けておけば
「決戦前、口では『心配ない』と笑うが無意識に羽を触っている」など行動に関わる演出として機能させることができそうです。
●設定や展開の説明に終始しており、物語が描写されていない
たとえば書き出しですが、現状は設定集以上の機能を果たしていない印象です。
基本的に、読み始めの読者は主人公に関心がなく、主人公の設定(たとえば親の出自など)に対しては輪をかけて無関心です。読者が読みたいのは物語であり、設定ではありません。
「親二人の馴れ初めは物語じゃないか」と思われるかもしれませんが、あれも設定です。個人的には、「歴史の教科書の記述と大差ない描写はNG」だと思っています。
父の強さを示したいのであれば、「父さんは腕一本でも、全力の俺に一撃も入れさせず相手してくれた」など具体的な情景が浮かぶ描写を重ねていく方が良いでしょうし、
母の価値観を示したいのであれば、逃げるという教えだけを示すのではなく、主人公がその教えを聞くに至ったエピソード自体を描写するべきだと思われます。
●主人公の設定と描きたい展開が噛み合っていない
親を失った主人公の成長譚的なフォーマットと、見るからに強そうな混血設定や魔法関連の設定があまり噛み合っていないと感じられました。
特に、魔法関連の説明が曖昧な点が気になっています。「魔法で何が出来るのか、何が出来ないのか」ひいては「今の主人公には何が出来るのか、何が出来ないのか」が不明瞭であるため、主人公の成長を感じるための要素が希薄です。
魔法の火力以外にも、戦略や度胸の面における主人公の(現状の)欠落は提示した方がその後の成長でカタルシスを得やすいですし、負傷や失敗・仲間の苦難なども描いた方がドラマ自体は描きやすいものと思われます(自爆したのに全然平気、は緊迫感が損なわれると感じました)。
また、最初から最強の主人公を描きたいのであれば敵が少々強すぎるように思えます。
●展開が場当たり的
伏線が少なく、「突然現れる敵」「初出の技」が多いと感じました。魔法が使えるなら使えるで範囲を指定してほしいですし、敵が迫っているならフラグを先に立てておいてほしいという印象です。
また、弊害として「合理的な展開なのか?」という疑念が生じました。両親が刺客に魔法で対抗しなかった理由、自爆を最初の襲撃で使わなかった理由、追手が易々と居場所を掴めた理由などへの疑念です。
総じて、「読者に受け取らせる情報の選定や印象の構築が不十分である」という感想でした。
ただ、主人公や世界観にまつわる「描きたいイメージ」は定まっている印象でしたので、「そのイメージをいかに伝えるか」を磨けば王道の良作になるのではないかと感じます。
以上、何らかの役に立ちましたら幸いです。