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タイトル: 感動の俳句をどうぞ。の返信 投稿者: 一本勝負の悠

夢の世に葱を作りて寂しさよ

永田耕衣

「後ろにも髪脱け落つる山河かな」という耕衣の句がある。これだけで何かを感じるならそれでよろしいが、少々説明しておく。
 永田耕衣は印南野の一隅で育った。その記憶の最も奥に、こんな光景が凝固している。耕衣は七つ上の姉におんぶされていた。姉は村道で友達と話しあっていた。少年はふと姉の後ろ髪をもてあそんだ。そのときである、姉は「痛いじゃないか」と叱った。耕衣はそのときのことを思い出して、こう綴っている。「人間の後ろ姿と自分の孤独を、このときほど寂しく痛感したことはなかった。私は一瞬に人間自他の寂しさを知ったのだと思う」と。

  少年や六十年後の春の如し

 本書は自伝ではない。ぼくは一度、土方巽のアスベスト館で出会ったが、そうか、この初老の人が永田耕衣かとおもえばおもうほど、その人は耕衣になっていった。
 生まれは播州加古である。その後もずっと神戸界隈にいる。明治33年の生まれだから俳人としては最長老の一人になった。
行く牛の月に消え入る力かな
  ひとの田のしづかに水を落としけり
  物として我を夕焼染めにけり

 耕衣は老いてからだんだん凄まじい。そういう老人力というものは昔から数多いけれど、ぼくが接した範囲でも老人になって何でもないようなのはもともと何でもなかったわけで、たとえば野尻抱影、湯川秀樹、白川静、白井晟一、大岡昇平、野間宏‥‥みんな凄かった。
~後略

永田耕衣

耕衣自伝
沖積舎 1992

参考¶永田耕衣の句集や著作はコーベブックスでよく刊行されていた。『冷位』『一休・存在のエロチシズム』『鬼貫のすすき』などだ。全句集に近いものは『永田耕衣俳句集成』(沖積舎)だが、その後も同じ版元から『葱室』『人生』が続刊された。書も画も評判で、書画集『錯』(永田耕衣書画集刊行会)がある。本書は92歳のときの記念出版。

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