ステーキ! ステーキ! ステーキ!
スレ主 何てかこうか? 投稿日時:
初めまして、よろしくお願いします。
”何てかこうか?”といいます。(ペンネームかぶっている人が居たらごめんなさい)
こちらの研究所の投稿は初めてになります。
本文を投稿する前に感触を確かめるためにこちらに投稿しました。
こちらで欠点を教えていただいたら、手直ししてどこかの投稿サイトに投稿しようと考えています。(手直しが効かないほどダメダメだったら、他の作品を作って再チャレンジしようと思います)
現段階で下記のあらすじの”狼の二回目の襲撃”の手前まで書いています。そしてプロローグに相当する部分は下記の”魔王城に連れ戻される”のところまでとなっております。
あらすじ
魔法帝国に魔王の子供のカテイナ(主人公)が侵入する。目的はステーキの強奪で、その最中にヒロインとであう。ステーキを食べた後、母の強襲を受け、魔王城に連れ戻される。
ヒロインを道連れにするが、母のお仕置きでカテイナは尻叩きと魔法が使えない枷を付けられる。あまりの理不尽にカテイナはドラゴンを使って、人間の国へ家出する。
人間の国でカテイナは常識がなく、金がなく、魔法が使用不能で窮地に陥る。そこでヒロインがアルバイトし生活をカバーする。ようやく生活のめどがつく頃、母のカテイナを連れ戻せとの勅命を受けた”狼”がカテイナの元に到着する。初回は”狼”が撤退する。
魔物”狼”の襲撃により人間の国は勇者(偽物だった)を呼ぶ。それと同時期に態勢を整えた”狼”の二回目の襲撃がある。これをカテイナの覚醒で撃退するが、直後に偽勇者との連戦になる。力で偽勇者を粉砕し、ヒロインを魔法帝国に帰しておしまい。
偽勇者に対する覚醒時の主人公のセリフ
「悪魔? 怪物? そんな称賛、届かないね! 俺を称えるなら”大魔王”と呼べ!!!」
タイトルについて
オーソドックスに”カテイナの大冒険”とかやるよりは”そうだ! うまいもの食いに行こう!”、略して”そだうまっ!”のほうのタイトルがいいでしょうか? 直情、単純、花より団子の主人公の気質が出ると思ったので。
現段階では主人公カテイナの性格と趣向がよく出ている”ステーキ! ステーキ! ステーキ!”で行こうと思っています。
プロローグのねらい
狙いとしてはタイトルで「は? なにこれ?」と興味を持たせて、プロローグで主人公のエネルギーに巻き込めたらと思っています。読者に主人公のことを「面白いアホがおるww」と思わせることが目標です。
不安な点
ステーキの文量が多すぎですか? プロローグでタイトル回収及びカテイナの性格描写のためにステーキにかなりの分量をさいたのですが、やり過ぎでしたか? 必要最低限という物が私にはわかりにくくて、城とか世界の背景とか、もっと他の描写をした方がいいのでしょうか?
「読んでわからない(描写の足りない)」ところと「過剰でウザイ」ところを教えてください。
プロローグ
俺の名はカテイナ、次期魔界王、五歳だ。
今、非常に厳しい状況に置かれている。魔法帝国の最深部に潜入したのはいいのだが、城内の騒ぎを鑑みるにどうやらバレたようだ。
目的の部屋まであと少しなのだが、侵入できずに時を待たねばならなかった。しかし、もう間もなく兵士がここにも駆けつけるだろう。ただ待つわけにはいかない。
こういう時は日ごろの訓練がものをいう。物陰に隠れて息をひそめる。そして敵があきらめるまで待つ! 冷静にこれができなければ獲物を取り逃がしてしまうだろう。
一瞬でこの廊下を見渡す。
隠れるべきは床の赤絨毯ではない。潜り込めば姿は見えないが盛り上がった絨毯では見つけてくださいと言っているようなもの。そして通路の飾りの全身甲冑でもない。中に入るにしても足の長さが全然足らないのだ。全自動、股裂きは勘弁願いたい。
最終的に俺が選んだのは通路の仕切りに使われるカーテンだ。自然と膨らんだ布の隙間なら十分に潜り込むことができる。
俺が隠れたカーテンの目の前を一人の兵士が通り過ぎる。緊張の一瞬だ。全感覚を研ぎ澄まして相手の様子を探る。俺であればどんな事態も切り抜けられる。真正面から戦えば人間の一匹や二匹、相手ではない。
そいつは俺が入ろうとしていた部屋の扉の前で止まる。どうやら部屋の警護に来たようだ。
「なんで私がこんな目に……そもそも、本当にここに来るんだろうか?」
一人で愚痴を言いながら、兜を脱ぐ。胸まで届く黒の髪、恰好を見れば女だと言うのがわかる。結構、細身に見える。年は俺の三倍ぐらいか? 年増だ。
一応、この城に女兵士がいることは知っている。確か皇女の親衛隊は全員女だったはずだが……それが何で皇女と関係ない部屋を警護しに来たのか? この俺にもわからない。
もう少し様子を見よう。
相手は廊下を一度見渡すと、手甲も脱ぎ去った。装備は胸当てと体に密着するような白いズボン、紺の下地に金の刺しゅうを施した上着を着ているだけだ。戦いでも警護の恰好でもない。
? 剣を置いた? 本当に何をしてるんだ、こいつは?
行動の意図が読めない。相手は天井を見ている。ぶつぶつと神に祈っている。
「隊長、死んだら絶対に化けて出てやる。なんで、本当に居るのよ?
……さあ、出てきなさい。おチビちゃん!」
! この俺以外にも侵入者がいたのか! 侵入者はこの女の反応からして子供! 初めて誰かが隠れているという意識であたりを見回す。
俺と同じものを狙うとはなかなかの慧眼の持ち主だ。
「君だよ! そこのカーテンの君!」
真向いのカーテンを凝視する。誰が潜んでいるのか? 全く気が付かなかった。
「早くしなさい! 足が見えてる!」
ほほう。足が見えてるとな? 俺と同じ考えにしてはマヌケな……まあ、子供なら仕方ないだろう。
カーテンの裾を集中してみる。こっちの角度だと見えないのか? それとも言われて隠したのか?
「頭痛い……君だよ! えっと……カテイナ君!」
自分の足元を見る。なるほど、カーテンの裾からつま先の分、靴がはみ出ている。見つかってしまったか……しかし、ここで取り乱してはならない。素直に相手の観察眼を誉めてやるのだ。
カーテンを優雅に払って相手の前に進み出る。
こういう時に急いではならない。相手に小物とみられてしまう。俺は次期魔界王、それなりの威厳というものを醸し出さないといけない。それに目的の物に手を伸ばすにはまだ時間がある。赤い瞳を輝かせて金の前髪をかきあげて余裕を示す。
「ふはははは、よくぞみつけたな。ほめてやろう」
腕組みをして相手を見上げる。背の高さだけでこいつは俺の一.五倍以上ある。見上げることしかできない。
女はひざを折って視線を合わせた。よしよし自分の立場ってものがよくわかっているじゃないか。ただ、その……なんだ。頭はもっと低くても構わないぞ?
「はつげんをゆるす」
相手の言葉の機先を制する。こうすると、俺の許可があって、初めて話し出したように見える。そしてなるべくつま先立ちして、相手の頭を下にするのだ。
女はちょっとためらった後、無言でゆっくりと両手を広げている。そしてそっと腕を俺の体に回す。
表情は緊張そのもの、恐れ多くもこの俺を触ろうというのだ。手が震えているのがわかる。いくら外見が人間の子供とほとんど同等と言えど、威厳だけは伝わっているはずだ。魔王の系譜、こいつからしたら絶大な威厳だ。
女はゆっくりとゆっくりと確かめるように抱きしめてきた。
「か、……」
「 か?」
その先を促すように聞く。
「カテイナ君、大人しく捕まっていてくれないかな?」
……考慮の必要はない。捕まるなど論外だ。ぐいと腕を伸ばして女の胸当てを押す。
「ことわる。おれはもくてきをはたすまで、つかまるきも、かえるきもないぞ」
「そんなこと言わないで。
ね? お願い」
「だまれ、としま! おれが、おまえのねがいなんて、きいてやるとおもっているのか!」
女の目が一瞬だけキレた。人間の分際で俺の母とおんなじ目をしやがる。そしてキレた理由も同じだ。
「カテイナ君、私まだ十六なんだけどなぁ?」
「ふふ、ふはははは、おれのさんばいいじょうだ! としま!」
「……ッ、このクソガキッ、
ねぇ、お姉さんが優しく言っているうちに言うことを聞いて欲しいな」
次期魔界王のこの俺が? 人間の年増の言うことを? 冗談は年だけにしろ。俺は先に生まれた程度の理由で、お前ごときに従うほど馬鹿ではない。俺は俺のやりたいようにやるのだ。それに俺には目的の時間が近いことも聞こえている。こいつを構ってやる時間はあまりない。
「はなせ! としま!」
女の顔にだんだんと青筋がたまっていく。口の端がひきつけを起こしている。そろそろ我慢が限界に近いのがわかる。
放すどころか徐々に力が入り始めている。しかし、次期魔界王にその態度は賢明な判断とは言えないな。
「としま、おまえなんかがこのおれに、ジキマカイオウのこのおれに、かてるとでもおもっているのか?」
俺を締め付ける力の上昇が止まる。まあまあの判断だ。今の俺は騒ぎは起こしたくない。だが、降りかかる火の粉を払いのけるためならためらわないのだ。
鼻を鳴らして、“いい判断だ”と声をかけるために女の顔を見る。
完全にプッツンした表情をしている。
俺の母はよくこの顔をする。この顔をさせたら最後、泣いて謝っても許されない。ちょっとだけ気圧されたのは内緒だ。表面だけは、にっこり笑顔で「ちょっと待ってね?」と言うが、右手をがっちりつかまれている。
女は左手を耳に当てると、目の前で自分の上司とテレヴォイス(遠隔会話)の魔法で話を始めた。隙を見て振りほどくしかない。俺の腕力があればできる。
「隊長、こいつ、ひっぱたいていいですか?」
目の前に俺がいるのにひっぱたくとは言ってくれる。
「え? ダメ? 外交問題? あの……隊長?
私、ここまで馬鹿にされたの初めてなんですけど?
我慢……ですか? もう無理です。
……はぁ、わかりました」
女が向き直る。完全に見下したような視線、そしてすっと立ち上がる。
「カテイナ君。あと一回、私に“としま”って言ったら、ぶっていいって許可が出たわ」
断言するがそんなことをこいつの隊長は言っていない。盗み聞きしたわけではないが、俺は暴力が許容されるような人物ではない。そのことだけは胸を張って言える。大体、俺を無遠慮にぶてるのは俺の母ぐらいのものだ。
「ばかにするなよ。としま、おまえのことばはうそだ。ぜんぶわかっているんだからな」
完全にキレた視線のまま話を続ける。
「ねぇ、カテイナ君。私ね。クラウディアって名前なんだけどな」
お前の名前など知ったことかよ。もう、お前なんかに構っている暇はないのだ。
目的の部屋で俺が進まなければならない理由が完成した。俺が部屋に入らず手前の廊下で息をひそめていなければならなかった理由がなくなったのだ。もはや、誰が相手であろうと押しのけて通る。
「うるさい。としま! いいにおいがただよってきた。もう、おれはさきにすすむぞ。りょうりはできたてが、いちばんおいしいんだからな!」
俺の宣言にクラウディアが完全硬直する。
ぱっと手を振りほどくとふわりと浮いて城の厨房に向かって突撃する。
俺は今日を一日千秋の思いで待っていた。今日の夕食のメニューはステーキだ。この国のステーキの味を知ったのはちょうど一年前……母に連れられて行った、この国に対する表敬訪問の時だ。それからこの国のステーキの味が忘れられなかった。
どの日のメニューがステーキか? この秘密を探り当てるためにどれだけ苦労をしたかしれない。この時のためだけに日付を覚え、この国の座標をつかみ、一方的なテレヴォイスで情報を盗み出し、ワープゲートの魔法の修練を怠らなかった!
期待に胸躍らせ扉を押し開ける。
人間の五歳児とさほど変わらない外見でも、けた外れの魔力で圧倒すればいい。さあ、隠れるために抑えていた魔力が“時はきたれり”とばかりにほとばしる。
「おれはジキマカイオウ、カテイナだぞ! おとなしくステーキをさしだすのだ!」
大声で厨房を威圧して侵入する。コックの手元では今まさに鉄板から皿にステーキが移されるところだった。
肉が焼ける匂い、飛び散る肉汁の音、目の前の予想を超えた肉厚は食べ応えを予感させる。この部屋に隠されていたすべてが俺を誘っている。
本来、この食事はこの国の皇帝に捧げられるものだ。ステーキが乗る皿の絵柄だけでもそれが理解できる。
だが、こんなに旨い物を独り占めするとはいかなる了見か? 次期魔界王の特権は皇帝すら凌駕する。これはこの俺に捧げられるべきものなのだ。
五切れに切断されたステーキの断面からは、レアの、肉本来の赤身がのぞく、なんという色だっ、たとえ宝石の輝きとて、この躍動感は表せない。最高級、これはもう人が口にして良い物ではない。この俺に独占されるべきものだ。
何人たりともこの輝きを奪うことは許さん。たとえ極上のソースでもダメだ。輝きを増すためだけにわずかな岩塩のみがそこに寄り添うことを許してやる。
ダメだ、見ているだけで腹が減ってしまう。
周りのことなど目に入らない。厨房の机に置かれたステーキに視線をくぎ付けにされている。
自分でも気が付いた時には手を伸ばしていた。フォークを持つ、狙いを定めて刺す。という何度も頭で描いたシチュエーションをすべて台無しにして、指でつまんでしまった。
熱い。しかし、この俺は次期魔界王だ。炎を扱うことだってある。ひるまずに口に運んだ。
旨い! ほっぺたが落ちると言うのが比喩でなく実感で理解できる。美味しさを伝える神経がしびれて機能しない。ひとかみで広がった肉汁の旨味が完全に口内を支配している。わずかに感じる塩気が肉の旨さを際立たせる。例えるなら色彩の違いがより鮮烈にその色の存在感を増す感覚、そして肉であること示しながらやすやすと噛み切れる歯ごたえ。
素晴らしい。このためだけに我慢をし、あの女の茶番に付き合ったのだ。両手でほっぺを抑えてとろけるような笑顔になる。
ようやくひと切れ目を飲み込んで、ほっと一息をつく。
そして目の前にはひと切れ減ったステーキが、次はまだかと待ち構えている。しかし、ひと切れ食べたら、ひと切れ無くなってしまうのだなぁ……次がある期待感と終わりが一歩近づいた寂しさが同時に去来する。こんなに複雑な気分は久しぶりだ。
少し気分をかみしめて、浮いていたことに気が付く。慌てて椅子を探しだして、正しく座る。流石に不作法が過ぎたし、座った方がさらにステーキに集中できる。
ステーキ皿を前にどうしようか思案するその刹那にすっと水を差しだされる。
迷いなく水を手にして口の中を一度リセットする。ふと見上げれば、長いトックをかぶった料理長が同時にハンカチを俺の手にかぶせた。
なるほど、この芸術品を作り上げたアーティストには敬意を表さねばならない。キチンと手を拭き、フォークを握る。準備が整ったところでコック長が頷く。それを合図に二切れ目も一口で食べる。変わらぬ旨さ。幸せだ。
「りょうりちょう、すばらしいしごとだ。げいじゅつひんといってかごんではない。ふたきれたべて、よけいにはらがへったぞ」
これが今の俺の素直な気持ち。心動かされたものに対して正直に称賛を行う。食べただけ腹が減る魔力無き魔法、この世界での奇跡の一つに数え上げて差し支えないだろう。
三切れ目、初めてソースに手が伸びる。俺はこのステーキの異なる顔を見てみたい。濃厚ソースによって、味が際立つのか? それとも肉とともに歩む味なのか? 試してみたくなった。
たっぷりソースをつけたステーキを口の中に放り込む。
肉の甘味とは異なる野菜の甘味がある! ソースによって肉の存在感が爆発的に増したのがわかる。すでに腹に入れたはずの肉がようやく腹の底に落ちたのを実感する。どっしりとたまる重さがなんとも言えない。肉と野菜のコントラストによって食べ応えが増した。
ああ、しかしソースは失敗だ。ソース自身が悪いわけではない。コック長の全力が投じられていることは明白、ソースだけで日々の食事が満足できるほどの美味しさだ。
失敗したのはソースをつけるタイミング。最後の一切れにすべきだった。この俺に大人の体さえあれば一点の曇りなき完成品であった。五歳の子供の体ではこの肉の重さに耐えられない。あと残り二切れ……なんてミスをしてしまったのだろうか。
くそっ、このままみすみす冷やしてしまうなんて、飲み込めずとも口の中に入れてしまいたい。フォークを握りなおす。決意を新たに四切れ目に手を伸ばす。
肉を突き刺した手が動かない。悔しい。これほど打ちのめされる結果になろうとは! 俺の期待に自分の体が答えられない。
震える手にコック長が魔法をかける。魔法と言っても魔力は使っていない。この俺は次期魔界王、魔法耐性が有り余っていて人間の魔法なんてきかないのだ。
では何が起こったかと言えばレモンだ。ステーキの残りにレモン汁をかけている。柑橘系の鼻を衝く鋭い香りが油のにおいを吹き飛ばす。するとどうだろう、胸まで押し寄せていた肉が腹の底に引っ込んでいくではないか。
意を決した四切れ目、塩と同レベルの味を取り戻した肉が口の中で踊っている。今までよりも丹念に噛んで、味をとことんまで出し尽くして食べる。
グラスに注がれた冷水を一口にあおる。さあ、ラストバトルだ。残り一切れ、この戦いには勝たねばならない。すべてを腹に収めて俺が勝つのだ。
意気揚々と伸ばした手を止められてしまう。止めた相手はコック長だ。
「なぜとめる?」
「食事は腹八分目と申します。見たところすでに腹八分、これ以上はいけません」
「ばかな、りょうりはくいきってこその――」
「ここで食べきって終わりにしてはなりません。次をより楽しむために、自分を抑えて耐えるのです。あえて残す。次をよりおいしく食べるためです。先を見据えることができぬ男に料理を出したつもりはありません」
ぐっ、そうか、王の嗜みか。完全に勝つのは大人になってからということだな? この料理長の言うことだ。信じるに値する。
「……わかった。だが、くちおしい。
そうだ、おまえ、おれにつかえるきはないか? まいにちこのりょうりをつくれ、さいこうのたいぐうをあたえるぞ」
「料理の腕を認めいただきありがとうございます。しかし、私はオリギナの民です。国を離れては生きられません。
それに、すぐにこの量が腹八分になる時が来ます。その時にまたのご来駕を、わたくしも腕を上げてお待ちしております」
料理長がトックを取り頭を下げてお断りをする。芸術家は難しい。ちょっとした環境の変化で作品が変わってしまう。それだけは、美味しさが変わることだけは断じて避けなければならない。
「おしいなぁ、おまえならおれのちょくぞくのえいよをあたえるのに」
その言葉に笑顔でお辞儀をしてくれた。スカウトは失敗したが悪い気はしない。少し残ったステーキに未練はあるが、今日はここまで、立ち去ろう。
「かならずくるからな」
トンと椅子を降りる。その後ろでは女が呆れた顔で立っていた。
……誰だっけこの女? 正直、ステーキがうますぎて食べる前のことは忘れた。
「カテイナ君……君は本当にステーキ食べに来ただけなの?」
「それいじょうのかちが、このくにのどこにあるんだ?」
女は……そうだ、思い出した。クラウディアだ。クラウディアは目を点にしている。本当にステーキを喰いに来ただけという事実が呑み込めないらしい。
「本当に? それだけの理由でこの城に侵入したの?」
「あたりまえだ。まあ、このりょうりちょうなら、まかいでおれにつかえるだけのしかくがあるがな。アーティストにむりじいはよくない」
手の仕草で道を開けろとクラウディアに指示する。
黙って横に避けて、その後、厨房を出ようとした俺の後ろについてくる。
「なんだ? クラウディア? もう、ようはないぞ。おまえにもこのしろにもだ」
「あの……一応、帰るまでの監視を言われているから、最後、きちんと帰ったことを報告しないといけなくて」
「なんだ。なんぎなことだな」
食事の余韻が大きい。この程度の無礼なら今は見逃してやろう。
廊下に出る。他の兵士は集結すらしていない。侵入はバレていなかったのか?
「そういえば、ほかのへいしはどうした? しょくごのうんどうがてら、あいてをしてもよかったぞ?」
自信満々に拳を握る。クラウディアはその様子を心底どうでもよい様子で見ていた。
「……言う必要ないと思ったけど、君が今日ここに来るの城中にバレてるんだけど?」
「なぜだ!?」と思わずクラウディアに振り向く。
「……君、テレヴォイスでこの城を探っていたよね?」
「そうだ!」
「で、その時にこの城の結界に穴をあけた」
「もちろんだとも! けっかいをやぶらなければ、こえはきこえないぞ?」
「その時に、逆探知されてるんだよ。ステーキ! ステーキ! ステーキ! って、連呼してたって聞いたよ。
こっちとしては魔界と戦争するわけにもいかないし、ステーキで帰ってくれるならって、今日の献立が決まったんだよ。
私が来たのもそういう理由。刺激しないように女の子一人で相手をしろだって、ほかの兵士は万が一に備えて厨房以外を固めてるよ」
な、何だそれ? だったら最初から“ステーキを用意して待っていろ!”と古の魔王の如くこの国に布告をするべきだった。
いいや、ダメだ。母のことを忘れていた。そんな大々的なことをしたら母に血祭りにあげられてしまう。比喩ではなく本当にだ。どこかおかしい気がするが穏便にステーキが食えた。これだけで良しとしよう。
「こんどはあのりょうりちょうに、ちょくせついうようにする」
「そのためにまた結界を破るの?」
「ないしょできめればいい」
そんなことを話ながら、城の中庭の木陰まで歩いていく。ここに魔界の居城……俺の部屋まで直通のゲートを構築する。ちゃんと教科書通り、最初に通ったゲートの軌跡を残しておいてよかった。ステーキの衝撃だけで危うく帰り道を失うところだったぞ。
夜の暗がりの中、ゲートを静かに開く。魔法でできた空間の亀裂が光を放つ。この先は、魔界だ。クラウディアには無縁の土地になる。
「さらばだ。こんどはステーキをくうにふさわしいからだになってかえってくるぞ」
ゲートに手を入れて、直感で飛び退った。ゲートがゆがむ。
目の間でゲートがいきなり大きくなった。
このゲートは俺が、俺だけが通れるようにできる限り小さく作ったはず……!
ゲートからにょっきり手が生えた。
この手は忘れもしない。我が母の手!
そして手だけでブチギレしているのが理解できる。そのぐらいは母と一緒に過ごした。
とっさにクラウディアを盾にする。
ぬっと出てきた顔を見て完全に硬直した。蛇に睨まれた蛙の気持ちがよくわかる。俺に似た金髪と赤い瞳、人間とほとんど変わらない姿をしているのに、迫力の次元が違う。
現・魔界王、大魔王シヲウルが我が母だ。魔界一の力の持ち主である。そいつが長髪を逆立てて怒っている。今、逃げないと拳骨一発では済まない。人目をはばからない、尻叩き五十連発が来る!
振り向こうとしたそばから魔法が直撃する。
「ドレス・ロック」
完全に服が固まってしまった。
「逃げるつもりか……そんな程度でよくも次期魔界王などとほざいたものだ」
母の魔力は全世界一、この俺でも解除不能だ! 口だけでもせめて言い訳を。
「おれはじきにまおうになるんだぞ」
「おのれの如き馬鹿に私が王位を譲ると? 本気で思っているのか! 我が子ながら、ここまでの不良品だとは思わな……思いたくなかったぞ。お前の馬鹿が治らないようなら私は次の魔界王候補を作るだけだ!」
流石に大魔王ともなるとセリフが違う。俺にはまねのできない言葉だ。
そして絶大な魔力がほとばしる。
ただその場にいるだけで電光が走る。暴風が吹く。他の生物とは圧倒的に存在が異なる。熱量が違うのだ。意思を持つ歩く活火山と思って差し支えない。
そんな奴が手を振り上げた。間違いなく平手打ち! それも大魔王の平手打ちだ! ふれたら一直線に城壁をぶち抜いて吹っ飛ぶ。
狙いは俺の頬だ! 視線が顔から外れない! 一撃必中、そして掠っただけで体力の半分、直撃したら五分の四は確実に消し飛ぶ。
ステーキを盗み食いする計画は、人間にバレても問題はないが、母にだけにはバレてはならなかった! 俺がちょっとわがままを言っただけですぐにキレてしまう母だ。無断外出、他国への不法侵入だけで処刑の可能性すらありうる。
「あ、あの、お取込み中に失礼します」
「黙ってろ、人間。死にたいのか?」
「クラウディア、はなしてくだしゃい」
つい思わず母の怒りを先延ばしにしたい本音が出てしまった。母はプッツン寸前、怒りの邪魔をしようものなら矛先は止めようとしたクラウディアにも向かう。軽装ではデコピン一発で再起不能は免れない。
母の威圧に震えながらもクラウディアは進言した。
「お、おそれながら、親子喧嘩はま、まかいでおねがいします。ここはオリギナです。オ、オリギナ帝国に被害がでるなら、わ、我らオリギナ帝国兵一同は命を惜しみません」
その言葉で一瞬だけ母が正気に戻る。あたりを見渡すと、ここが人間の国であることを理解したようだ。
無造作に俺の服をつかむ。
「ああ、なるほど、これは失敬した。私としたことが、こいつを魔界に引きずり込んだつもりだった。帰るぞカテイナ。続きは魔界でやる」
クラウディア、お前はなんて余計なことを! 魔界に帰ったらそれこそ止める奴も居なくなる。そしてお前はほっと一息ついているんじゃない! 正気に戻った母が冷酷に怒りをぶつけてきたらそれこそ俺の人生に汚点がのこる! 椅子に座れない日々が軽く一週間は続いてしまう! 相手は“死を売る”大魔王! 慈悲は無いのだ!
母が俺を肩に担ぎ上げる。俺を肩で固定して尻を叩きやすい格好だ。魔界に帰ったら五秒で尻叩きが始まる確信めいた予感がする。
クラウディアが安どの笑顔で俺を見送る。表情を直訳すれば“おたっしゃで~”と“助かった!”が見え隠れしている。き、貴様だけ安全圏に逃す気はないぞ!?
道連れだ!!!
母が一歩ゲートに踏み込んだ刹那、母の背中から魔力でクラウディアを拘束する。
丁度、俺の手から首輪付きのリードが伸びたような状態、あっけにとられたクラウディアをコネクトペインの魔法で問答無用に引っ張ってゲートを無理やりくぐらせるのだ。母の頭はゲートの向こう! 良し! 気が付かない!
クラウディアの悲痛な叫びは城内にこだますることなく消え去ってしまった。
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