里依さんは勉強にも話術にも喧嘩にも強いです
作者 祈矢暁月 得点 : 0 投稿日時:
僕は宇野綾人。今日はこの高校の入学式。
ぼんやりしながら教室に入ると、クラスメイトの男子にいきなり突っかかっている女子がいた。
「もう一回言ってみろよこのもやしどもめが!」
入学式早々物騒なんだな、この人は。
そんなことを思いながら席に着くと、さっきの危ない女子が僕のほうに近づいてきた。
ぼ、僕…何かしたっけ!?
そんな風に思いながら歩いてくる彼女を見つめる。
見た目は、美少女といった感じだろうか。長い髪を黒いリボンで束ねたふわふわのポニーテール、綺麗な顔立ち。大きな目に宿る鋭い眼光はどこか冷たくて、それでいてどこかミステリアスだ。小柄で可愛い。
「おい、さっきからじろじろ何見てやがんだ」
僕は彼女にそう話しかけられた。返事が思いつかない…!
どどどど、どうしよう!?
「ぼ、僕は何も見ていません。ただそちらを見てぼーっとしていただけのようです」
ど、どうだ…!?
すると彼女は、僕をいぶかしげに見つめて、
「…へぇー。面白い。僕に堂々と反論できるような筋の通った人間を見るのは十六年の人生の中で二回目だ。僕は相川里依。そこの貴様、名乗りやがれ」
僕っ子なんだな、里依さん?は。
「ぼぼぼ僕は宇野綾人です別にもう何と呼んでいただいてもかまいませんので…!」
「ほぅ、じゃあ僕はお前をお前と呼ぶが、お前は僕の事を里依と呼べ。あと今日の放課後ちょっと用があるから僕に付き合え。話は以上だ」
「は、はい…!」
ふう、里依さんとの話はこれで済んだ。それじゃ僕は気楽に、今日を楽しむとしよう。
放課後。
「おい、お前。今からお前は僕について歩いてくればいいだけだ。きっと周りのもやしどもは道を開けるだろうから」
「は、はい」
そんなこんなで里依さんと僕は学校を出て、一般道に出た。
そして驚いた。
里依さんは道の真ん中を歩いている。周りの人たちは、注意するどころか道を譲っている…!これはいったいどういう状況なんだ!?
「あ、あの、里依さん。これってどういう状況なんですか」
すると里依さんは、
「あー、この辺の学生たちは僕が全員ボコったからね。みんな恐縮して道を譲るんだよ。実質、この辺一帯の中高は僕の統治下にあるってこと」
へ、へえ、そうなんだ…。
僕はやっぱりよくわからんと思いつつも、里依さんについていった。
すると、廃工場についた。
すると、木刀やら金属バットやらを持った男子ヤンキーが待ち受けていた。
「久しぶりだなぁ、里依。そっちはどうなんだぁ?」
「はぁー、またお前らか…。こっちはこっちで楽しくやってるから、ちょっかいかけてくんなよ…。」
「何だぁ!?お前らぁ、かかれぇ!」
その男の掛け声を合図に、武器を手にした男子生徒たちが僕たちに迫ってきた。
「全く、こいつらは本当に気が短けぇんだよな。面倒面倒…。」
里依さんはそうぼやくと、
「これ、持ってな」
といって僕にかばんを手渡すと、すごい速さで集団の中に突っ込んでいった。
「里依さん!?」
里依さんを取り囲んだ男子ヤンキーの壁を、僕はかたずをのんで見守っていた。
すると、
「うぉっ…!」
というような声がたくさん聞こえた。驚いてみると、そこには折り重なった倒れた男子たちでできた人間ピラミッドの上に立った里依さんがいた。
「全く、勝てねえのはわかってんだから、喧嘩吹っ掛けてくんなよな…。」
里依さんはあきれながら人間ピラミッドから飛び降りると、
「さあ、早く逃げようぜ。警察来ちゃうと僕今度こそ補導されちまう」
「え!?」
そんなこと本当にあるんだと思いつつも、夕暮れの中を二人走った。
里依さんは、僕を家まで送ってくれた。
「お前んとこの親御さんには、僕の事は内緒な。そんじゃまた明日」
「はい!」
この人は、ただのヤンキーじゃない。
気遣いのできる、人間性のあるヤンキーだ…!
僕はそんなことを考えながら、いつまでも笑顔で手を振っていた。
—里依さんは、勉強にも話術にも喧嘩にも強いです。