まず、800字に収めろというのは、物語の主要部分を作者自身が把握しろという意味での文字数なので、プロットを作る場合は無理に800字に収める必要はないです。
おなじあらすじでも「既に完成品がある小説の要約」と「これから書く作品の概要」では話が違うので、モノがないのに無理に800字でまとまめる事は「作者が把握できてるか」という意味以外ではあんま意味がないです。
それで言えば、Kukuさんはご自身で物語の主旨をきちんと理解されていると思います。
次に物語ですが、大枠はニスティアが自由を手に入れる話としてまとまっていて、話として成立しているし、とても良くできていると思います。
AIの支配から逃れ、そのAIを破壊することで話が終わるので、読後感も悪くないと思うし、なにより「ちゃんと終わらせている」という点で新人賞としても合格ラインには達するプロットでしょう。
たぶん、ソコソコ書き慣れてる方かな。
ストーリー面で気になるところは2つ。
一つは、「白血病」が結局解決しておらず、主人公は行動しているがそれに対し報われるものが「自由を得る」という感覚的なものしか用意されていない、という事。
「自由」は一応ニスティアが中央塔から脱出した時点で得ており、終盤の「自由の素晴らしさを噛み締めた」は主人公がそう言ってるだけになっています。
例えば「中央塔から脱出し自由を得た」→「その自由は仮初のもので、まやかしだった」→「ティトを破壊し真の自由を得る」という流れならわかるけど、真ん中の「自由はまやかしだった」の部分が無いので、クライマックス、ないしカタルシスの盛り上がりがいまいちになりそうな気がする。
助言というより私個人の妄想だけど、アルバというキャラを消して、この役をストリクスにしたほうが良いのではないかなと思う。
ストリクスが元軍人という設定の、ティトの遠隔操作アンドロイド。中央塔から脱出したニスティアは、ティトにとって同じ「自由を求める者」なので興味があった。よって教育・観察のためにストリクスという存在をでっち上げ、ニスティアを保護する。ところがニスティアと暮らす6年の間に本当の意味での「自由」を知ったのはティトの方だった。そこで開発者の暗殺をニスティアに依頼する。
という感じ。
ラストの展開はほとんど変わらず、ストリクスもまたティトの支配から自由になり、ニスティアを助ける。という形でテーマの「自由」を押して行ける。ついでにティトの知識を使ってストリクスが白血病を治療する、としても良いし。
中央塔から脱出して自由を得たと思っていたけど、実際はティトの支配を受けて、開発者の暗殺のための教育をされていた、その現況のティトを破壊して真の自由を手に入れる。という流れ。
まあ、ストリクスの役柄が「ニスティアを保護する」「ニスティアを助ける」の2点でしか役立っておらず、物語として活躍する出番がほとんどないので、中盤は「主人公の会話相手」としてしか書けない、物語の一員になれてない、と感じた。
もう一つの気になる点は、中盤の「開発者の暗殺」が、結局のところ「アルバ=ティト」という事実が判明してしまえばラストへ行ける展開なので、実際書くことほとんど無いんじゃないかな、と感じる。
その「事実の判明」を妨害する要素が物理的にも心理的にも存在しないので、ただ事実を書くだけでスムーズに進行してしまう。障害を乗り越える過程がなさそう。
単純に考えれば、「AI技術者の暗殺依頼」「彼らはティトの開発者で、不審に思いアルバを探る」「アルバは遠隔操作アンドロイドだと判明する」の3シーンが書けりゃ要点は伝わるし、それ以上掘り下げる必要がないほど事態はシンプルなので、各シーン5000文字書いたとしても1.5万字ほどで中盤は書き終えちゃう。
自分の案を推すわけではないけど、前述した「ストリクス=アンドロイド案」だと、暗殺の展開と並行してストリクスの話を書けるので、中盤が充実すると思う。育ててくれたストリクスを疑いたくないので心理的障害も書けるし。
そんな感じで、別にこの案だけが正解じゃないので、何かしら「あともう一歩」な要素、「事実の判明」に対する障害を加えたほうが良いのではないかなと。
800字にまとめたため省略したとあるけど、よくある事ではあるんだけど、それで省略するのは決まって中盤。中盤で書かれてる内容は本編なので、そこが「省略できる」という時点でどうなのかなと個人的には思う。
構成的には、割と上手く三幕構成になっていて、前述した「白血病」の問題と「自由って言ってるだけ」の終盤が解決すれば上質なSFではないかなと思います。
全体的にも「主人公が自由を得る話」としてまとまってるし、内容的にも「暗殺の裏側と真実が見えてくる展開」としてよくできてる。
指摘はしたけど、そのまま書いてもたぶん楽しめる内容になるのではないかなと感じます。