『 』の第2話 全3話で完結
『 』の第2話
作者 和葉 得点 : 0 投稿日時:
わたしは幸せではありません。初めて死にたいと思ってから十年が経ち、確実に死のうとしてから五年が経ちました。そしていまに至るまで、わたしは幸せではありません。
つい物語ではなく、筆者の本当を書いてしまいました。そしてこの先もわたしの経験と心情を書き連ねることをお許しください。決してこの文章を読むあなたに、同情を誘うため不幸を綴ろうとするのではありません。その反対にわたしは、不幸であったことに意味を見出そうとした先述者に少しばかりの反論と反証とを、大きな敵意をこめてしかし悠々と述べさせていただきます。この世を去った五年前のわたしへむけて、いま生きていないわたしへむけて……償いを添えて。
ときは十年前にさかのぼります。当時九歳になる私(以降はKとする)は、身体がかなり弱く起きることも難しいため日中寝たきりの生活をおくっていました。幼少時の事故が原因で生涯にわたる後遺症を負ったというわけです。もちろん学校に歩いて通うわけにもいかず、通学はもっぱら家政婦の唯さんに頼んで学校まで車で送ってもらい、そのあとは母親の雇った介護士の方に助けを借りて下校するといった具合でした。
Kは短いリボンのついた赤い髪紐がお気に入りで、肩まで伸びた栗色の横髪を左右にひとつずつまとめ、後ろの髪は垂らしていた。Kの姿格好はちょっと類がなく、肩幅は狭く腰のあたりはほっそりとしていて、異常に血色の悪い顔の、透き通るような青白さに、瞳の茶色い、かすかに隈のある目が夢み心地にまた多少おずおずと光っていた。彼女の生活はつねに車椅子を必要として、同級生たちのように外を駆け回ったりブランコに乗って遊んだりすることができなかった。
Kは放課後ひとり河川敷沿いの道を散歩するのが好きだった。学校からの帰り道、付き添いの介護士と別れてから河川敷に寄り道をして、家の絵を描いたりお花を摘んだりしながら夕焼けの沈む直前まで一人きりの時間を楽しんだ。
ある日、介護士と別れて河川敷についたKは身体の調子が良かったこともあり、いつもより遠くまで散歩することにした。両手で車椅子のタイヤを一生懸命に回して、気づけばかなり遠くまで来ていた。近くには夏の花に彩られたお花畑があって、甘い蜜の匂いが涼しい風にのって運ばれてきた。感動したKは知らない花に魅入って、その一輪を手で摘んでみた。あまりにも綺麗だと感じて、夢中になって隣にあった白い花にも手を伸ばそうとしたとき、となりに少しばかり年上の男の子が立っていることに気づいた。(続く………)