ひねくれ御曹司と京都弁後輩との穏やかな日常
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スレ主 ソラナキ 投稿日時:
日本に名だたる大企業・「UZE(ユーズ)」を経営する家系の三男として生まれた瑀瀬花守(うぜはなもり)は、ずっと焦がれていた幼馴染に想いを伝えられずに失恋した。
その傷を癒すために訪れたバーの帰り道、東京に似つかわしくない口調の——京都弁の少女・千代と出会う。
どうやら彼女は、家庭環境に厄介ごとを抱えているようで——それはそれとして色々あった結果、短いながらも一つ屋根の下で暮らすことになった二人(とついでに愉快な秘書)の、心の傷を癒す物語。
京都弁いいよね、みたいなそんな気持ちから書き出しました。
ルビについては気にしないでください。なろうのところからコピペしたやつなので。やっぱアルファポリスクソですね。重い。
プロローグ
いつも一緒だった。
向こうも僕のことが好きなんだろうと、そう思っていた。
「私ね、彼と付き合うことにしたの」
しかし、そんな彼女の言葉を聞いて、僕は。
自分の思い上がりを、自覚した。
——高校二年生、十七歳の春。
僕、瑀瀬《うぜ》花守《はなもり》は、生涯で初めて失恋《ざせつ》した。
/
先生から手渡された模試の結果発表用紙の一番上、そこに記載されていた「東大」「A」の文字を確認して、それをくしゃくしゃにしてポケットに突っ込む。
「……順当かな」
特に喜びも浮かばずに、僕は学校で適当に買ったハンバーガーを口に運んだ。
相変わらずの雑な味、でもこの味が僕は好きなのだと思う。繊細な味も好きだけど、大雑把な味もたまに食べたくなるものだから。
彼女——幼馴染の藤堂《とうどう》朱音《あかね》に恋人ができたという報告を受けて人知れず失恋した僕は、かと言って突然何ができるわけでもなく、いつも通りに過ごしていた。
海外に行く選択肢もあったけど、それはそれで露骨に過ぎると僕はそうしなかった。家の連中は海外に行った方がいいと騒々しいが、知るか。
大体|花匡《はなまさ》兄がいるんだから僕なんていなくても充分だろう。
(自己回答で満点だったから大丈夫だとは思ったけど、まさかここまで何も感じないとは思わなかった)
食べ終わったバーガーの包みをくしゃりと潰し、模試と一緒くたにポケットに入れる。どうせ毎日洗浄されるから少し汚したって誰も気にはしないだろう。
校門近くまで行くと、そこに一台の黒車が止まっているのが見える。周囲の視線を中々に集めていて、いつものことながら少々辟易した。
「花守様、迎えの車が来ております」
「寄りたいとこあるから別にいいよ」
おざなりに僕付きの秘書——普段は同級生として過ごしている柴田《しばた》に言いつける。
「しかし」
「別に何も起きやしないって。……お疲れ様、ちゃんと給料は払うから」
困った顔の運転手にはそう言いつつ、車の側を通り過ぎる。慌てて僕の側に来た柴田は、手帳を開いて口を開いた。
「花守様、勘弁してくださいよぉ……これ、あとで私がどやされるんです。前も油断してたら|花峰《はなみね》様に怒られたんですからね?」
「僕付きの秘書がいっちょまえに文句言うじゃないか」
「秘書だって人間ですよ!?」
その言葉に驚愕を張り付けて秘書を見る。お前、人間だったのか。
「もうやだ、この一族……人使い荒過ぎるし辞めようかな」
「昔君が瑀瀬のネットワークに侵入してとっ捕まったのを司法取引で解放してやったの誰?」
「花守様ですね畜生この柴田馬車馬の如く働きますとも! この優男風鬼畜野郎!!」
「めちゃくちゃ無礼だけど許してあげよう」
そもそも秘書に人権はないが、これでも花匡兄に比べたらマシな方だ。
花匡兄は自然に人を酷使するタイプだから、日々激務で疲れている|この男《柴田》もあちらの過労具合には敵わない。
そもそも秘書に人権はないけれど。
「使い捨てるとかないだけ感謝してね?」
「ええまあ、裏切らない限りは終身雇用とかとてもありがたいです……ただお金使う機会がそもそもないんですけどね」
「昔君が自分の給料全部ソシャゲにぶち込んで破産しかけた時」
「畜生申し訳ありませんでした天丼さまァ!!」
「天丼は天丼だけど僕は天丼じゃないからね?」
「人の忘れたい過去をえぐり抜いてくる主人にはこれくらいがちょうどいいんです」
「言うねぇ、今の花代《はなよ》姉さんだったら首飛んでたよ」
だからこそこの男を秘書にしたとも言えるのだが。だって面白いんだもの。
「花代様は花匡様とは別ベクトルで怖いので……正直こんな口叩いても許してくれるのはありがたいですよね」
「僕に突っ込んでくれる人なんて早々いないしね。僕を裏切らなければ許してあげる。君は優秀だから」
「はいはい、ありがとうございます。精一杯頑張らせてもらいますとも——で、花守様。以前申し付けられた仕事の件、大方終わりましたよ」
その言葉に、僕は軸足をくるりと回して路地裏に脚を進める。路上に放り出されていたプラ袋を、ローファーが踏み潰す感触がした。
「藤堂朱音ちゃんの彼氏である|倉本《くらもと》|優希《ゆうき》。歳は十八、大学一年生。容姿は上の中から上、成績は優秀までは行かず、しかし良好の範疇。運動は万能、高校時代はサッカー部でその気になれば大体のスポーツはできるものかと」
「……」
「性格は良好、SNSまで|ハッキングして《探りを入れて》みましたが不審な点は一切ありません。少なくとも遊びで付き合ってみた、なんてことはないものと思われます」
「……ぐぅ」
「やっぱりやめましょうよこれ、花守様にダメージが大きすぎます……!」
まるでハンマーで徹底的に叩いたガラスのようにちりぢりになりそうな心を抑えて、秘書に手を振る。
「大丈夫、大丈夫。僕は朱音の幼馴染だ。だから彼女の幸せを祈ることは当たり前だし可能な限り応援するのが親友としての……務めだから………」
「……瑀瀬の男にはきついでしょうに。はぁ〜……まあ、総評として、朱音ちゃんには相応しい相手だと言えるでしょう。ある意味乖離しすぎる花守様よりも良い相手かもしれません」
「……あのね、大丈夫とは言ったけど、君には遠慮というものがないの?」
「いやだって国内屈指の大企業を経営する一族の、それも直系の三男って、普通の人だと恐れ多すぎてどうにも……」
「ぐぅう……!」
遠慮のない言葉に少し泣きそうになる。訂正。結構泣きそうだ。
「……いいさ。僕は失恋したんだ。これ以上みっともなく執着するのは男として」
「お父様、お母様に告白して玉砕してでも土下座してチャンスもらったらしいですね」
「瑀瀬の男じゃなくて普通の、|一般的《ジェネラル》な男としてだよ! あとまだ瑀瀬に略奪愛した奴はいないだろ!」
「まあ、大体の場合絶対に逃がしませんからね……」
言い合いをしつつ路地裏から出て、大通りに出る。途中にあったゴミ箱にハンバーガーの包みと、模試の結果を放り投げた。
それが入ったのを薄い目で確認しつつ、柴田の膝を蹴たぐる。
途端膝を抱えて痛がる男に、僕は隠しもせずにくつくつと笑った。
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