コートヤードの歌声
作者 ゆりあ 得点 : 2 投稿日時:
私は男という生き物が苦手だ。
何故なら男という生き物にほぼ悪い思い出しかない。
男の先生が嫌いだった。沢山叩かれて痛い思いをした。問題を間違えただけでもすぐに叩かれた。
そして小学校1年生の頃から受けてきた男女問わず受けた沢山のいじめ。
当の本人達にはいじめの意識なんて無いだろうね。ただのからかい。
だけど、私はやり返すことも反論することも出来なかった。
そうしたところで仕返しされるのが怖かったから。ただの言い訳だけど、恐怖で物怖じしてしまって何一つ出来なかったのは事実。
友達と言って声をかけてくれた子も、私と一緒にいじめを受けてしまい、不登校になってしまい、最終的に転校してしまった。
私のせいで。
ほんの少しみんなより色素が薄いからって、なんでこんなに私が責められなきゃいけないのか分からない。
だけど、自分さえ耐えていれば大丈夫。そう思って耐えてきた。
そして、私が男が苦手になった理由は、小学2年生の頃、友達と遊んだ後の帰り道に起きた。
知らないお兄さんに優しく話しかけられ、少しだけ心を許した自分も悪い。
自分は馬鹿だ。自己紹介までして。
思い出すのも嫌な事をされた。
最近は色んな事件があるけど、事件になると大抵被害者は死んでいる可能性が高い。私が生きていれたのは奇跡だと思う。私が大人に言ったら間違いなく事件になる。
だけど言わない。言えなかった。
大切な両親に心配をかけたくなかった。
この事は一生自分の心の中だけにしまっておく。何重にも鍵をかけて。
そんな私の唯一の救いが優しい両親と姉の存在。
両親と姉のお陰で変な道に進まずここまで来れた。
それに父親は男だけど、とても優しい。
それが男は苦手なだけで完全に嫌うに至らない理由。
男だからといって優しい人が居るのは知っている。
だからといって、男とは進んで接点を持ちたくない。
このまま男女共学の学校へ行けば遅かれ早かれ私は不登校になる可能性がある。
優しい両親には絶対心配はかけたくない。
だから私は少しでも男の居ない女子校を進路に選んだ。
まあ、男子ばかり苦手なわけでもないけれど。
女子も女子で、コソコソと噂を立ててグループを作って他者をけなしたりする人種は苦手だ。だから進んで輪に入りたくなかった。
そうしているうちに私は孤立してしまったのだ。
小学校でこんな思いをしたから、中学からは誰も知り合いのいない学校に行こうと決めていた。
希望の進学先は地元からも遠く学生寮があり、小学校の知り合いもいない完全に新しい関係が作られ、自分も何か意識を変えられると思った。
急に女子校を目指すと言い、両親は驚いた。
適当に制服が可愛いとか言って納得してもらったけど、やっぱり本心は伝えられない。
伝えてしまえば楽だけど、両親が傷つくのが目に見えている。
何かあると過保護なまでに心配してくれる両親にこれ以上心配をかけたくない。
2つ離れたお姉ちゃんが私を庇って死んでしまったあの日から、両親は世間からみてとても過保護な両親になった。
本当は目の届くところに置いておきたいと思っているのは痛いほどわかる。だけど、そこで近くの学校に進学して不登校にでもなったら余計な心配をかけてしまう。
正直なところ既に不登校になりたかった。だけど両親を心配させたくない一心で通い続けていた。見知った顔の居る学校にこれからも通って不登校にならずに通い続ける自信はこれっぽっちも無い。
私の精神力はちっぽけなものだ。
だから新しい環境で新しい人達と学校生活を送りたい。
そういう思いを胸に、勉強を頑張って、無事志望校に入学できる事になった。
父も母も進学先を伝えた当初は納得いってないみたいだったけど、自分の道は自分で決めて欲しいと私に選ぶ権利をくれた。本当に感謝している。
これから新しい生活が始まる。
そう思うと胸が弾んだ。
寮を使う生徒は入学式の前日に必要な荷物を持って寮で生活する準備を始める。
始発電車で向かった私は一番に着いたらしく、案内をしてくれる先生すら居なかった。
それもそうだ。指定時間の1時間も前なのだから。
荷物を寮の出入り口に置いて、寮の周りをぐるっと回ってみた。すると、校舎と寮の間にある中庭から歌声が聞こえた。
そよ風の歌。
まさにそんな言葉が相応しい歌声だった。
なんの曲かは知らないけれど、とても透き通っていて、聴き入ってしまった。
歌い終わると彼女は私に気づいてこちらを向いた。
吸い込まれるかのようなとても綺麗な漆黒の瞳。
思わず見とれてしまった。
「あなた...誰?私は赤城みつき」
「わ、私は明日入学する、柴原...めい...です」
「ってことは同級生だね。よろしく」
そう言って彼女は手を差し出した。
「よ、よろしく!」
戸惑いながらも握手した。
「私この学校に知り合いが居ないんだ。だからあなたは私のこの学校での最初の友達!」
そう言われて握手している手を両手で包み込み、私は言った。
「わ、私も!この学校に知り合い誰も居ないの」
「お揃いだね!」
そう言うと赤城さんは、とても素敵な笑顔を私に向けてくれた。
初めての友達。
今度こそ友達には絶対迷惑なんかかけない。
何があっても。
先生が来るまでの暫くの間、赤城さんと色んなことを話した。
家族の話、好きなアニメの話、昔飼っていたペットの話...
趣味とか好きなものが似ていてとても話が盛り上がり、気がつくと集合時間が近づいていた。
「そろそろ集合時間だね...寮の出入り口まで行こうか?」
「そうだね...ねえ、柴原さん。...名前で呼んでも良いかな?その...呼び捨てでもいい?」
「...!いいよ!」
「ありがとう!めい...!」
「へへ...。私も...いいかな?」
「もちろん!」
「み...みつき!」
「なーに?めい♪」
「呼んでみただけ!」
「あははははっ」
「えへへへっ」
入学式の前に素敵な友達が出来た。
案内の先生も到着し、他の寮で一緒に暮らす子達も集まった。
学校生活もだけど、寮での生活もとても楽しみ。
なんと言っても相部屋で同じ部屋の子はあのみつき!嬉しくてつい抱きついちゃった。
恥ずかしくてすぐ離れたけど、みつきもとても嬉しそうだった。
学校の方針で、素敵な女性になる為に、寮で生活する生徒は週に2度、相部屋の子と一緒に寮生の夕食を担当するらしい。朝食と昼食は学問に専念する為に寮父母の夫婦が作ってくれるみたいだけど。
私もみつきも料理は経験が無いから少し心配...。まあ、私たち以外にも当番の子が居るから大丈夫だと思うけどね。
先生から寮でのルールを教えてもらい、持ってきた荷物を部屋に運んで後は自由時間!
その日は夜遅くまでみつきとおしゃべりしながら入学式を楽しみに待った。